児頭骨盤不均衡と診断されたら…帝王切開となる条件とは?
妊娠中のどんどん大きくなる赤ちゃんと子宮を支えてくれているのが骨盤です。
いくつかの骨で構成されている骨盤は、普段はピッタリと閉じていますが、妊娠によるホルモンの変化で徐々に靭帯が緩み、出産を迎えると骨盤が開いて、赤ちゃんが産道を通って生まれてくるのです。
赤ちゃんは産道を通ってくるときに、何らかの原因によって骨盤で通過できなくなってしまい、「分娩が進まない」「胎児に負担がかかる」などの、児頭骨盤不均衡の問題が起こることがあります。
児頭骨盤不均衡は、出産の際になってから初めて分かるケースもあることから、その時になって慌てないためにも、原因や処置について知っておくと安心です。
児頭骨盤不均衡(じとうこつばんふきんこう)とは

児頭骨盤不均衡(CPD:Cephalopelvic Disproportion)とは、赤ちゃんの頭(児頭)の大きさとママの骨盤の大きさの釣り合いが取れていない状態のことをいいます。
赤ちゃんの頭は、直径が約9~10㎝まで成長する、産道を通過しにくい体の中で一番大きい部分です。そのため、物理的に赤ちゃんの頭が、ママの骨盤を通過することができないと予測される場合、経膣分娩が難しいと判断されます。
ただし、明らかに異常によって赤ちゃんの頭が大きい場合は、児頭骨盤不均衡でなく「巨頭症」など診断名が優先される場合も少なくありません。
また、同様にママの骨盤が極度に小さい場合や、何らかの理由で骨盤が変形している場合、「狭骨盤」と診断されることもあります。
児頭骨盤不均衡のリスクが高い妊婦さんのタイプ
ママの体形や妊娠中の子宮の様子を見ることで、事前に児頭骨盤不均衡のリスクを知ることも出来ます。児頭骨盤不均衡のリスクを高める要因には、主に次のようなものがあります。
ママの身長が150センチ以下
ママが145センチ以下の低身長の場合、骨盤が狭いことが予想されます。骨盤が極度に小さい場合は、狭骨盤と診断されるため、経膣出産が難しいと判断されます。
夫婦の身長差が大きい
ママが小柄で、さらに旦那さんが高身長の場合は、リスクが高くなります。赤ちゃんの骨格が旦那さんに似ている場合は、予想外に子宮の中で大きく成長することがあるのです。
赤ちゃんの頭の横幅が10センチ以上
超音波検査で計測されたBPD(児頭大横径)が10センチ以上は、赤ちゃんの頭はちょっと頭の大きめ。そのため、通常のママの骨盤の幅では、赤ちゃんが通りぬけることが難しいといえます。
お腹が下がらない

妊娠37週以降になっても、骨盤まで赤ちゃんの頭が下りてこない場合は、赤ちゃんの頭がママの骨盤に入ることができないことが考えられます。
赤ちゃんが下がってくると、産道が刺激されて出産準備の体勢に入るのですが、赤ちゃんが下りてこないと産道が柔らかくならないという問題が起こります。特に初産婦は、ただでさえ産道が窮屈なので注意が必要です。
尖腹(せんぷく)・懸垂腹(けんすいふく)
お腹が出っ張っている場合は尖腹、お腹が前方に下がっている場合は懸垂腹といいます。骨盤内が狭いせいで、赤ちゃんの頭が骨盤に引っ掛かった状態で妊娠が進むことで、尖腹や懸垂腹が起こりやすくなるのです。
赤ちゃんの頭の位置が定まらない

出産間近のお腹が下がる時期になっても、赤ちゃんの頭が骨盤の中に固定されないと、赤ちゃんの頭が骨盤の中に入れずに入口部分で浮いている状態だと考えられます。
内診の際に、赤ちゃんの頭に簡単に触れることができれば下がってきていますが、赤ちゃんの頭が子宮口から遠く、指で押して浮いている感じがする場合、位置が定まっていないことが分かるのです。
子宮底長が36センチ以上
子宮底長とは、子宮のふくらみを数値化したもので、妊娠10ヶ月で32~34センチが平均値です。特に、子宮底長が38センチ以上の場合は巨大児が疑われるため、骨盤に対して赤ちゃんの頭が大きすぎる可能性があります。
過去の出産が原因不明の難産だった
前回の出産で、分娩につながる有効陣痛が起こっていたにもかかわらず、「出産が進まなかった」「出産までに時間がかかった」という場合、児頭骨盤不均衡が原因で難産となった可能性が高いと考えられます。
児頭骨盤不均衡の診断方法

妊婦健診の際に、超音波検査などで児頭骨盤不均衡が疑われる場合は、エックス線による骨盤計測を行うことで、赤ちゃんの頭がママの骨盤を通過できるかどうかを予測します。
事前に児頭骨盤不均衡を予測することが、難産の予防や安全な出産方法の選択につながるのです。
成熟した赤ちゃんの頭と骨盤を比較しなくてはいけないため、検査は妊娠後期の38週以降に行われるのが一般的ですが、場合によってはもっと早い時期に行うこともあります。
骨盤は体の中でも大きな骨で立体的なことから、角度を変えて撮影し、自然分娩できるか判断することが大切です。骨盤の計測方法には、次の3つがあります。
1骨盤側面撮影法(グスマン法)

横になった側臥位で上から撮影する方法です。そのため、骨盤を横から見た画像を撮影できます。この検査方法には、次のようなメリットがあります。
反対に、横幅が分からないというデメリットもあります。
2骨盤入口面撮影法(マルチウス法)
上半身を45度起こして座った半座位で上から撮影する方法で、骨盤を上から見た画像を撮影できます。
妊婦さんにとっては体位がつらく、画像も不鮮明なのですが、この検査方法では、骨盤の入口面の形が分かりやすいため、骨盤と赤ちゃんの頭の大きさの比較がしやすいのが特徴です。
児頭骨盤の比較はできますが、赤ちゃんの頭がどこまで下がっているのか分かりにくいです。
3骨盤正面撮影法(カルチャーサスマン法)

仰向けになった仰臥位で上から撮影する方法で、妊婦さんが楽な姿勢で、骨盤を正面から見た画像を撮影できます。
骨盤の入口や出口の横幅が分かる反面、計測値に誤差が生じやすいという欠点があります。実際の検査では、グスマン法とマルチウス法を組み合せて行われるのが一般的なため、カルチャーサスマン法はあまり行われていません。
エックス線CTによる被爆の心配はないの?
被ばく線量が100mGy以下の場合は、胎児への影響は考えられません。骨盤計測では、1回の検査の被ばく線量が100mGyを超えることはないため、安心して検査を受けられます。
帝王切開になるケースとは?
児頭骨盤不均衡によって、赤ちゃんの頭がママの骨盤を通過できないと判断された場合、帝王切開が選択されます。帝王切開は、いつどのようなタイミングで決まるのでしょう?
予定帝王切開と緊急帝王切開の2つのケースについてご説明します。
予定帝王切開になるケース

ママの胎盤と赤ちゃんの頭の大きさを計測した結果、物理的に赤ちゃんの頭が骨盤を通過するのが難しいと判断された場合、予定帝王切開となります。
Seitz法(ザイツ法)という触診で、赤ちゃんの頭がママの恥骨の結合部分よりも、下にあるかどうかで児頭骨盤不均衡を予測し、最終的にはエックス線骨盤計測で確認をして予定帝王切開を決めます。
予定帝王切開の場合、手術を迎えるママはドキドキした気持ちで、その日を迎えなくてはいけないというデメリットがありますが、あらかじめ手術日が決められているため、家族などの予定が立てやすいというメリットもあります。
緊急帝王切開になるケース
骨盤計測によって経膣分娩が可能と判断されたケースでも、赤ちゃんの頭が骨盤に入る角度や、骨盤を通過する際の赤ちゃんの頭の変形によって、スムーズに胎盤を通過できない場合があります。
分娩を続けると、赤ちゃんの低酸素状態や頭の変形に引き起こすほか、ママの体力の消耗などにつながることから、自然分娩を続けるのが難しいと判断された場合は、緊急帝王切開に切り替わる可能性があります。
また、児頭骨盤不均衡の判断が難しく、自然分娩を試みる場合は、あらかじめ何かあった時に対応できるように手術室やNICUなどの、設備が整った大きな病院で出産するように紹介されることもあります。