オリーブオイルとトランス脂肪酸の基礎知識
健康によい植物性の油として、まず名前のあがる「オリーブオイル」。育ち盛りの子どもがいるご家庭や、健康を意識するご家庭でなじみ深い油の一つではないでしょうか。そのオリーブオイルにも「トランス脂肪酸」がわずかに含まれることがある、と聞くと不安になるかもしれません。
先に結論をお伝えすると、過度に心配する必要はありません。厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、日本人の大多数はトランス脂肪酸に関する世界保健機関(WHO)の目標(総エネルギーの1%未満)を下回っており、その健康への影響は飽和脂肪酸より小さいと考えられる、とされています。ただし、不可欠な栄養素ではなく、積極的に摂る必要もない、というのが公的な見解です。正しく知って、上手に付き合っていきましょう。
トランス脂肪酸とは何?
脂肪酸には、炭素の二重結合がない「飽和脂肪酸」と、二重結合がある「不飽和脂肪酸」があります。このうち不飽和脂肪酸は、さらに「トランス型」と「シス型」に分けられます。
トランスは「対角線上の」という意味で、二重結合をはさんで水素が対角線上についているもの。シスは「同じ側に」という意味で、水素が同じ方向についているものを指します。
天然の食品にトランス型の不飽和脂肪酸はほとんど含まれません。ただし、牛や羊のように食べたものを反すう(何度も咀嚼)する動物の肉や乳には、胃の中の微生物のはたらきで、ごく微量の天然由来トランス脂肪酸が含まれます。
まずは脂肪酸の種類を、ざっくり整理しておきましょう。
| 脂肪酸の種類 | 常温での状態 | 多く含む食品の例 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 飽和脂肪酸 | 固体になりやすい | バター、ラード、肉の脂身 | 摂りすぎるとLDLコレステロールを増やす傾向 |
| 一価不飽和脂肪酸(オメガ9) | 液体 | オリーブオイル、なたね油 | オレイン酸が代表で、酸化に比較的強い |
| 多価不飽和脂肪酸(オメガ6・オメガ3) | 液体 | ごま油、えごま油、魚油 | 体内で作れない必須脂肪酸を含む |
| トランス脂肪酸 | 主に加工の過程で生じる | マーガリンやショートニングを使った食品 | 必須栄養素ではなく、摂りすぎに注意 |
トランス脂肪酸が体に与える影響
脂質そのものは、人が生きていくうえで欠かせない栄養素です。ただし、種類を問わず大量に摂ればエネルギー過多になり、肥満などの一因になることがあります。
トランス脂肪酸については、摂りすぎるとLDL(悪玉)コレステロールが増え、HDL(善玉)コレステロールが減る傾向があり、冠動脈疾患のリスクとの関連が指摘されています。こうした背景から、WHOは飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を、植物由来の不飽和脂肪酸や食物繊維を含む食品などに置き換えていくことをすすめています。
とはいえ、必要以上に怖がることはありません。前述のとおり、厚生労働省は「日本人の大多数はWHOの目標(1%エネルギー未満)を下回っており、影響は飽和脂肪酸より小さい」としています。一方で「不可欠な栄養素ではなく、摂取量はできるだけ低く抑えることが望ましい」「脂質に偏った食事をしている人は留意が必要」とも示しています。つまり、神経質になりすぎず、油や加工食品にかたよらないことが大切です。
公的機関が示すトランス脂肪酸の目安
WHOは、工業由来および反すう動物由来のトランス脂肪酸からとるエネルギーを、総エネルギーの1%未満にすることを目標としています。厚生労働省も同じく「1%エネルギー未満、できるだけ低く」が望ましいとしています。日本人の平均摂取量は、この目安を下回っているとされています。
トランス脂肪酸はどのような食品に含まれる?
牛肉・羊肉や乳製品には天然のトランス脂肪酸が含まれますが、ごく微量のため、農林水産省も神経質になる必要はないとしています。気にかけたいのは、食品の製造過程で生じるトランス脂肪酸のほうです。加工によって生じるものは、天然由来に比べて含有量が多くなることがあります。
水素添加で生じるトランス脂肪酸
常温で液体の油脂を、扱いやすいように固形にする加工技術を「水素添加」と呼びます。たとえば植物油は常温では液体ですが、これを原料につくられるマーガリンは、水素添加によって固形になっています。この水素添加の工程で、トランス脂肪酸が多く生じることがあります。
水素添加技術が使われる主な食品
マーガリン、ショートニング、スプレッド、またこれらを使って調理した揚げ物、洋菓子、パンなど
高温処理を行った食用油
ラードや牛脂などの動物性油は体に良くないイメージを持たれがちですが、植物油も精製方法によってはトランス脂肪酸を含むことがあります。
植物油を精製する過程では、好ましくないにおいを取り除くために高温処理(脱臭)を行うことがあり、このとき油に含まれるシス型不飽和脂肪酸の一部がトランス型に変化します。
高温処理されている食用油の例
サラダ油などの精製した食用油、精製方法を確認しても「加工していない」と明記されていない食用油
ただし、精製のときに生じるトランス脂肪酸は、水素添加で生じる量と比べるとごくわずかです。家庭で過度に心配する必要はありませんが、揚げ物や洋菓子、加工食品にかたよらず、いろいろな食材をバランスよく取り入れることを心がけましょう。なお、持病があって医師や管理栄養士から脂質などの食事指導を受けている場合は、自己判断せず、かかりつけの専門家に相談しながら進めると安心です。
オリーブオイルにトランス脂肪酸は入っている?
オリーブオイルには、精製方法によっていくつかの種類があります。果実を搾っただけの「エクストラバージンオリーブオイル」、精製した「精製オリーブオイル」、両者をブレンドした「ピュアオリーブオイル」などが一般的です。呼び方や分類はメーカーによって異なることもあります。
オリーブオイルのトランス脂肪酸はごく微量
オリーブオイルは、オメガ9に分類されるオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)を多く含む油で、文部科学省「日本食品標準成分表」によると、脂肪酸のうち約70〜80%がオレイン酸です。オレイン酸は酸化に比較的強いため、加熱調理にも使いやすいのが特徴です。
このオリーブオイルも、高温・高圧で精製する場合にはトランス脂肪酸がわずかに生じることがあります。とはいえ、その量は水素添加で生じるものと比べてごく少量です。とくにエクストラバージンオリーブオイルは、加圧・加熱処理をせずに搾るため、トランス脂肪酸をほとんど含まないものもあります。
選ぶときの目安として、生のままサラダや料理の仕上げに使うならエクストラバージンを、加熱調理に使うなら好みや価格に合わせて選ぶと無理がありません。開封後は時間とともに酸化が進むため、早めに使い切れる量を選ぶのもポイントです。トランス脂肪酸を過度に心配するより、油の種類や使い方をバランスよく整えることが、家族の食生活を健やかに保つ近道になります。



