赤ちゃんが拳を口に入れているとき、多くの場合はやめさせる必要はありません。自分の手を口で確かめている、発達の途中の姿だからです。始まるのは生後1ヶ月から3ヶ月ごろ、落ち着いていくのは生後6ヶ月前後という子が多いようです。
赤ちゃんは、一般的に指を口に入れるのが好きで、親指を吸う子、中指と薬指の2本の指を吸う子など、お気に入りの指しゃぶりのやり方を持っていて、その様子はとてもかわいらしく見えますね。
ところが、中には拳ごと口の中に入れてしまうという、豪快な赤ちゃんもいます。口を大きくあけて、手にかぶりついている我が子の姿を見ると、「この子大丈夫かしら…」と不安になる方もいらっしゃるかもしれません。
ここでは、拳をしゃぶる理由と時期を中心に、場面ごとのサインの読み方、激しいときに何が起きているのか、月齢が進んでも続くときの考え方まで順に見ていきます。
こぶししゃぶりとは?拳をしゃぶる原因は?
こぶししゃぶりとは、赤ちゃんがグーにしたげんこつを口の中に入れて、チュパチュパ吸ったりペロペロなめたりする行動で、「げんこつしゃぶり」や「手しゃぶり」とも呼ばれます。
こぶししゃぶりに夢中になっている赤ちゃんを見ると、「お腹がすいているの?」と気になる方は多いのではないでしょうか。しかし、この行動は空腹だけではなく、主に次のような発達上の理由があります。
手と口の協調性を高めて遊んでいる
赤ちゃんは、生後2ヶ月くらいになると、徐々に自分の周囲や体に興味を持ちはじめます。特に、自分の体は最も身近な存在です。
こぶししゃぶりのほか、手を見つめるハンドリガード(見つめ)や手足をバタバタするなどして、自分の体のパーツや機能を確認しています。こぶししゃぶりは、「手」という自分の身体の一部を、好奇心をもって「口」で確認する行動であり、この時期の重要な発達段階です。
赤ちゃんは何でも気になるものがあると、口の中に入れて確かめるという探求心(口による探索行動)があるため、ついついパクッと手を口の中に入れてしまうのです。
ここで押さえておきたいのは、口はこの時期の赤ちゃんにとって最も感覚が鋭い場所だということです。生まれてすぐの赤ちゃんは、目でものを見て理解する力よりも、口で感じ取る力のほうが先に育っています。指先で「ざらざら」「つるつる」を判別できるようになるのは、もっとあとです。だから、手のかたちや大きさ、指の関節の凹凸を知ろうとするときに、赤ちゃんは最も精度の高いセンサーである口を使います。
大人が新しく買った小物を手のなかで転がして質感を確かめるのと、原理としては同じことをしています。ただ、使っている器官が指先ではなく口なのです。「なぜ手を触るのではなく、口に入れるのか」という疑問には、この順番の違いが答えになります。
原始反射と自己刺激による安心感
赤ちゃんには、唇や口の周りに触れたものをくわえようとする「口唇探索反射(口唇追いかけ反射)」や、口の中に入ってきたものに吸い付く「吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)」といった原始反射が生まれつき備わっています。何かの拍子に拳が口に触れると、これらの反射で拳を口に入れることがあります。
そして、たまたま口の中に入れた拳を吸ってみたら気持ちがよく、吸うことによって安心感を得たり、気持ちを落ち着けようとする自己調整の行動として、何度も繰り返すことがあります。
この「自分で自分を落ち着かせる」という働きは、赤ちゃんが最初に手に入れる自己コントロールの手段です。生まれたばかりの赤ちゃんは、不快な気持ちを自分で立て直す方法をほとんど持っていません。抱っこしてもらう、揺らしてもらう、声をかけてもらうという、誰かの手を借りる方法しかない状態です。
そこに「吸うと落ち着く」という自前の方法が加わります。これは赤ちゃんにとって大きな前進です。誰かを呼ばなくても、自分でひとまず気持ちを整えられるようになったということですから、むしろ喜んでよい変化と受け取れます。赤ちゃんがこぶししゃぶりをしているときは、「ホッとしたい」「気持ちを落ち着けたい」と感じている場面が多いので、無理に止めずに優しく見守ってあげてください。
口と手の感覚を学習している
こぶししゃぶりでは、手も口も、どちらも赤ちゃんの体の一部なので、吸う感覚と吸われる感覚の両方を感じている場合があります。これは、自分の身体への気づきを深め、口と手という二つの感覚器官の連携(協調)を学んでいるということです。
この「両方から同時に感じる」という体験には、特別な意味があります。おもちゃをしゃぶったときは、口だけが感じます。ところが自分の手をしゃぶると、口が「手を吸っている」と感じ、同時に手が「口に吸われている」と感じます。ひとつの動作で2つの感覚が同時に返ってくるのです。
この同時性が、赤ちゃんに「これは自分の体だ」という手がかりを与えます。ガラガラをしゃぶっても手からは何も返ってきませんが、自分の拳なら返ってくる。この違いを何度も確かめることで、赤ちゃんは自分の体の輪郭と、それ以外のものとの境界線を少しずつ引いていきます。「自分」という感覚が生まれる最初の一歩が、拳しゃぶりのなかで起きているわけです。
手持ちぶさたのときにも始まる
発達の話とは別に、単純にすることがないときにも拳しゃぶりは始まります。目に入るものがなく、音もしない、抱っこもされていない。そういう状況で、赤ちゃんが手を伸ばして届く範囲にあるものは自分の手だけです。
この見方ができると、日中の様子が少し読めるようになります。ベビーベッドにひとりで寝かせている時間に急に始まる、目の前のメリーが止まったあとに始まる、といったパターンがあれば、退屈が引き金になっている可能性があります。この場合はモビールを揺らす、声をかける、抱っこして景色を変えるだけで、拳から手が離れることがあります。
こぶししゃぶりは何のサイン?4つの場面で見分ける
「拳をしゃぶっている」という同じ動作でも、そのときの赤ちゃんの状態はいくつかに分かれます。どれなのかを読み取れると、次に何をすればいいかが決まります。
お腹がすいているサイン
授乳から時間が経っているときの拳しゃぶりは、お腹がすいてきた合図であることが多いようです。この場合、拳しゃぶりだけで終わらず、ほかの動きが一緒に出てきます。
顔を左右に振って何かを探すような動き、口をパクパクと開け閉めする動き、そして舌を出す動き。これらが拳しゃぶりと重なっていたら、授乳のタイミングと考えてよさそうです。
大事なのは、泣き出す前にこの段階で気づけると授乳が楽になるという点です。大声で泣いてしまうと、赤ちゃんは興奮して上手に吸えなくなることがあります。拳しゃぶりが始まった時点で声をかけて授乳の準備に入れれば、落ち着いた状態で始められます。
眠くなってきたサイン
授乳から間もないのに拳をしゃぶり始め、動きがゆっくりになっているときは、眠気のほうかもしれません。見分ける手がかりは吸う勢いです。
お腹がすいているときの拳しゃぶりは、勢いがあって音も大きく、体全体に力が入っています。眠いときは逆で、ゆっくり、ぼんやりとしゃぶっていて、まぶたが重そうになり、途中で手が口から落ちることもあります。目をこすったり、あくびが混ざったりするのも眠気の合図です。
この状態を見つけたら、部屋を暗くして静かにする、抱っこして揺らすなど、眠りに向かう手助けをすると寝つきやすくなります。
手持ちぶさたのサイン
機嫌がよく、周囲を見回しながら、手が空いたときにしゃぶっている。これは退屈の合図です。声をかければこちらを見る、おもちゃを見せれば手を伸ばす、といった反応があります。
この場合は、拳しゃぶりを止める必要は特にありません。ただ、遊びに誘えばそちらに移っていきます。「やめさせる」ではなく「別のものを差し出す」という関わり方になります。
気持ちを落ち着けたいサイン
刺激が多かったあと、初めての場所に行ったあと、大きな音を聞いたあとなどに始まる拳しゃぶりは、気持ちを整えようとしている場面です。
このときは、止めないことが最善の対応になります。赤ちゃんが自力で立て直そうとしているところなので、そこから手段を取り上げると、代わりに泣くしかなくなってしまいます。抱っこして背中をゆっくりなでながら、しゃぶるのはそのままにさせておくのが穏やかな進め方です。
4つの場面を見分けるための観察のポイント
その場で判断しやすいように、手がかりを並べておきます。
| 状態 | 吸う勢い | 一緒に出るしぐさ | してあげたいこと |
|---|---|---|---|
| お腹がすいている | 強い、音が大きい | 顔を左右に振る、口を開け閉めする、舌を出す | 泣き出す前に授乳の準備に入る |
| 眠くなってきた | ゆっくり、弱い | あくび、目をこする、まぶたが重い | 部屋を暗くして静かにする、抱っこで揺らす |
| 手持ちぶさた | 軽い、断続的 | 周囲を見回す、声かけに反応する | おもちゃを見せる、抱っこして景色を変える |
| 落ち着きたい | 一定、集中している | 視線が定まらない、体をこわばらせている | 止めずに、抱っこして背中をなでる |
最初から見分けようとすると難しく感じますが、授乳からどれくらい経っているかを先に思い出すと、かなり絞り込めます。授乳直後なら空腹ではないので、眠気か退屈か落ち着きたいかの3つに減ります。
こぶししゃぶりはいつからいつまで
早い赤ちゃんだと、生後2~3ヶ月くらいでこぶししゃぶりを始める場合もあります。この時期に始めるのは、手の動きが自分の意思でコントロールできるようになり始めるなど、体の発達に関係していると考えられています。
一般的に、赤ちゃんが自分の体に興味を持ちはじめるのは生後2ヶ月くらいといわれており、ハンドリガードやこぶししゃぶりをはじめるのもこの時期にあたります。
さらに、生後2ヶ月前後になると、何らかの刺激を受けることによって同じ行動を繰り返す「循環反応」が見られるようになるため、こぶししゃぶりで口や手に受ける刺激を何度も繰り返すことがあります。
こぶししゃぶりが落ち着いてくるのは、だいたい生後6ヶ月くらいという子が多いようです。吸うための反射がこの時期にかけて弱まっていくほか、離乳食をはじめる生後5~6ヶ月になると食べ物に興味を持ちはじめるため、口の役割が「吸う」から「噛む・食べる」へと移っていくのに伴い、自然と回数が減っていきます。
生後1ヶ月ごろ:反射が主役の時期
生後1ヶ月の赤ちゃんも拳を口に入れることがありますが、この時期のものは自分から狙って入れているわけではないことがほとんどです。
まだ手を自由に動かせないので、腕を振ったときにたまたま拳が顔に当たります。そこで口の周りに触れたものをくわえようとする反射が働いて、口に入る。狙って運んでいるのではなく、当たったから吸っている、という順番です。
そのため、生後1ヶ月ごろの拳しゃぶりには次のような特徴があります。
- 手を口に持っていくまでに時間がかかり、途中で外れることが多い
- 片方だけでなく、どちらの手も当たった側から口に入る
- タオルや服の袖など、たまたま口に触れたものも同じように吸おうとする
ここで「まだ上手にできない」と心配になる必要はありません。この段落を通り抜けることが、次の段階の準備になっています。反射で何度も口に手が入る経験を積むうちに、「手を動かすと口に届く」という関係が体に染み込んでいきます。
生後2~3ヶ月ごろ:自分から口に運ぶようになる
ここが大きな変わり目です。反射で偶然入っていた手を、赤ちゃんが自分の意思で口に運ぶようになります。
見ていると違いがわかります。手が顔に当たるのを待つのではなく、腕を曲げて口のほうへ持っていく動きになるのです。視線が自分の手を追うようになり、目で手を確かめてから口に入れる順番に変わります。このころに、手をじっと見つめるハンドリガードも一緒に出てくることが多いようです。
拳しゃぶりが「激しくなった」と感じるのは、この時期が最も多いところです。狙って運べるようになった分、回数が一気に増えるからです。できるようになったことを繰り返し試している段階だと考えると、見え方が変わってきます。
生後4~5ヶ月ごろ:手が外の世界に伸びていく
目で見たものを掴めるようになると、赤ちゃんの手の行き先が変わります。自分の手よりも、目の前のおもちゃのほうが面白くなるのです。
ガラガラを掴んで振る、布をひっぱる、自分の足を掴む。手が外の世界に向かうにつれて、拳を口に入れる回数は自然に減っていきます。ただしこの時期は、掴んだおもちゃをそのまま口に入れる行動が増えます。しゃぶる対象が拳からおもちゃに移った、という移り方をする子もいます。
ここで注意しておきたいのは、拳しゃぶりが減ったからといってまったくしなくなるわけではないことです。眠いとき、疲れたときには戻ってきます。減ったり戻ったりを繰り返しながら、全体としては下がっていく、という動き方をします。
生後6ヶ月ごろ:口の仕事が「食べる」に変わる
離乳食が始まると、口の使い方が大きく変わります。吸う動きだけでなく、舌で押しつぶす、上下の唇で挟んで取り込むといった新しい動きを覚えていきます。
この時期になると、拳しゃぶりの位置づけも変わります。「手を確かめる道具」としての役目は済み、残るのは気持ちを落ち着けたいときの手段としての役割です。だから、日中の遊びの時間には見られなくなり、眠る前や不安なときだけ出てくるという形に落ち着いていく子が多いようです。
赤ちゃんの循環反応とは?(ピアジェの発達段階より)
赤ちゃんが発達段階で、特定の行動を繰り返し行うことを循環反応といいます。これは、スイスの心理学者ピアジェが提唱した、感覚運動期における学習のしくみです。感覚運動期は生まれてから2歳ごろまでの時期を指し、いくつかの段階に分けて説明されます。そのうち循環反応と呼ばれるものは、次の3つです。
第一次循環反応期
生後1~4ヶ月にみられる反応で、「指しゃぶり」や「舌をペロペロする」など、偶然できた自分の体を使った心地よい行動を繰り返すのが特徴です。
この時期の赤ちゃんは、視界に入るものがまだぼんやりとしていて、遠くのものよりも自分の体のほうに意識が向いています。そのため、自分の体を対象とした行動が多く見られます。こぶししゃぶりは、まさにこの第一次循環反応の代表例にあたります。
第二次循環反応期
生後4~8ヶ月にみられる反応で、「ガラガラを振る」「おもちゃを掴んで投げる」など、物や環境に対して影響を与える行動を繰り返して行います。
この時期の赤ちゃんは手足の動きが活発になり、目で見たものを上手に掴むことができるようになるため、「これをすると音が鳴る」といった、自己と外界との関係を学習していると考えられています。関心が自分の体から外のものへ移っていくので、拳しゃぶりの回数が減っていくのもこの段階と重なります。
なお、生後8ヶ月から1歳ごろは、この第二次循環反応で身につけた動きを組み合わせて使うようになる段階とされています。布をめくってから下のおもちゃを取る、といったように、目的に向かって2つ以上の動作をつなげられるようになる時期です。
第三次循環反応期
1歳前後から1歳半ごろにかけてみられる反応で、「物を落とす」「壁にぶつける」などの行動を繰り返すことで、音や形の変化などのさまざまな反応を試行錯誤する行動が見られるようになります。
例えば、高いところからおもちゃを落としてみたり、ボールを壁に投げつけたりして、投げた時にどんな音がするのか、どんな風に転がるのかを観察しながら、目的達成のために複数の行動パターンを試すようになります。同じ動作を繰り返すのではなく、少しずつ条件を変えて結果の違いを試すのがこの段階の特徴です。
これらの月齢の区切りは、研究者によって示し方に幅があります。お子さんが区切りどおりに進んでいなくても、順番として「自分の体を試す」から「物に働きかける」へ、そして「条件を変えて試す」へと関心が広がっていく流れを知っておくと、いま何をしているところなのかを見立てる手がかりになります。
こぶししゃぶりが激しいとき、赤ちゃんに起きていること
「うちの子の拳しゃぶりは激しすぎるのでは」という心配は、よく聞かれるところです。激しく見えるときには、いくつかの背景が考えられます。
拳ごと入れる子と、指だけの子の違い
指を1本、2本だけ吸う子と、拳ごと口に入れる子がいます。この違いは、多くの場合指を選り分ける力がまだ育っていないか、育ってきたかの差です。
生まれて間もない赤ちゃんの手は、握った形が基本です。指を1本だけ伸ばすには、他の指を曲げたまま1本だけ動かすという、かなり細かい調整が必要です。これができるようになるまでは、拳ごとしか口に入れられません。
つまり、拳ごと入れているのは時期の問題であることが多いのです。月齢が進んで指を分けて動かせるようになると、親指だけ、人差し指だけといった形に変わっていく子もいます。豪快に見えても、発達の順番としては自然な姿です。
吸う勢いが強い、音が大きいとき
チュパチュパという音が大きく、勢いよく吸っているときは、赤ちゃんがその動作に集中している状態です。お腹がすいているか、あるいは強く落ち着きたい気持ちがあるかのどちらかが多いようです。
この場合は、まず授乳からの時間を確認します。時間が経っているなら授乳へ、そうでなければ抱っこして環境を静かにする方向に切り替えると落ち着くことがあります。
勢いの強さそのものを気にする必要はありません。赤ちゃんの吸う力は本来かなり強いものです。勢いは「困っている度合い」ではなく「集中している度合い」と読むほうが、次にすることが決まりやすくなります。
よだれで袖まで濡れてしまうとき
激しくしゃぶると、よだれの量も増えます。手だけでなく袖口まで濡れてしまい、着替えの回数が増えるという困りごとがよく出てきます。
この場合に効くのは、拳しゃぶりを減らすことではなく、濡れても困らない状態を作っておくことです。
- 袖口が細めのものを選び、めくり上げておく
- スタイを首元だけでなく、少し広めのものにする
- ガーゼを手元に何枚か置いて、こまめに軽く押さえる
- 抱っこ紐や布団カバーに、洗い替えを1枚多く用意しておく
拳しゃぶりが落ち着くまでの数ヶ月の話なので、この時期だけの割り切った対応をしておくほうが気持ちも楽になります。
泣きながらしゃぶるとき
元記事でも触れられているように、しゃぶりながら泣いたり怒ったりする赤ちゃんがいます。この場面の背景には、思いどおりにいかないもどかしさがあります。
やりたい動きははっきりしているのに、腕がその通りに動かない。口に入れたはずの拳がすぐ外れてしまう。この「思っていることと、できることのずれ」が、赤ちゃんにとっては相当な不満です。手を伸ばす練習をしている赤ちゃんが、おもちゃに届かなくて怒るのと同じ構図です。
こぶししゃぶりをしながら泣くのはなぜ?
こぶししゃぶりをしながら泣く赤ちゃんや怒る赤ちゃんがいます。慣れないうちは「思うように手を動かせない」「上手くしゃぶることができない」という理由から、イライラして泣いたり、怒ったりすることがありますが、赤ちゃんは赤ちゃんなりに試行錯誤し、運動機能を習得しようとしている段階です。温かく見守ることも大切です。
見守るだけでなく、少し手を添えるという関わり方もできます。赤ちゃんの手をそっと支えて口元に近づけてあげると、届いたことで気持ちが収まることがあります。ただし毎回手伝ってしまうと自分で試す機会が減るので、泣きが強くなったときだけという使い方がちょうどよいところです。
こぶししゃぶりで利き手はわかるの?
「いつも右手ばかりしゃぶっているから、この子は右利きかしら」と考える方は少なくありません。ただ、乳児期の拳しゃぶりから利き手を判断するのは難しいようです。
どちらの手を使うかは、姿勢で決まっていることが多い
生後数ヶ月の赤ちゃんは、頭をまっすぐに保つのがまだ難しく、寝ているとき顔がどちらかに向いていることが多くなります。顔が向いた側の手は視界に入りやすく、口にも近い位置にあります。結果として、顔が向きやすい側の手をしゃぶる回数が増えます。
つまり、片方の手ばかりしゃぶっているのは、その手が使いやすい位置にあったから、という説明で足りることが多いのです。抱っこの向きや、ベビーベッドの置き場所によっても変わってきます。試しに寝かせる向きを変えてみると、しゃぶる手が入れ替わることもあります。
利き手がはっきりしてくるのは、もっと先
スプーンをどちらの手で持つか、クレヨンをどちらで握るか。こうした形で利き手が定まってくるのは3歳から4歳ごろとされることが多く、それまでは両方の手を場面ごとに使い分ける時期が続きます。
1歳を過ぎてお絵かきをするようになっても、右で描いたり左で描いたりする子は珍しくありません。乳児期の拳しゃぶりの手と、その後の利き手が一致することもありますが、それが理由になっているとまでは言えないようです。
気になるのは自然なことですが、この時期に無理に持ち替えさせる必要はありません。どちらの手も使う経験を重ねること自体が、両手を協調させて使う力につながっていきます。
こぶししゃぶりをやめさせるには?
赤ちゃんのこぶししゃぶりは、遊びである一方で、心を落ち着かせるための欠かせない手段でもあります。そのため、無理にこぶししゃぶりをやめさせようとすると、逆に赤ちゃんにストレスを与えてしまう恐れがあります。
こぶししゃぶり以外の楽しい遊びやおもちゃ、または心を落ち着かせるための代わりのものが見つかれば、自然とこぶししゃぶりはしなくなります。ほかのことに興味を持たせながら、発達に合わせて自然に移行できるようサポートしていきましょう。
やめさせる前に確認したい3つのこと
やめさせたいと感じたとき、その理由を一度整理してみると判断しやすくなります。
- 困っているのは誰か。赤ちゃんが機嫌よくしゃぶっているなら、困っているのは見ている側だけかもしれません。その場合は、止める理由が薄くなります
- いつしているか。眠る前だけなら、眠るための手段として働いているので、取り上げると寝つきに影響します。日中の遊びの時間なら、別の遊びに誘えます
- 月齢はどのくらいか。生後6ヶ月より前なら、時期が来れば自然に減っていく可能性が高いところです
この3つを考えると、「日中に、退屈から、生後4ヶ月以降にしている場合」だけが働きかける場面だとわかります。それ以外は、待つほうが赤ちゃんにも保護者にも負担が少なくなります。
別のものに興味を向ける具体的なやり方
働きかける場面だと判断したら、次の順番で試してみましょう。
まず、声をかけます。「おてて、おいしいの?」「こっち見て」と話しかけるだけで、こちらに顔を向けて手が口から離れることがあります。声には、赤ちゃんの注意を最も引きやすい力があります。
次に、握れるものを渡します。手が空いていることが引き金になっている場合、握るものがあれば手はそちらに使われます。生後3ヶ月ごろなら軽い布のおもちゃ、生後5ヶ月ごろなら音が鳴るものが向いています。両手に1つずつ持たせるという方法もあります。
それから、体を使う遊びに誘います。うつぶせにして目線を変える、足を持って軽く動かす、抱っこして窓の外を見せる。姿勢や景色が変わると、拳への関心はいったんリセットされます。
3つとも効かないときは、そのタイミングでは働きかけない場面だったということです。引き下がる判断も、対応のひとつです。
月齢が進んでも続くとき
生後6ヶ月を過ぎても、1歳を過ぎても拳や指をしゃぶる子はいます。この場合、無理に取り上げるよりも、しゃぶらずに済む場面を増やしていくほうが穏やかに進みます。
方法はシンプルです。手がふさがっている時間を増やすことです。手を使う遊びを増やす、外で過ごす時間を作る、手をつないで歩く。しゃぶる時間そのものを減らそうとするのではなく、他のことをしている時間を増やしていく方向です。
眠る前だけ残っている場合は、眠るための儀式として機能しています。絵本を読む、歌をうたう、背中をなでるといった別の入眠の手順を作っていくと、少しずつ置き換わっていくことがあります。
時間がかかっても構いません。保護者が焦らないことのほうが、結果として早く落ち着くという面もあります。取り上げようとするやり取りが増えると、赤ちゃんにとってはそれ自体が不安の材料になり、かえってしゃぶりたくなってしまいます。
赤ちゃんがこぶししゃぶりをするときに気をつけたいこと
赤ちゃんにとって、こぶししゃぶりは発達上欠かすことのできない行動です。そのうえで、日々の暮らしのなかで少し気にかけておくとよい点があります。
赤ちゃんの手をさらっとした状態に保ちましょう
よだれで濡れた手をそのままにしておくと、握った手のなかがベタベタして、赤ちゃん自身が気になって機嫌が悪くなることがあります。服の袖や寝具まで湿ってしまうこともあるので、さらっとした状態に戻してあげると過ごしやすくなります。
こぶししゃぶりをした後は、濡れタオルやベビー用のウエットティッシュでやさしく拭き取ったあとで、乾いたタオルで水分をしっかりと拭き取り、しっかりと乾かすところまでを1セットにしておきましょう。
特に握った手のひらの内側は、開いてから拭くのがコツです。閉じたままだと表面だけを拭くことになり、内側が湿ったままになります。指を1本ずつそっと開いて、間まで乾いたタオルをあてます。
拭くタイミングは、授乳の前後とお昼寝の前後を目安にしておくと、忘れにくくなります。回数を決めておくよりも、すでにある日課にくっつけておくほうが続きます。
機嫌よく続けられているかを目安にしましょう
こぶししゃぶりをしている赤ちゃんを見るときの目安は、その子が機嫌よく続けられているかという一点です。
夢中になってしゃぶっていて、目に力があり、体がリラックスしている。この状態なら、そのまま続けさせて構いません。
一方で、しゃぶりながら不満そうな声が出ている、体がこわばっている、手が思うように動かなくてもどかしそう。こうしたときは、優しく声をかけたり、関心を別のおもちゃや遊びに向けさせたりすると、気持ちが切り替わることがあります。抱っこして姿勢を変えるだけでも落ち着く場合があります。
拳を深く口に入れようとしている赤ちゃんもいます。手が大きくなってくると自然に入らなくなっていく部分ですが、気になるときは名前を呼んで注意をこちらに向けたり、握るものを渡して手の行き先を変えたりするとよいでしょう。取り上げるのではなく、別の選択肢を差し出すという形が、赤ちゃんにとって受け入れやすいやり方です。
袖の長さと爪の長さを整えておく
季節によっては、長袖の袖口が口に入ってしまい、袖ごとしゃぶる形になることがあります。生地が厚いものだと、赤ちゃんが手を口に運ぶ動きそのものがやりにくくなります。
拳しゃぶりの時期は、袖口が細めで、めくりやすい素材を選ぶと過ごしやすくなります。冬なら、室内では袖をめくって、外出時だけ下ろすという使い分けができます。
爪も、伸びていると服の生地に引っかかりやすくなります。赤ちゃんの爪はやわらかく伸びるのが早いので、週に1、2回を目安に、寝ているあいだにベビー用のはさみで角を丸く整えておくと、手の動きがスムーズになります。
パパや家族にも共有しておきたいこと
拳しゃぶりについて、家族のあいだで見方がそろっていないと、余計なやり取りが増えることがあります。
よくあるのが、「手を口に入れさせないほうがいい」と考えている人がいて、そのつど手を離してしまうという場面です。悪気があるわけではなく、心配しているからこその行動です。
ここは、「これは発達の途中の姿で、やめさせなくていいもの」という一文を共有しておくだけで解決します。加えて、次の2つを伝えておくと、家族が同じ対応をしやすくなります。
- 止めなくていい場面:機嫌よくしゃぶっているとき、眠る前、抱っこのあいだ
- 声をかけてよい場面:不満そうな声が出ているとき、退屈そうにしているとき
祖父母世代には、指しゃぶりを早く直すべきだという考え方が根強いこともあります。その場合は、否定するのではなく「いまはこういう見方をするようになっているみたい」と情報として伝えるほうが、話がこじれずに済みます。
また、拳しゃぶりの様子は写真や動画に残しておく価値があります。生後半年ほどで見られなくなる姿だからです。あとから見返すと、手の運び方が回を追って上手になっていく過程が残っていて、そのときの心配ごとが成長の記録に変わっていきます。
こぶししゃぶりについてよくある質問
Q1.生後1ヶ月で拳をしゃぶっています。早すぎませんか
生後1ヶ月ごろの拳しゃぶりは、腕を動かしたときに拳がたまたま口に触れ、反射で吸っている場合がほとんどです。早いか遅いかを気にする段階のものではありません。この経験を積むうちに、自分から口に運べるようになっていきます。
Q2.おしゃぶりに切り替えたほうがいいですか
どちらでなければいけないというものではありません。拳しゃぶりは自分の手を確かめる働きも持っているので、それを取り上げてしまうことにはなります。一方で、よだれの量が多くて着替えが大変というときには、おしゃぶりのほうが扱いやすい場面もあります。ご家庭の暮らしやすさで選んで構いません。
Q3.片方の手ばかりしゃぶるのが気になります
寝ているときに顔が向きやすい側の手が、視界に入りやすく口にも近いためです。寝かせる向きや抱っこの向きを変えてみると、しゃぶる手が入れ替わることがあります。利き手が決まったわけではありません。
Q4.授乳したばかりなのにしゃぶっています。足りていないのでしょうか
授乳直後の拳しゃぶりは、空腹以外の理由が多いようです。眠くなってきたのか、手持ちぶさたなのか、気持ちを落ち着けたいのかを、吸う勢いと一緒に出るしぐさから見分けてみてください。ゆっくり弱く吸っていて、あくびが混じるようなら眠気のほうです。
Q5.拳しゃぶりが激しくて、日中ずっとしています
生後2ヶ月から3ヶ月ごろは、自分の意思で手を口に運べるようになったばかりで、できたことを繰り返し試している時期です。回数が多くなるのはこの時期の特徴で、生後4ヶ月ごろからおもちゃに手が伸びるようになると自然に減っていきます。それまでのあいだは、退屈が引き金になっていそうなときだけ遊びに誘う、という関わり方で十分です。
拳しゃぶりは、自分の体を知っていく途中の姿
赤ちゃんが拳を口に入れているとき、そこで起きているのは「自分の手はここまでで、その先は自分ではない」という発見の作業です。口という最も鋭い感覚を使って、体の輪郭を確かめている。それが、外から見ると豪快に手にかぶりついている姿になります。
始まるのは生後1ヶ月から3ヶ月ごろ、落ち着いていくのは生後6ヶ月前後。この数ヶ月のあいだに、赤ちゃんは自分の体の地図をおおまかに描き終えて、次は外のものへ手を伸ばしていきます。
心配になったときは、機嫌よくしゃぶれているかどうかを見てみてください。機嫌がよければ、それは順調に進んでいる証拠です。よだれで濡れた手をさらっと拭いてあげながら、あと数ヶ月しか見られない姿として眺めていられたら、この時期はずいぶん過ごしやすくなります。


