熟年離婚を後悔しないために…離婚後の新しい生活を具体的に想像しよう
「熟年離婚」とは、一般的に婚姻期間が15~20年以上を経過した中高年夫婦の離婚を意味します。傍から見ると「これほど長く連れ添ったのに、なぜ今さら?」という印象を持たれがちですが、当事者には「様々な理由があり、子どものためにこのときまで離婚せずに耐えていた」「長く連れ添って夫婦の形が完成した今だからこそ、残りの人生を自分らしく生きるために決別する」という確固たる選択の理由があります。
個々の色んな離婚したい理由に加え、熟年離婚の背中を大きく後押しする要因は「子供の自立」という方が多いようです。一人で幼い子供を養っていく自信がなく離婚に踏み切れなかったけれど、子供が成人し育児の手を完全に離れた今なら!と思う子育てからの解放感が、熟年離婚の最大のきっかけになります。
しかしながら、中高年の年齢から新しい生活を一人でスタートさせるには、若い頃の離婚とはまた別の大きなリスクがつきものです。勢いだけで家を飛び出す前に、もう一度リスクをよく把握し、離婚後の生活基盤をしっかりと確保しないと、後になって大変な後悔を招くことになります。
熟年離婚において主に考えておかなければいけない項目には、「家族の理解」「離婚後の住まいや仕事」「お金」「財産分与」「年金分割」等があります。
熟年離婚をして後悔してしまう「3つの理由」
離婚に踏み切るタイミングや理由は人それぞれであり、周りが否定できるものではありません。しかし、実際に熟年離婚を経験した人が「こんなはずじゃなかった」と後悔しているリアルな理由を知ることは、あなたが今後安心して人生を歩んでいくための参考になります。
熟年離婚を後悔してしまう原因は、大きく分けて以下の3つの不安や準備不足によるところが大きいと言えます。
1経済的困窮による後悔
離婚して専業主婦から自立しようとしたとき、新たな仕事口を探す際に立ちはだかるのが「年齢制限の壁」と「ブランク」です。思うように安定して充分な収入を得る仕事になかなか就けず、「自由を手に入れたはずなのに、家賃と食費を払って生きていくだけで精一杯の生活になってしまった」ということにならないよう、事前の収支シミュレーションが不可欠です。
2家族の崩壊・子供との関係悪化による後悔
「夫とは離婚しても、私が手塩にかけて育てた子供はいつまでも私の味方でついてきてくれるもの」と思っていたら、それは大きな間違いかもしれません!子供が成人し独立した大人であるからこそ、親の離婚に対する十分な説明と理解のプロセスは大切です。
子供にしてみれば、急に「これから夫婦二人で水入らずで仲良く老後を過ごすのだろうな」と思っていた矢先に、母親からまさかの離婚発言。十分な話し合いもなく家を出てしまえば、「今さら自分勝手な独りよがりの離婚だ」「親父がかわいそう」と見做され、最悪の場合は愛想をつかされて音信不通状態になってしまう悲しいケースもあります。
3一人暮らしの心細さ・社会的な孤立による後悔
離婚して一人になれば、新しいパートナーがすぐに見つかるとは限りません。自由を満喫できる一方で、体力が落ちてきた時に頼れる蓄えや家族が近くにいない状態は、想像以上にツラいものがあります。仕事をいつまで続けていけるだろうかという不安や、誰とも会話しない日が続いて社会的に孤立してしまう不安を解消するために、離婚前から貯蓄計画を立て、地域のコミュニティや友人とのつながりをしっかりと構築しておくことが重要です。
対策1 離婚時にもらえる権利とお金(法制度)を正しく知っておく
無事に離婚に向けた話し合いのテーブルにつけたとして、そこから先のお金の話は非常にシビアです。
熟年離婚での争点は、子供がすでに成人している場合が多いため「親権」や「養育費」で揉める問題はほとんどありません。その代わり、老後の生活資金を左右する「財産分与」や「年金分割」という大きな問題が絡んできます。これらは民法などの法律で定められた正当な権利ですので、しっかり知識を持っておきましょう。
熟年離婚の争点1 財産分与(退職金や住宅ローンも対象)
「財産分与」とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた家庭の財産を清算し、分配する制度です。民法上の解釈や過去の判例において、たとえ妻がずっと専業主婦であったとしても、内助の功が認められるため「原則として2分の1(折半)」にするのが基本ルールとなっています。
ちなみに、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、住宅ローンなどのマイナス財産(借金)も考慮の対象となります。例えば、夫の名義で購入しローンを返済していた自宅であっても、婚姻期間中に築いた資産価値の半分は妻の権利となります。
さらに熟年離婚で重要になるのが「退職金」です。婚姻期間中に夫がすでに退職金を受け取っている場合はもちろん、年齢的に「まだ受け取っていない(将来支給される予定)」の場合でも、「数年後に退職金が支払われる可能性が極めて高い」と判断されれば、婚姻期間に相当する部分の退職金は財産分与の対象として計算されます。
熟年離婚の争点2 慰謝料の請求
離婚の直接的な原因が相手にある場合は、「慰謝料」が発生することもあります。配偶者の不貞行為(浮気)やDV(ドメスティックバイオレンス)など、明らかに相手に精神的苦痛を与える「不法行為」が主な離婚理由である場合、慰謝料を請求することは法的に可能です。
しかし、熟年離婚となると「長年の性格の不一致の積み重ね」や「モラハラ気味な発言の蓄積」といったケースも多く、これらは確固たる証拠(録音や日記など)がなければ、裁判等で立証して高額な慰謝料を勝ち取るのは難しくなります。
また、慰謝料の請求には民法上「不法行為に基づく損害賠償請求権」として、原則として「離婚が成立してから3年以内」という消滅時効がありますので、請求を考えている場合は早めに弁護士等の専門家に相談して証拠を集め、準備に取り掛かるほうがいいでしょう。
熟年離婚の争点3 年金分割制度
老後の収入の柱となる厚生年金についても、2007年(平成19年)から「年金分割制度」が導入されました。これにより、妻が専業主婦や扶養内のパート勤務であった場合でも、婚姻期間中に夫が納付した厚生年金保険料の記録(報酬比例部分)の一部を、妻自身の年金記録として分割して受け取ることができるようになりました。長年の内助の功が、公的な年金制度においても正当に評価される仕組みです。
年金分割には、大きく分けて「合意分割制度」と「3号分割制度」の2種類があります。
- 合意分割制度(2007年4月〜):夫婦間での話し合いにより合意した割合(最大2分の1)、または合意できない場合は家庭裁判所の決定により分割されます。
- 3号分割制度(2008年4月〜):第3号被保険者(会社員の夫に扶養されている専業主婦など)であった方からの請求により利用できる制度です。2008年(平成20年)4月1日以降の婚姻期間(第3号被保険者期間)については、相手の合意は一切不要で、日本年金機構の年金事務所で手続きを行えば自動的に「2分の1」に分割されます。
ただし、年金分割の手続きにも厳格な期限が定められており、原則として「離婚した日の翌日から起算して2年以内」に年金事務所へ請求を行わなければ、時効となり権利が消滅してしまいます。(※日本年金機構の規定による)。
離婚後、経済的に苦しくなる可能性が高いのは、それまで専業主婦だったなら断然妻のほうでしょう。もらえる正当な権利のお金はしっかりと頂き、ある程度の老後の見通しを立てておかないと、貧困と後悔の道を進むことになってしまいます。
対策2 熟年離婚とはいえ、感情的にならず家族の理解を得ること
熟年離婚を切りだすのは、統計的にも「妻から」というケースが圧倒的に多いようです。長年の我慢や不満が溜まりに溜まって、子どもの独立というトリガーで爆発する、という構図です。
しかし、妻の頭の中では何年も前から離婚の準備ができていても、夫や子どもからすれば「まさに青天の霹靂」であり、すぐには理解してもらえないことも多々あります。当事者の夫に「今さら何を言っているんだ」とまともに取り合ってもらえなかったり、挙句の果てには「わがままな女だ」と捉えられ、怒った夫から生活費を絶たれたり、逃げるように追い出されたりして極端に不利な状況に陥るケースもあります。
どれほど長年の不満や昔の出来事の恨みがあっても、まずは「なぜ離婚したいのか、これからどう生きていきたいのか」という今の自分の素直な気持ちを冷静に伝え、理解してもらう努力をすることが熟年離婚の円満なスタートです。最初はまともに取り合ってもらえないかもしれませんが、まずはここから!感情に任せて暴走し、勝手に家を飛び出すなどの行動をとってしまうと、その後の財産分与の交渉などにも大きく悪影響を及ぼしてしまいます。
熟年離婚で後悔しないためにも、真正面から向き合って話し合うことは、自分の意思を相手や子どもに理解してもらう上で非常に重要なプロセスです。母親の真剣な思いを知れば、最初は反対していた子供が「お母さんの人生だから」と一番の理解者になり、後押ししてくれるパターンもとても多いのです。
まとめ:熟年離婚を後悔しない為には「離婚前の入念な準備」が鍵
人生における大きな変化をもたらすときは、どんな選択であれ「あの時こうしておけばよかったかな」という多少の後悔は付き物とも言えます。熟年離婚を本気で考えているならば、まずは「お金」「住まい」「法律の知識」といった予測できるリスクをノートに書き出し、一つずつクリアにしていきましょう。そうすれば、不安が消えてその後の未来も少しは明るく見えてくるのではないでしょうか。
もちろん、周到な準備を経て離婚から始まる「自分だけの新しい人生」を活き活きと謳歌なさっている先輩女性もたくさんいます。後悔のない豊かな未来を手に入れるためには、勢いではなく、十分納得のいく準備と話し合いが必要不可欠なのです。
参考文献
- 法務省「財産分与・年金分割に関する制度概要」
- 日本年金機構「離婚時の厚生年金の分割(3号分割制度・合意分割制度)」
- 裁判所(courts.go.jp)「離婚時の財産分与・年金分割の取り扱いについて」



