イタリアの教育に塾はいらない!日本とは違う自主性が育つ制度
イタリアの教育機関はその殆どが公立学校。制度上も期間や費用、学期や考え方など、日本とはかなり異なる点が多く、塾がいらないシステムなので経済的には親にとってありがたい一方、日本人からすると「学力が低いのでは?」との疑念を抱いてしまう可能性も。
しかし、実際は、エリート教育を行う大学もあるのです。
今回はそんなイタリアの教育制度や幼稚園から大学までの日本との違いに触れながら、イタリア教育全般についてご紹介していきます。
入学・卒業式がない!イタリアの教育制度
2017年現在、イタリアの教育制度では、小学校5年(6歳~10歳)、中学校3年(11歳~13歳)、高校5年(14歳~18歳)が基礎になっていて、他の欧州諸国と比べても高校を卒業するまで1年長いのが特徴です。
学校は2学期制で新学期は9月中旬に始まります。日本のミッション系私立にも2学期制の学校が多いため、日本人にも2学期制はよく知られていますが、イタリアの場合はなんと始業日が定まっておらず、また年ごと・地域によっても異なります。
さらに入学式・始業式・終了式・卒業式がありません。夏休みは3ヶ月もあって実質的な授業期間は年間で8ヶ月程度。一方で、塾もないのにノーベル賞受賞者などのエリートを輩出する教育も行われている、という実態があります。
3歳児から保育園がない!?幼児教育
イタリアでは親が任意で幼稚園や保育園に就学させることが可能ですが、日本と同様で義務教育ではありません。
公立の場合は0~2歳児は保育園、3~5歳児は幼稚園に通うことになります。また私立の保育園/幼稚園では、多少の年齢の融通が利きます。
現在、イタリアでは4~6歳児までの幼稚園への平均在籍率は98%になっており、「幼稚園の義務教育化が可能?!」と言われるほどにまでなっています。尚、0歳~3歳児の保育園での平均在籍率は約25%です。
イタリアの義務教育期間は10年
現在の義務教育の期間は、欧州内の動きに伴い2006年から6歳から16歳までの10年間になりました。高校は全過程で5年ありますが、前期(2年間)と後期(3年間)とに分かれていて、義務教育の期間は高校の前期までに相当します。
公立学校にかかる費用
イタリアの学校はほとんど公立ですが、スクールバス代や給食費は生徒側の負担になります。生徒の家庭の経済状況が厳しければ、各自治体や学校の規則に則った優遇措置制度もあります。
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小学校にかかる費用
学費と教科書代は無料。給食費やスクールバス代は生徒側の負担。 -
中学校/高校にかかる費用
学費は無料ですが教科書代は有料。 -
スクールバス代
バス会社や自治体のシステムによって異なります。
イタリアの教育制度の問題点
イタリアでは改革が頻繁に行われていて、法律もすぐに変わってしまいます。
そのため教育制度もコロコロ変わってしまい、親の代と違うだけでなく子育てがひと段落したマンマの時代とも変わっていて、正確な状況が掴みにくいという問題点があります。詳細については現場の先生やイタリア人ですら把握できていない場合もあるのが現状です。
しつけや個を大切にするイタリアの幼稚園
ここからは幼稚園(Scuola deii’infanzia)~大学(Università)卒業までの流れを、さらに掘り下げて見ていきましょう。まずは幼稚園から。
保育園/幼稚園には私立が多い!
イタリアの学校は殆どが公立であるにも係わらず、私立は全国で約13,000校あります。そのうち約71%が保育園や幼稚園。約63%がカトリック系の学校となっています。
イタリアでは子供が小さいうちはカトリック系の私立の保育園/幼稚園、あるいは小学校に通わせるケースがよくあるのです。
イタリア人がカトリック系教育を選ぶ理由
- 公立の保育園は入園するのに条件があるのに対し、私立は融通が利く
- 幼児のうちにしつけをさせたい要望がある
- 外国人シスター達の母国語が英語である場合、保育園/幼稚園で英語の授業がある
幼稚園のクラス編成や通園日
イタリアの幼稚園では、通常1クラス14~28名編成。異年齢(3歳~6歳まで)の子供たちで1クラスが形成される縦割り教育には、2名の先生がつくことが多いです。
通園日は地域ごとの家庭状況や要望に応じて、週5日あるいは6日。1日8時間行われている幼稚園もあります。
またイタリアといえば、日本の幼稚園選びでも注目されることが多いモンテッソーリ教育の発祥地として有名な国。
他には、レッジョ・エミリア・アプローチという教育法を用いた幼稚園なども、子供達の個を大切にする教育を行っており、近年世界中から注目されています。
レッジョ・エミリア・アプローチを用いた幼稚園では、担任以外に専門性のある複数の先生が関わって子供達を見ていきます。
先生が教科ごとに違う!イタリアの小学校
イタリアの小学校(Scuola primaria)は1990年まで担任制で、日本のようにクラスの担当の先生が全教科教えていました。
しかし1990年以降は担任制ではなく、複数の教師が1クラスを教え、成績はそのクラスを教える全教員が集まって会議を開き、そこで決定する制度に変わりました。
また2003年からは、小学校全学年に英語の授業も導入されています。
基本は午前中のみ!授業時間
イタリアの小学校は、1970年までは半日終いで13時半前後に終っていました。
ところが1970年後半には、トリノで公立の小学校が午後も開校するようになり、近年の共働き家庭の増加に伴って大都市及びその近郊都市では、午後も授業を行うフルタイムの小学校が今以上に増える可能性もあります。
塾はいらない!授業内容
イタリアの小学校で学ぶ教科は、イタリア語、数学、理科、地理、歴史、体育、芸術、音楽、英語、宗教が必修となっています。宗教は任意です。
イタリアには基本的に塾がありませんが、その理由は小学校教育からの宿題の多さにあります。宿題がとても多いことはイタリアの学校教育の特徴の一つですが、添削の苦労は日本の先生とは違います。
なぜなら宿題のチェックは、授業中の口頭試問によって行っているからです。
尚、午後にも授業のあるフルタイムの小学校では、午前中で終わってしまう小学校に比べて宿題の量が少なくなっています。
もし落ちこぼれたら?
教育に関心のある家庭で子供が落ちこぼれた場合は、イタリアでもさすがに家庭教師をつけるのが一般的です。
ただしオールマイティな学力を求める日本の教育と違い、子供の好き・嫌いや適性に合わせて進学できるように、高校の選択肢がたくさん用意され、「一芸に秀でる教育」が行われています。極端に言えば、嫌いな科目は勉強しなくても済むシステムなのです。
またイタリアの授業は本当に先生によるので、いい先生のいる学校に子供を入学させたり、もし先生と合わない場合は親が迷わずクラスを変えたり、場合によっては転校させたりもします。
成績表と学力テスト
小学校の成績表は10段階評価。学習態度も成績につきます。
さらにイタリア語と算数の教科については、Invalsi(国立全国学校システム評価研究所)によって2年生と5年生に全国共通テストを(通常5月に)実施し、生徒の学習到達度のみならず、各学校のレベルやシステムを評価するために行われています。
卒業させない!?イタリアの中学校
中学校は義務教育だからと安心ばかりしていられません。イタリアの中学校(Scuola secondaria di primo grado)では、授業態度や成績が悪いと落第する可能性があるからです。
また、高校へ入学手続きをするためには中等学校修了証が必要ですが、これを授与されるには3年生の終盤に行われる卒業試験に合格しなければなりません。
つまり、子供達が自主的に授業態度を改め、学習しないと卒業できないシステムなのです!
半日だけ!?授業時間
中学生になると、授業は半日になります。基本的に学校の運営は、各学校に任されているため、週の授業日数や授業時間については学校ごとにまちまちですが、大抵、月曜日から土曜日までの週6日授業があります。
週5日の所もありますが、その場合、1日の授業時間が1時間ほど長くなり、通常13時半位までの授業が14時半に終わります。
第二外国語が必修!授業科目
授業科目は、イタリア語・数学・理科・歴史・地理・技術・芸術・音楽・保健体育・英語など。さらにフランス語・スペイン語・ドイツ語などが第二外国語として必修科目になっているのが日本の中学校とは違う特徴です。宗教の授業に関しては任意です。
学習態度も評価科目の1つになっています。
課外活動としては、音楽や理科実験、外国語の歴史や文化を学ぶプロジェクト、あるいは英語検定の準備などが保護者の賛同のもとに行われています。
学力テスト
中学校でもInvalsi(国立全国学校システム評価研究所)が行う、イタリア語と数学の全国共通テストがあります。
中学では3年生のみに課されていて、毎年6月に実施されています。
口述試験もある!卒業試験
卒業試験には筆記試験と口述試験があります。成績は10段階評価で、6以上が合格となります。
筆記試験は、イタリア語・数学・英語・第2外国語(フランス語、スペイン語、ドイツ語など)。
口述試験は生徒1人につき約30分間行われ、クラスを受け持つ全教員の前で、各自、中学3年生の学習内容に関連した全科目共通のテーマについて論文を書き、発表しなければなりません。
中学卒業後の進路
- リチェオ
- 技術学校
- 職業学校
イタリアのリチェオ・技術学校・職業学校
日本と異なりイタリアの子供達は、中学卒業後に入学試験を受けずに希望の学校に進学できます。一部の職業学校を除いてどの学校も5年制で、ほとんどが公立です。高校課程の前期2年は義務教育ですが、後期3年へ進級する時にも進級試験は行われません。
しかし、高校でも1年次から落第があります。学年が終わる6月の時点で、
- 1科目の全授業時間の25%以上欠席
- 10段階評価のうち1科目でも4以下
- 10段階評価のうち4科目以上が5以下
は自動的に落第になります。
もしくは最大3科目で5の成績を取った場合は、7月に行われる補習授業を受けた上で(任意)、9月の追試を受けなければなりません。
もし追試で1科目でもパスしなければ落第になります。そして、同じ学校で同じ学年を2回留年した場合は転校しなければなりません(学校との相談の上、生徒が希望すれば場合によって残ることも可)。
また、一般的に口頭試問での先生の評価は厳しいので、日頃の学習や試験のための準備など、普段の積み重ねが大切です。
学校の種類
学校の種類は、卒業後の予定進路によって決めることが多いです。大学進学を考えている子は「リチェオ」に、大学進学と就職のどちらも視野に入れている子は「技術学校」に、就職する予定の子は「職業学校」に入学する傾向があります。
リチェオ(Liceo)
大学進学のための準備をする学校で日本の普通科高等学校に相当。県立高校の中の進学校のイメージですが、違いは、学習内容が学校ごとに古典人文学系・理系・言語系のように分かれていて、それらに特化していることです。
現在では、言語系、教育学系、芸術系、音楽系、IT系、経済系までリチェオの枠が広げられました。
技術学校(Istituto tecnico)
商業、及び技術分野について専門的に学びたい子供が進む、技術者養成のための学校。日本の高等専門学校に相当。商業高校、工業高校、農業高校などがあります。卒業後は就職もできますし、大学進学も可能です。
職業学校(Istituto professionale)
就職に役立つ実践面にウェートをおいた、高等課程の学習もある日本の高等専修学校に相当する学校。ホテルサービスやビジネスサービス、美容、自動車修理、溶接、調理、歯科技工などを学習できます。
3年コースと5年コースがあり、大学などへ進学希望の場合は5年コースを修了していなければなりません。
学力テスト
どの学校に進学しても、Invalsi(国立全国学校システム評価研究所)が行う、イタリア語と数学の全国共通テストがあります。
義務教育を終了する学年に当たる2年生のみに課されていて、毎年6月に実施されています。
卒業試験(マトゥリタ)と大学入試
リチェオ・技術高校・職業学校(5年コース)では、卒業試験に合格しなければ高校課程の修了資格を得られません。
5年間の修了試験として6月後半に全国共通の統一試験(マトゥリタ)が行われ、100点満点中60点以上であれば、めでたくディプロマ(= 卒業証書)が授与されます。
マトゥリタ試験を受けて取得するディプロマは、以前は大学進学へのパスポートのようなものでした。5年間の高校課程修了者は大学に無試験で入れたのです。
ところが近年は、大学への進学希望者が大幅に増えたため、人気学部や希望者数が多い学部、あるいは理系学部などは独自に入学試験を行うようになっています(医・歯・獣医学部は国家統一入学試験有)。
高校卒業後に進学する際の進路
- 特殊高等教育機関
- 高等芸術/音楽/舞踏学院大学
- 大学
- スクオーラ・ノルマーレ・スーペリオーレ
イタリアの大学などの高等教育
ディプロマを取得者した人が入学できる高等教育機関(Istruzione superiore)は、大別して次のように分けられます。
特殊高等教育機関
特殊高等教育機関(formazione tecnica superiore)とは、農業・福祉公共サービス・工芸と産業(製造、情報通信技術 、建設)・貿易/運輸・観光・保険/金融などの分野における技術者あるいはスペシャリスト養成学校です。
企業や特定生産部門に関連する工場での実習訓練が義務付けられており、海外での研修も可能です。
また、IT関係の技術用語や国家安全保障に関係する分野では英語による授業も行われ、企業・大学からの専門教員が指導に当たるなど専攻分野におけるテクニカル/プロフェッショナルスキルの専門家養成を目指しています。
高等芸術/音楽/舞踏学院
高等芸術/音楽/舞踏学院(Alta formazione artistica、musicale e coreutica)とは、芸術・音楽分野・舞踏に特化した高等教育機関です。
ドイツと並んで「音楽の国」として知られている通り、イタリアはプッチーニやヴェルディなど著名な音楽家を多数輩出してきました。音楽院では優れた教授陣や充実した施設を備え、高いレベルの音楽教育を行っています。
また自由な発想で多くの美術作品と偉大な芸術家を生みだしたイタリア。歴史に培われた伝統と革新的な創造性が結びつき、高いレベルの美術教育を行っている美術学院からは、世界的に活躍する著名なアーティストが数多く輩出されています。
大学
大学(Università)の編成は、学士課程3年、修士課程2年、博士課程3年となっています(法律・薬学部・歯学部・医学部を除く)。
近年、イタリアの大学は変貌する社会の流れや要望に従って、IT・材料科学・バイオ系学部などの新学科が開設され、また、多様化・細分化してきています。
スクオーラ・ノルマーレ・スーペリオーレ
数十年前までは大学などの高等教育は一部のエリートや研究者を目指す学生に限られていましたが、ここ20年の間に大学が大衆化し、就職向けの実利的な教育が優先されている傾向が見られます。欧州では、1990年代後半からドイツやイギリスなど欧州9カ国の平均大学進学率が30%から50%以上に伸びました。
しかしながら一方で、従来の欧州のエリートを対象にした哲学や人文学の教養教育は連綿と受け継がれていて、イタリアでの代表格が「スクオーラ・ノルマーレ・スーペリオーレ(Scuola normale superiore)」なのです。
イタリア中部のピサにある「スクオーラ・ノルマーレ・スーペリオーレ」は、1810年にナポレオンの命により設立された特権階級養成学校(大学)で、これまでノーベル賞受賞者やイタリアの大統領などのエリート達を輩出してきました。
全寮制で学費や寄宿費、生活費や教科書代、ひいてはお小遣いの果てまで全てが国の費用で賄われます。
全国の高校から学校長の推薦状を手に集まった数千人の学生の中から理系・人文学系併せてたった60人のみが選抜試験をくぐり抜けて入学を許可されます。学生達は、ここでの授業の他にピサ大学の講義を受講することが義務付けられていて、「世界中のどこへ行ってもここで学んだことが基礎になる」ように英才教育を受けています。