イタリアの子育て~ママや子供に優しいアモーレの国の人々
イタリアでの子育てと聞くと、“明るい太陽の元で陽気な育児ができそう”といった楽しそうなイメージが思い浮かぶママも多いでしょう。けれど夫の転勤や国際結婚等で実際にイタリアでの子育てを行うことになった女性にとっては、慣れない外国で子供を出産・子育てするとなるため「大丈夫かな?」と不安になることも。
まず何と言っても言葉が違うから、何か分からない事があった時に誰に・どこに・どのように相談すればよいのか困ってしまうのではないでしょうか。ただでさえ産後は、「これからどうやって育児をしていけばよいのか」と途方に暮れたり、なんとなくこれからの生活に理由のない不安を感じたりすることもあるのに、まして海外なんて。
しかし、イタリア人は今あなたが思っている以上に周囲の人に気を遣い、声をかける人達なのです。モンテッソーリ教育発症の地としても知られるアモーレの国イタリアの子育て事情とイタリア流の子育てについてさっそく見ていきましょう。
ママと子供に優しい!イタリア人の特徴
イタリアで子育てをしていると、日本にいた時にはわからなかった見ず知らずのイタリア人の優しさに、心が軽くなったり救われたりすることが多々あります。
イタリア人は子供好きで社交的
イタリア人はたとえ相手に言葉が通じなくても、恥じらいもなくイタリア語で話しかけてきます。その社交性は小さい子供や赤ちゃんにも発揮され、道や・スーパーなどでベビーカーを押していたり広場や公園で子供を遊ばせていたりすると、
「なんて可愛い赤ちゃん!男の子それとも女の子?」
「今、いくつ?」
「元気な男の子だね~!」
「(赤ちゃん誕生)おめでとう!」
などと言われます。
イタリア人はママ優先
乳幼児を抱えた母親のみならず妊婦さんや老人に対しては「優先」という意識があるようで、例えばこれらの人が地下鉄やバスなどに乗っていると、周りの人がふいと立って席を譲ってくれることが多々あります。
イタリアでは病院の受付でも妊婦さんは優先権があり、長蛇の列を作っていても前の方に割り込むことが許されています。
イタリア人は困ったママの救世主
出産後しばらくは、夜中の授乳や赤ちゃんの夜泣き、慣れない育児で親の方も心身共に疲れていたりします。そして、外出する際は必ず赤ちゃんや幼児を一緒に連れて行かなければなりません。独り身の時のように自分の思い通りに自由に行動する訳にはいかず、たとえ散歩に連れて行くにしても歩くことすら自分のペースではできません。
そんな時、通りがかりのイタリア人から一緒に連れている赤ちゃんをあやしてもらったり、段差のある所を乳母車で上がり下りするのを躊躇している所を見ず知らずのイタリア人が手を貸してくれたりと、筆者などはそのちょっとした気遣いに嬉しく感じたりなんとなく気持ちが明るくなったりしたものでした。
このようにイタリア人は知らない人に対しても気さくに対応してくれ、困っているようであれば助けてくれたりします。
イタリア人は子供に鷹揚
また、赤ちゃんや小さい子が泣いた時は、「それが子供の仕事なんだから」と割と鷹揚に構えてくれていることが多いので、親の側も必要以上に子供が泣く事に対して神経質にならずに済み、赤ん坊は泣くのは当たり前なのだから仕方がないと受け留められるようになってちょっと気持ちが楽になった事を覚えています。
イタリア流の子育ては「褒めて育てる」
イタリア人は、父親にしろ母親にしろ自分の子供に接する時は褒め言葉を含め、「ポジティブな言葉」をかけるようにします。仮に次のような場合に親が子供の事を叱ったとしても、親の方の気持ちが収まった後にハグやキスをしながら、「おりこうさん!」などと必ず褒め言葉を添えながら愛情を伝えます。
- 子供が悪いことをした時
- テストで悪い点を取った時
- 学校で先生に注意された時
- 子供が親に反抗した時
それは、子供を勇気づけるだけではなく、子供の心をまっすぐに育てようとするイタリア人の子育ての秘訣とも言えるでしょう。
小さい時から肯定的な言葉を身近な大人から懸けられて育った子供は、たとえどんな自分であっても親に受け止めてもらえるという安心感から、自然と自分を肯定する気持ちである自己肯定感を育み、それはいずれ自分に対する自信へと繋がります。
また、たとえ自分がどんな状況に陥ってもネガティヴに捉え過ぎてしまうことなく、且つ悲観的になり過ぎることもない程よい楽観主義をもたらしてくれることにもなるでしょう。現に、多くのイタリア人は周囲をはばからずに自分の気持ちを素直に表現しますし、(もちろん性格にもよりますが)他人に対してオープンで親切・社交的です。
いつでも楽観的に見えるところはちょっといい加減にも思えたりして玉に瑕ですが、幼い時から何をしても自分の存在をポジティブに周囲に受け止めてもらえた子供は、いずれは自分の周りの人間をおおらかに受け止められるだけの余裕と自分に対する自信を持った大人へと成長することでしょう。
世界一!?マンマの愛情と手料理
2012年、イタリアの大手経済紙に「イタリアのマンマは世界一!?」という記事が掲載されました(注1)。前日に米紙ウォールストリートに掲載された「なぜイタリアの母親が世界一?」というイギリス出身の記者のコラムを紹介したものです。
その記事は数ヶ国の育児に関する書籍の内容を比較検討して、どの国の教育法が一番いいか記者の考えをまとめたものでしたが、その結論はイタリア人の育児ではないかというものでした。
理由は、記者が幼い頃に遊びに行ったイタリア系アメリカ人の友達の母親が作ってくれたスーゴ(典型的な肉入りトマトソース)が、その母親の温かい人柄やもてなし以上に記者がそれまでに受け取ったどんな愛情を込めた言葉にも勝るものだったからだそう。
どの国の教育法が一番だとか自分の育児法を本にするために筆を執ることに関心はなく、ただただ幼い子供達に美味しい料理を食べさせたい一心から作っていたそのイタリア人マンマのひたむきさに、記者が母の強い愛を感じたのです。
一昔前のイタリア人マンマと手料理
一昔前のイタリアの母親(マンマ)は一生を家庭に奉仕して過ごす人が多く、特に食事の用意ができているのに呼ばれても家族がすぐ食卓に集まらないと不機嫌になることもありました。
せっかく茹でたパスタがお皿の上でくっついてしまったり冷めてしまったりでは、せっかくの料理が台無しになってしまうというのも一つの理由でしょうが、健康的な食生活のためには努力を惜しまないという、代々、各家庭で受け継がれてきた食に対する姿勢があるのです。
イタリア人にとっての贅沢な食事
たまにはレストランやピザ屋さんなどで外食するのも楽しいですが、イタリアでは体にいいヘルシーな食事は家庭でという考え方がまだまだ健在。そのためなるべく農薬や化学肥料などを使用しないで育てた、採れたての新鮮な野菜や肉などを使った料理を摂ることが贅沢と考えられています。
現代のイタリア人マンマと手料理
一方、普段は仕事に忙しいワーキングマザーも、キリスト教の行事を中心に一年が回っているイタリアでは、イースターやクリスマス休暇は家族のために普段できない家事をし、料理にも腕を振るいます。
日本と比べてまだまだお惣菜屋さんが少なく、手軽に今晩のおかずになるようなものを買いに行ったりお弁当を売っていたりするところが少ないので、家で料理を作らざるを得ないからとも言えますが、現代的な食生活をする中で色々な添加物を知らぬ間に摂取してしまっていることに対して、一昔前と比較して疑問を感じているからとも言えます。
マンマの手料理は最高の愛情表現
忙しくなってしまった現代では多少は幻想になりつつあるのかもしれませんが、やはりマンマの手料理は子供に対する最高の愛情表現。言葉では伝えきれないマンマの愛を、イタリア人は料理に込めて子育てをしているのです。
イタリア人はイクメン?パパの子育て事情
イタリアでも昨今の共働き事情に伴い、最近は子育てに協力的なイクメンが現れていますが、絶対数はまだまだ少ないです。
ただしイタリア国立統計研究所の調べでは、2012年に父親が妻の仕事の都合により育児休暇をとった割合は11%。およそ10人に一人は育休を取得していますので、4.4%(注2)の日本に比べると高い割合です。
乳幼児の待機児童問題を支えるノンニ
イタリアの学校は基本的に半日で終わり。塾はありません。都市部では、小学校は4時以降まで預かってくれる所も多いですが、半日で終わってしまう小学校もまだまだ健在です。中学以降は半日で終りで、子供は家に帰って食事を摂り、その後は宿題をしたりお稽古事をしたり友人達と遊んだりして過ごします。
ところが昨今はイタリアでも共働きの夫婦が増えており、2015年のイタリア国立統計研究所の報告によると51.4%、つまり2人に1人の母親が働いています。そのため半日で帰ってきてしまう子供達の面倒を見るために忙しい母親に代わって大活躍してくれるのが、ノンニ(おじいちゃん・おばあちゃん)達です。
子供達にとっても、ノンニと接することで親とは異なる世代の大人達から学ぶことも多く、またノンニ達にとっても毎日の生活に張合いと家族に対する責任感が生まれるという互恵関係ができあがっているのです。
社会の第一線を退いたノンニの存在は乳幼児の待機児童問題を抱える現代のイタリアにとっても必要不可欠な存在です。ノンニは子供達の学校や課外活動への送迎、食事作り、その他母親の留守の間の雑用をこなしたり、仕事から帰ってきた息子・娘夫婦達のためにあれこれ作った手料理を持たせてくれたりと大奮闘しています。
参考文献