教えないのに教育になるの!?教え過ぎないからこそ育つ子供の能力
親から子供への教え過ぎにより「本来の自由な成長を妨げて才能を潰してしまう」「今の時代に必要な能力が育たない」といった指摘が増えていて、今は「教えない」という教育方法が注目を集めています。
そこでこちらでは、教えない教育とはどういった教育か、従来の教育と子供の就職、教えないから育つ子供の能力、教え過ぎの弊害、教えない授業を行う学校などについて、教え過ぎた先輩ママの失敗体験談や子育て4コマ漫画と共にご紹介していきます。
子育て4コマ漫画:教えない教育
教えない教育とは?
「教えない」教育とは、親や教育者が必要以上に教え過ぎず、子供が自ら考えて問題を解決する能力を育てる教育法です。
教えない教育と聞くと「子供に何も教えないなんて、親の怠慢じゃない?」と思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。そもそも教育とは、高度な知識をふんだんに教え込んで覚えさせることだけではないのです。漢字を見ると、「教えて」「育てる」ことが教育であることがわかります。
人に教わって文字の読み方や数の数え方を覚えても、それを役立てようと考えて実行する心が育っていなければ、折角覚えた知識を役立たせることはできません。ですから親は小さい頃から子供に考えて解決する力を身につけさせることが大切なのです。
従来の教育では子供が就職できない!?
AIの進化に伴い、今私達の仕事は徐々にコンピューター化していますが、近い将来現在のおよそ半数の仕事がなくなると考えられています。
2014年にオックスフォード大学オズボーン教授らにより発表された「雇用の未来」という論文には、次のような仕事がなくなると記されています。
近い将来なくなる仕事
- メガネやコンタクトレンズの技師
- ホテルの受付
- 建設機器オペレーター
- 塗装工やクロス張り職人
- 弁護士助手
- スポーツの審判員
- 電話オペレーター
- 銀行の融資担当者
- レジ係
- 給与や福利厚生担当事務員
- 不動産ブローカー など
親世代が受けた詰め込み教育ではコンピューターにはできない新しい何かを生み出す「創造」の学習が不足し、就職活動中や就職後に求められる能力が身につかない恐れがあります。
そこで文部科学省は大規模な教育改革を行うべく、グローバル化に対応し国際社会でリーダーシップをとれる人材を育成するために、2020年度から英語教育やアクティブ・ラーニング、プログラミン教育などを導入することを発表しています。
将来的な子供の経済的自立を守るためにも、子供達が社会の変化に対応して働き続けられるように考える力を身につけさせることは、家庭教育においても非常に重要なのです。
教えないからこそ育つ子供の能力7つ
必要以上に教えない教育には、次のような能力を伸ばす効果があると考えられています。
1集中力
例えば難しい問題に突き当たってしまった場合、親から回答の仕方や答えを教えてもらえれば、それをただ覚えるだけで済みます。けれど教えてもらえなければ、自分で考え試行錯誤をして自力で解くしかありません。そのため物事をじっくりと考えなければならず、集中力が養えるのです。
2計画力
勉強をする時間やスケジュールまで、何から何まで親がおぜん立てをしてあげれば子供は安心ですが、失敗を通して学ぶ機会が得られません。あえて親がしてあげないことで子供は失敗し、その中から計画的に物事を進めることの大事さを学べます。
3決断力
教えられて育った子供は自分で考えて行動した経験が乏しいので、行動を起こす勇気がもてずいざという時に迷ってしまいがち。
親は子供に困った表情で振り向かれるとついつい「こうすればいいのよ」と口を出してしまいがちですが、あえて子供自身にまかせることで小さいうちから経験を積ませれば、いずれ自信をもって行動を起こす決断力を身に着けることができるようになります。
4実行力
教えない教育で計画性が身につくと、それに従って物事を成し遂げようという意欲がわきます。「やってみよう」という気持は、子供が伸び伸びと自分の力を試して学んでいこうとする原動力。親にお仕着せされたものではなく、自分自身で工夫したことだからこそ進んで行動を起こし、楽しむことで成果を上げることができるのです。
5向上心
親の教えた通りにやったことでも達成感は味わえますが、自分で考えて失敗を経験しながら成し遂げたときの達成感は素晴らしいものです。教えない教育で育った子供はこういった達成感を繰り返し味わうことで、もっと頑張ろうという向上心や知識欲や、失敗しても立ち直れる「打たれ強さ」を身に着けることができます。
6協調性
教えない教育といっても、全く親が手を出してはいけないということではありません。行き詰ったり悩んだりしたときには、子供の自主性を妨げない範囲でつまずいている点を超えやすくなるサポートや情緒面へのフォローをしてあげましょう。
そうすることで子供は親に対する愛情をより強くするだけでなく、誰かに協力を求める柔軟さや他人を信頼する気持ち、相手を思いやる気持ちや協調性などの社会的なルールを学ぶことができます。
7自己肯定感
教えない教育で育った子供は強い自信を持つことができ、自己肯定感が高くなります。自分自身を愛することで自分の将来をリアルに思い描き、夢や希望に向かって努力する力を持つことができますし、周りからも受け入れやすくなり、誰からも愛されるようになります。
親は生まれたばかりで何もできない我が子を見ているので保護意識が強く、なんでもかんでも教えてあげようと頑張ってしまいがち。ですがそこをグッと我慢して子供の能力を高めてあげましょう。
教え過ぎが招く子供への弊害
大人は自分の経験から、「子供の頃にもっと勉強しておけばよかった!」という気持を持っていることが多いものです。「我が子には自分のような思いをして欲しくない」という愛情があるからこそ過剰なほど知識を教え込み、転ばぬ先の杖とばかりに自分の希望を押し付けてしまうのですが、パパやママの望むことが子供の人生にとって一番であるとは限りません。
親の教え過ぎは子供が考えることを妨げ、自由を奪い、自立心の成長を邪魔してしまうことがあります。
パパやママの言うことをよく聞く頭のいい子でも、一人になったら自分で決めることも行動を起こすこともできないとなれば、将来的に自分で人生を切り開いていくことが難しくなってしまうでしょう。
しかも大人の評価はわかりやすい点数などに偏りがち。良い点数をとればもてはやされ、悪い点数をとれば怒られるようでは、親子の信頼関係がめちゃくちゃになってしまいます。また自分に自信が持てないことで、他人とコミュニケーションが取れなくなってしまうリスクも。
パパやママが良かれと思って頑張ってしまう「教えすぎ教育」には、子供の生きる力を養うチャンスを奪う恐れがあることを心得ておきましょう。
教え過ぎで失敗しちゃった体験談
勉強やしつけ、日々子供が感じる疑問への答えなどを教え過ぎる弊害は、子供に期待をかけすぎるパパやママにもおよぶこともあります。
特に女性の場合は子供が生まれた直後から授乳などを通して親密な関係を築いていくので、自分と子供との境界があいまいになって子離れができなくなくなってしまったり、子供を自分の持ち物のように見せびらかしたりする、「毒親」になってしまうことも。
教えない教育で育った次男がスゴイ!
うちには小学6年生と4年生の男の子がいるのですが、長男は最初の子供で育児も何もかも初めてだったので、いろいろと気合が入って何かと世話を焼いてしまいました。長男は読み書きを覚えるのも早く、年少の頃から1桁の足し算や引き算ができるようになったので、余計に教育熱心だったように思います。
それに対して次男はマイペース。長男のように文字や数を教えてもパッとせず、無理に教えてもお互いにストレスが溜まるため、放っておき気味でした。
その兄弟に差が出てきたのはここ1~2年。長男は夕方お腹が空いてもただじっと私が家に帰るのを待つだけで、自分で何とかしようという気がないんです。炊飯器にはご飯も、パンもあるのに。たぶんご飯は親が出してくれるものだって思っているんですよね。
それに対して次男は勝手に冷蔵庫の納豆をご飯にかけて食べたり、レタスとチーズをちぎって丼を作ってアレンジを楽しんだりと、とっても生活力があります。夕方私が仕事で遅くなれば、家中のカーテンも次男がきちんと閉めてくれるという主婦っぷり。
手をかけて育てたつもりの長男と比べて放っておかれたぶん、自己トレーニングや工夫をすることが多かった次男。教えない教育は確実に子供が生きる力を伸ばすと実感しました。
親が不安なんだよね
自分ではそれほど教育熱心だとか、過保護ではないと思うのですが、私の周りには生活が子供中心に回っているという家庭が多いような気がします。今年息子が高校受験だったのですが、ほとんどの家庭は親が受験の日に学校に付き添っていき、学校の先生の待ち合わせ場所まで送るんです。
試験当日はトラブルがあったらいけないということで、あらかじめ子供に付き添うよう各家庭にお達しをする中学の先生もいるらしいのですが、電車を乗り継がなくてはいけない遠隔地だったらともかく、同じ学区内でも付き添うのって過保護じゃないかなぁと思います。少なくとも、私の時代はバスに乗って子供だけで試験に出かけたぞ。
うちの場合は下にまだ小さい子がいて息子にそれほど手がかけられないこともあって、息子は受験当日一人で行くことを決意。自分で高校の場所を確認し、電車や地図を調べて、それでも不安だからとパパにお願いして事前に実際に電車で高校へ行ってみて、大丈夫だからといって1人で出かけました。
私も心配だったので万が一の連絡用に携帯電話をこっそり持たせましたが、トラブルもなく試験が終わってニコニコした顔で帰ってきましたよ。
同じクラスのお母さんからは「心配じゃないの?」と言われましたが、基本的なことを教えてきちんとフォローできる体制さえ整えておけば大丈夫。子供を信じて、親が手を離してあげることって大事だと思います。
娘の忘れ物がひどいのは私が原因だった
私には小学5年生になる娘がいます。うちの娘はちょっとぼんやりとしていて、小学校に入ってから「忘れ物が多い」といつも先生に指摘され、最初にもらった通知表でも△がついてしました。
そこで仕方がないので私がいつも前日の夜に時間割をチェックし、学校へ持っていく物を揃えてあげていました。ところがもうじき高学年だというのに一向に改善しません。
それをたまたま職場の同僚に愚痴ったところ、「それって、ママが手を出すのをやめてみたら?」とアドバイスをされました。ちょうど私も行き詰ってしたので、もういいやと思って娘の時間割を揃えるのをやめました。
最初の2~3日は忘れものをして泣いていた娘も、懲りたのか自分で時間割を揃えるようになり、あれほど困っていた忘れ物をしなくなりました!親が手や口を出さないことも大事な教育だと分かったので、今は子供に教えるのではなく環境を整える係で頑張っています。
教えない授業を行う学校
教えない教育で子供本来の力を伸ばす取り組みは、家庭だけでなく学校教育でも既に取り上げている所があります。
その先導となっているのが東京都立両国高校。同校教諭である山本崇雄さんは授業の進行を生徒自身にゆだね、教室の後ろで見守りながら生徒同士がお互い学び合うことをサポートしています。
これは文部科学省が2020年度から施行することを発表している「新学習指導要領」のアクティブ・ラーニングの手法でもあります。
この「教えない教育」の実践方法を解説した本も出版されていますので、子供への接し方に悩んでしまったときの参考にしてみるとよいでしょう。
なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか
著者:山本 崇雄
日経BP社
1,620円(税込)
芥川龍之介などの多くの著名人を輩出した都立両国高等学校・附属中学校の現役英語教師が書いた本で、自身の授業で実践している「教えない教育」について解説しています。家庭教育にも役立てられるように具体的な手法が説明されているので、これから中学、高校へ進んでいく子供を育てるパパやママにおすすめです。
教えない教育で地頭力を育てよう!
子供の教育や子育てに熱心なのは良いことではありますが、全てを与えることだけが親の愛情ではありません。親は子供の人生の中心ではなく、あくまでもサポート役。これからの世を生き抜いていく子供達には、教えない代わりに自分で考えさせて、能力を伸ばしてあげることが大切です。
親としては「そうは言っても、しつけなど教えなければならないこともある!」と思うかもしれませんが、実は頭ごなしに教え過ぎる強制型しつけよりも、子供と共に楽しく考えて身に着ける共有型しつけが今、教育界では注目されています。
コンピューター化がますます進む中で、今IT業界が求めているのは地頭がいい人材。就職活動の際の試験にも地頭力を問う問題が出題されますので、小さい頃から我が子を地頭がいい子供に育てるためにも、教えない教育を心掛けましょう。