抜けた乳歯は投げる?埋める?それとも記念保管?国内外の言い伝えと現代の選択肢
抜けた乳歯は「下の歯は上へ、上の歯は下へ投げる」と、昔はよく言われていましたが、今では記念として大切に保管するご家庭が増えています。その利用方法は多岐にわたり、乳歯ケースで保存する方や、インテリアとしておしゃれに飾る方もいらっしゃいます。
抜けた乳歯をどうするかについては、各地(各国)に色々な「おまじない」が伝わっていますが、どのおまじないにも共通しているのは、「次に生えてくる大人の歯が、丈夫で健康でありますように」という、親から子への変わらない切なる願いです。
あなたのご家庭にはどんな方法がマッチするでしょうか。日本国内各地や世界各地に伝わる抜けた乳歯のおまじないや、現代のおすすめ保管方法などをチェックしてみましょう。
抜けた乳歯はどうする?日本国内各地に伝わるユニークなおまじない
日本国内の抜けた乳歯のおまじないでは、一般的に「下の乳歯は上へ投げ、上の乳歯は下に投げる」が基本ですが、実は地方により投げる場所やおまじないの仕方は異なります。これは、次に生えてくる永久歯が、抜けた乳歯の生えていた場所と同じ方向に伸び、まっすぐ丈夫な歯が生えるようにという願いが込められています。
地域ごとの抜けた乳歯のおまじないには様々な諸説がありますが、ご自身の住む地域にはどのようなおまじないがあるのかを、まずはチェックしてみましょう。
抜けた乳歯は石かハンマーでつぶす説も!東北地方
抜けた乳歯について東北地方の一部では、人に知られないように下の歯は屋根に投げ上げ、上の歯は地に埋め、その際「鬼の歯より良い歯、生えれんよ」と唱える風習が伝わっています。
また、秋田県の一部には、抜けた下の乳歯を石かハンマーでつぶすという、少しユニークなおまじないもありますし、上の歯は流しに、下の歯はトイレの屋根に投げる地域もあります。
昔の日本のトイレは今のように家の中にあるわけではなく、外に独立してありましたので、「トイレの屋根」という具体的な場所が示せたのです。これは、建物の高い所(屋根)や、生活に深く関わる場所(トイレ、流し)へ捧げることで、願いを込めたと考えられます。
他の地方とは逆の方向に投げる説がある!関東地方
抜けた乳歯を関東地方の一部地域では、他の多くの地方と逆に投げるおまじないをする地域があったと伝わっています。つまり、上の乳歯は上に、下の乳歯は下に向かって投げるというものです。
その際「鬼の歯に代われ、ネズミの歯に代われ」と3回唱える、「鬼の歯にとっかえろ」あるいは「良い歯に代われ」と言うとの説も残っています。理由は明らかではありませんが、「~に代われ(とりかえる)」という交換を願う表現も関東の特徴です。
「鬼の歯は後から生えろ俺の歯は先に生えろ」と呪文を唱える!信越地方
抜けた乳歯を信越地方では、上の歯は下へ、下の歯は上へ向け投げ、「鬼の歯は後から生えろ、俺の歯は先に生えろ」と呪文を唱える風習が伝わっています。
様々な地方で度々登場する「鬼の歯」は、丈夫な歯になりますようにという願いを込めて使われていたとされていますが、信越地方内でも鬼は登場せず、「おれの歯は栄えろ、兎の歯は衰へろ」と唱える地域もあります。「栄えろ」という力強い言葉に願いが込められています。
上の乳歯を軒下の雨垂れの落ちる所に投げる!東海地方
抜けた乳歯を東海地方の一部では、上の歯は軒下の雨垂れの落ちる所へ投げ、下の歯は屋根の上に投げて「良い歯が生えろ」と唱えます。雨垂れの落ちる場所に置くことで、水が流れるようにスムーズに次の歯が生えることを願ったのかもしれません。
同じ東海地方でも地域によっては、軒から滴れ落ちる雨垂れの落ちる所へ上の歯を投げるだけでなく、他の県でも見られた上の歯を縁の下や床下に投げる所もあります。家の内外の境目に供えることで、願いを天に届けようとしたと考えられます。
「ねずみの歯生えてくれ」とおまじないを言う!北陸地方
抜けた乳歯を北陸地方では、上の歯は家の溝に、下の歯は屋根に投げて「ねずみの歯生えてくれ」と言っておまじないをします。
ねずみの歯は生涯にわたって伸び続ける(常生歯:じょうせいし)特徴があります。これにあやかり「丈夫で、また新しく生えてくる歯になりますように」との願いが込められているそうです。「ねずみ」は、多くの地方で丈夫な歯の象徴として登場します。
「ねずみどん歯の生えます様に」と言って埋める地域も!近畿地方
抜けた乳歯を近畿地方では、上の歯は床下に投げるか雨垂れの溝に埋めるかし、下の歯は屋根の上に投げて「ねずみどん歯の生えます様に」と言う風習が伝わっています。
近畿地方で抜けた乳歯を埋める際、関西圏では上の歯を埋める地域が多いのですが、奈良県の一部では下の歯を埋める所もあるようです。埋めることで大地から生命力を得ようとした願いが読み取れます。
抜けた乳歯の歌がある説も!中国地方
抜けた乳歯を中国地方では、上の歯は床の下に投げて「ねずみの歯と換えませう」、下の歯は屋根に投げて「すずめの歯と換えませう」と言う言い伝えが残っています。
山口県には「ねずみの歯ととっかえてくれ」というおまじないがあるだけでなく、それに合わせたメロディーまであったと言われています。歌に乗せることで、子供が楽しく習慣としておまじないを行っていたことが想像できます。
すずめの歯と生えくらべ!四国地方
抜けた乳歯を四国地方では、上の歯は床下へ投げ、下の歯は屋根へ投げます。その際、上の乳歯だったら「すずめの歯とおらが歯と生えくらべ、おらが歯が早く生えた」、下の乳歯だったら「ねずみの歯とおらが歯と生えくらべ、おらが歯は早く生えた」と唱えます。
地域によっては「おらが歯と生えくらべ」のくだりを、言い切りの「おらが歯は早く生えた」と言うところもあります。スズメやネズミといった身近で生命力のある動物の力を借りて、早く、丈夫な歯が生えることを願う気持ちが表れています。
「ねずみ殿と早く歯の生えくらべ」と唱える!九州地方
抜けた乳歯を九州地方では、上の歯は縁の下に投げ、下の歯は屋根の上に投げて「ねずみ殿と早く歯の生えくらべ」と唱える風習が一般的です。
九州では抜けた乳歯のおまじないに、ねずみが登場するケースが一般的で、「ねずみの歯より強くなれ」と唱える地域きもあります。丈夫で長持ちする歯を願う気持ちは全国共通です。
ちなみに抜けた乳歯を沖縄では、下の歯は屋根に投げる地域が多かったですが、上の歯は床の下や石垣の間に投げるところもあるそうです。石垣は沖縄の景観を象徴する場所であり、独特な風習です。
抜けた乳歯でプレゼント交換!?海外各地に伝わる言い伝えやおまじない
海外の抜けた乳歯の言い伝えやおまじないには、日本に似たものから子供が喜びそうなものまで色々あります。国内外の違いを比べることで、文化の多様性を知る良い機会にもなります。子供が気に入ったおまじないを試してみるのもまた、親子の良い思い出作りになるでしょう。
歯の妖精が乳歯とプレゼントを交換!北米&ヨーロッパの一部地域
北米のアメリカやカナダでは、抜けた乳歯を枕の下に置いて寝ると、翌朝、歯の妖精(Tooth Fairy:トゥースフェアリー)がお金と交換してくれるという風習が広く浸透しています。以前はクオーター(25セント)が多かったのですが、金額は各家庭で異なり1ドル以上の場合もあります。
フランスやイギリスでは、妖精が歯を持っていくところは同じですが、交換するものがコインに限らず小さなおもちゃなどのプレゼントということもあるのだとか。
妖精が持って行った抜けた乳歯は、妖精の国のお金になるとか、妖精のお城になるなんて言い伝えもあります。これは、歯が抜けるという不安な出来事を、楽しみに変えるという、心理的な効果もある素晴らしい風習です。
一部では「歯の妖精はきれいな歯を集めているから、歯がキレイでないと交換してくれない」という話もあり、夢があるだけでなく、子供に自発的に歯を磨く習慣が付くため、大人にも嬉しい言い伝えとなっています。デンタルケアの意識向上にも役立ちます。
妖精ではなくネズミのペレスが来る!スペイン
スペインの抜けた乳歯の言い伝えに出てくるペレス(Ratoncito Pérez:ラトンシート・ペレス)とは、スペインで大人気の絵本に登場するネズミのことです。
スペインでは抜けた乳歯を、枕の下に置いて寝ます。この風習はイギリスやフランスなどと同じですが、コインと交換してくれるのは妖精ではなく、このネズミのペレスです。ネズミの持つ「常生歯」のイメージが、ここでも生かされています。
ネズミのペレスの絵本は、「ねずみとおうさま」の題で日本語訳されているので、子供と絵本を読んでみるのもおすすめです。ペレスの物語に触れることで、乳歯が抜ける経験をさらに特別で楽しいものにできます。
ねずみとおうさま
著者:コロマ神父 訳:石井桃子
岩波書店
640円 + 税
歯が抜けた小さな王様が、ネズミのペレスと冒険に出かけます。外の世界で小さな王様が色々なことを感じて学ぶ姿が感慨深い物語です。小さな王様の優しい気持ちに触れ、我が子もこの王様のように育って欲しいと願わずにはいられません。
乳歯が抜ける幼稚園の年長から小学校低学年の子供にピッタリの絵本です。少しレトロな絵も可愛くて、歯の生え変わる子供へのプレゼントにもピッタリの、親子のコミュニケーションにも役立つ一冊です。
日本と同じ風習も多い!?中国や韓国
抜けた乳歯を中国や韓国では、上の歯を縁の下へ、下の歯を屋根の上に投げる人が多く、基本的には日本と同じ風習であったとされています。
ただし韓国では、カラスに「古い歯をあげるから新しい歯を持ってきて」とお願いするそう。言葉や登場する動物は少し異なってきますが、基本的に日本と同じように、「次に生える歯が丈夫であること」を願うおまじないの意味合いがあります。
ネズミは海外でも人気!?ロシア・アフガニスタン・バングラディッシュ
抜けた乳歯をロシアやアフガニスタン、バングラディッシュでは、ねずみの巣穴に落とすのだとか。ここでも歯が丈夫なイメージが強い「ねずみ」が登場します。
日本でも地域によって登場したねずみですが、ロシアなどでも「ねずみのような白くて丈夫な歯が生えますように」との願いが込められているそうです。ネズミが持つ生命力や繁殖力にあやかりたいという、人類普遍の願いが感じられます。
抜けた乳歯を犬に食べさせる!?モンゴル
抜けた乳歯をモンゴルでは、若い犬のえさに混ぜて食べさせます。モンゴルでは、犬は守り神であり、人から大切にされる存在です。
そんな犬に抜けた乳歯を食べてもらえば、次に生える子供の歯はきっと犬のように丈夫な歯に育つ、と言い伝えられているのだとか。身近な動物の持つ力を借りて、子供の成長を願う風習です。
お願いする相手が違う!ブラジル・ボツワナ・スリランカなど
日本と同じように歯を投げる国は、アジア圏外にも存在します。ただしお願いする相手は様々で、日本のねずみや鬼、すずめとは異なります。
ブラジルでは小鳥や聖ヨハネ、ボツワナでは月、スリランカではリス、エジプト・リビア・レバノンでは太陽に、「丈夫な歯が生えますように」とお願いします。自然の力や神聖な存在に願いを託すという、世界共通の文化的な要素が読み取れます。
抜けた乳歯の正しい保管方法!衛生的な処理と長期保存のコツ
抜けた乳歯を記念として保管する家庭が増えましたが、きちんと洗浄して保存しなければ、カビの繁殖や変色、割れるなどの原因になります。抜けた乳歯はしっかりと洗浄して汚れを落とし、水分をきちんと乾かしてから保管しましょう。
ただし、赤ちゃんの時に取れるへその緒がカビないように保管する方法とは少し違います。抜けた乳歯は乾燥させ過ぎると割れやすくなるため、保管の際に乾燥剤を入れる必要はありません。湿気対策と過乾燥対策のバランスが大切です。
抜けた乳歯の一般的な洗浄・処理方法
- 20分間熱湯で煮沸する(滅菌目的)
乳歯をそのままの状態で保存したい、手軽に滅菌したい派のママにおすすめの方法です。煮沸により付着した細菌などを除去できます。 - オキシドールに一晩浸けてから磨く(漂白目的)
オキシドール(過酸化水素水)は、漂白・消毒の効果があります。ようじや歯ブラシなどで細かい溝の汚れを落とし、コットンの上で十分に乾燥させたら完成です。白く綺麗に保存したい派のママにおすすめです。 - 塩素系漂白剤に短時間浸けてから水洗い(強力な漂白目的)
ペットボトルのキャップ1杯分の水に、一滴のキッチンハイター(塩素系漂白剤)などを入れ、短時間(数分程度)浸けてから水でよく洗い流します。この方法も強い漂白効果があり、変色を抑えたい場合に有効です。
抜けた乳歯を煮沸する効果は滅菌ですので、煮沸では変色した乳歯を白くすることはできません。白くしたい場合は、上記のようにオキシドールや塩素系漂白剤(製品の使用方法に従って、必ず換気をしながらごく短時間・少量で)を使いましょう。
オキシドールや漂白剤を使うと、ワントーン色が明るくなります。処理後は水洗いし、コットンの上で完全に乾燥させてから、保管してください。乳歯を乾燥させることで、カビの発生を防げます。
抜けた乳歯をかわいく保存!人気のおすすめ保管ケース
抜けた乳歯のケースにはかわいい商品がたくさんありますので、お気に入りのケースを見つけて、子供の成長の宝物にしようと思うママも多いでしょう。
けれど子育て中のママからは、「外出先で歯が抜けたらしくて、全部は集まらなかった」という声も聞かれます。それはそれで良い思い出になりますが、全部集めたいママは、子供がある程度大きくなったら、歯が抜けた時はどうして欲しいかを事前に伝えておきましょう。
桐箱乳歯ケース・たまて歯庫
Solby(ソルビィ)
2,000円+税
可愛いデザインで、安心の日本製の乳歯ケースです。桐箱なので、防虫効果や湿度を一定に保つ働きがあり、抜けた乳歯の保管に適した造りです。
「たま」は美しく小さい宝石、石という意味が込められています。名前の通り優しく子供の成長を保存してくれます。箱の中にはクリアフィルムもあり、子供の歯がいつ抜けたか記載できる可愛いだけでなく、機能性も抜群のケースです。長期保存を考える方におすすめです。
ベビートゥースメモリーブック
Baby Tooth Album
3,500円 + 税 ~
一見絵本のようですが、抜けた乳歯の保管ケースです。中にいつ歯が抜けたか書き込める場所や子供の写真を貼る場所がありますので、メモリアルブックとしても活用できます。
機能性も抜群で、歯を収納できるところは蓋つきですので歯が落ちる心配もありません。絵柄も女の子用と男の子用があり、とってもお洒落で可愛いので思わず眺めてしまうケースです。思い出を写真や記録と一緒に残したい場合に最適です。
抜けた乳歯を差し込んで壁に飾るタイプの絵も販売されています。アート作品としても素晴らしく、その上子供の歯も飾れるため、パパやママの間で密かに人気があります。モダンでおしゃれな保管方法の一つです。
MILKTOOTH WORLD
合同会社carta
3,500円 + 税 ~
デザイナー「ヒガイリサ」がジュエリーデザインなども手掛けるアーティストとして、新しい抜けた乳歯の保管方法MILKTOOTH WORLDを開発しました。
抜けた乳歯を投げにくいマンションやアパートなど、集合住宅に住む家庭向けの乳歯ケースとしても人気です。名入れサービスもありますので、出産祝いやプレゼントとして購入する人もいます。アートとして飾れるのが大きな魅力です。
抜けた乳歯をリビングに飾る際の注意点:来訪者への配慮
抜けた子供の乳歯をオシャレな皿の上にのせ、リビングの飾り棚に飾っていたという事例がTVなどで話題になったことがあります。
我が子の乳歯すら可愛くて仕方がないのが親心ですが、よく考えると、訪問者の目に触れることが分かっているリビングの飾り棚に、抜けた乳歯がむき出しの状態で置かれていたら、特に子育て経験のない人や、衛生面を気にする人は驚いたり、不快に感じたりしてしまうかもしれません。
抜けた我が子の乳歯は、親にとっては愛おしい「成長の証」ですが、人を招く際は相手の気持ちを想像し、我が子の抜けた乳歯が原因で不快感や恐怖心を与えないよう配慮することが大切です。
自分の抜けた乳歯で他人が不快になれば、子供も気の毒です。抜けた乳歯は子供のプライバシーに関わる大切な記念品と心得て、家族だけで楽しむ、あるいは密閉性の高いケースに収納して保管するなどの心配りをすることが、現代的なマナーと言えるでしょう。
子育て4コマ漫画:抜けた乳歯はどうする?昔からの言い伝えを参考に
抜けた乳歯の扱い方は国によっても地域によっても家庭によってもそれぞれ異なりますが、最終的に扱いに厳格な決まりがあるわけではありません。親子の価値観や、子供の希望を尊重して決めるのが一番です。
さくさん(永岡さくらさん)の4コマ漫画のように犬が抜けた乳歯を食べてしまうこともあるかもしれませんが、万が一食べてもそれはそれで家族で驚き笑った良い思い出になるでしょう。犬にとって問題がないか心配な場合は、すぐに回収するなどの配慮をしましょう。
当たり前のように一緒に過ごす家族の時間は、いつまでも続くとは限りません。抜けた乳歯の扱い方を通して、家族で一緒に過ごせる時を思い切り楽しみ、子供の成長を祝いましょう。それが最も価値のあることではないでしょうか。
