子どもの意地悪・攻撃的行動の心理と親の適切な対応:集団生活でのトラブル解決法
お子さんが幼稚園や保育園などの集団生活に通い始めると、親を悩ませるのが意地悪な行動や子ども同士のトラブルです。自分の子どもが意地悪な子のレッテルを貼られてしまった場合は、「私の育て方が悪かったのかも…」と心底落ち込みますし、逆に意地悪な行動によって自分の子どもが困っている場合は、「いったいどういう育て方をしているのだろうか?」と相手の親御さんに憤りを感じてしまうこともあるでしょう。
そこで今回は、子どもの意地悪や攻撃的な行動の背景にある心理や発達上の特性、親の関わり方や適切な対応方法、おすすめの絵本をご紹介します。子どものトラブルでは、意地悪をする側もされる側も、親の対応次第でその後の社会性や自己肯定感に大きく影響しますので、建設的な解決を目指して対応していきましょう。
意地悪な子は「親が悪い」と言われるのはなぜか
子育てをしていると、子どもは特に一番身近にいる親の振る舞いや言葉遣いを模倣するため、「親の育て方が悪いから意地悪になる」という意見が生まれがちです。しかし、子どもの問題行動のすべてが親のせいであるとは限りません。子どもの行動は、親の関わり方だけでなく、その子の生まれ持った気質や発達段階、集団生活でのストレスや環境など、複数の要因が絡み合って生じるものです。
ここでは、集団生活でしばしば見られる、子ども同士のトラブルになりやすい行動の例をご紹介します。
- おもちゃなどの物を、相手の意思を無視して力ずくで奪う
- 言葉で攻撃を仕掛けてくる(暴言や悪口を言う)
- 自分の非を認めず、言い訳をする
- 自慢話を過度にしたり、相手を見下すような言動をする
- 仲間外れにする、仲間に入れない
- すぐ暴力をふるう(叩く、押すなど)
- 人の欠点をからかって喜ぶ など
こうした行動を「親の育て方が悪い」という一言で片づけてしまうと、問題行動の背景にある子どもの真の苦悩や欲求不満を見逃してしまいかねません。子どもが意地悪な行動を取る理由と、親が取るべき建設的な対応について、一緒に考えていきましょう。
意地悪な子の行動に悩む親の体験談
この親にしてこの子あり!と感じました
6歳の長男が通う幼稚園の同じクラスに、少し意地悪な女の子がいます。長男は一人っ子なのでおっとりとしたタイプなのですが、相手の女の子はお兄ちゃんが二人いて、とても男勝りの性格です。隠れてうちの子をからかったり、靴を隠したりと、よく嫌がらせをするため長男はいつも泣かされています。
幼稚園の先生もいつも長男が泣いているため心配してくれています。相手の親にも事情を話してくれたのですが、「うちの子はそんなことはしません。うちの子が靴を隠したって証拠があるんですか!?」と逆切れする始末で、一向に意地悪が止む気配がないんです。
私はこんなに困っているのに、相手のママは全然悪びれずに幼稚園に通っていて、ふてぶてしい態度は意地悪な娘さんそっくり!こういった親だから、子どもが意地悪な性格になるんだと感じてしまいました。
原因がわからず悩んでいます…
息子が通っているスイミングにA君という同い年の男の子がいるのですが、最近になって息子の水着のパンツを突然下げたり、練習中にヤジを飛ばしたりして意地悪をするので困っています。
もともと仲良くしていたお友達同士だったので、初めのうちは喧嘩でもしているのかと思ったのですが、最近は先生がいても私達親がいても息子にいたずらを仕掛けてくるんです。しかも行動がエスカレートしていて、先日は息子の頭を押さえつけてプールに押し込むようなことをし、さすがにスイミングの先生がしばらくの間A君をスイミングに出席停止にしてくれました。
その後、A君のママは丁寧に自宅まで来て謝罪をしてくれましたし、私の目の前でもA君のことをいさめてくれましたが、A君の態度はなかなか良くなりません。だから、私はA君のママではなくてパパのせいではないかと思っています。原因がわからず、本当に困っています。
子どもの意地悪な行動を相手の親御さんのせいにしてしまうと、相手の親御さんを責めることに気持ちが集中してしまい、子どもの問題行動を改めさせるための対策が後手に回ってしまう可能性があります。子どもは親から強い影響を受けますが、それだけでなく集団生活での刺激や個々の発達段階といった要因も行動に大きく影響します。
大切なのは、責任追及をするのではなく、問題行動の改善に重点を置くことです。親が子どもの行動の背景にある心理を理解し、一貫した愛情と行動への明確な制限を示すことが、子どもが社会性を学ぶ上で最も重要になります。
子どもの問題行動を「〇〇のせい」と責任追及するのではなく、子どもの行動の背景にある心理を理解し、問題行動を改めさせることに重点をおいて考えていきましょう。
子どもの意地悪な行動の心理的背景
子どもが意図的に、あるいは結果的に意地悪な行動を取る場合、その背後には必ず満たされない欲求や感情の課題が隠れています。多くの場合、子どもは衝動性の高さや共感力の未発達、ストレスの蓄積から、社会的に不適切な方法で自分の感情を表現してしまいます。
<意地悪な行動の背景にある心理や理由>
- コミュニケーション能力の未熟さ: 友達と遊びたいのに、適切な関わり方が分からず、ちょっかいを出す、叩くといった乱暴な行動になってしまうケースです。
- 自己肯定感の低さ: 自分に自信がないため、友達を攻撃したり見下したりすることで、一時的に優越感を得ようとしてしまいます。
- 感情のコントロール(アンガーマネジメント)の難しさ: 日常のイライラや欲求不満(例:親に叱られた、赤ちゃん返り)を、八つ当たりや乱暴な言葉で発散してしまいます。
- 共感力の未発達: 相手がなぜ嫌がるのか、どのくらい傷ついているのかを想像することが難しいため、遊び感覚で意地悪を繰り返してしまうことがあります。
- 親の注目を引きたい(試し行動): 親や先生が意地悪な行動に対して大げさに反応したり、大騒ぎになったりする様子を見て、「注目を集められる行動」だと誤解してしまうケースです。
子どもの意地悪な行為をなくしていくためには、こうした行動の元となる心理への大人の対応を是正することが重要です。相手の気持ちを理解できる共感力を高めたり、心が安定するように自己肯定感を高めるような関わり方が求められます。
意地悪な行動と発達特性・発達障害
子どもや大人から見て「意地悪な子」と思う子の中には、発達の特性が大きく関係しているケースもあります。特に自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥・多動症(ADHD)などの発達障害を持つ子どもは、集団生活で困り感が生じやすく、それが周囲から「意地悪」と誤解される行動につながることがあります。
例えば…
- 共感性の課題(ASD): 相手の表情や言葉の裏にある「やめてほしい」という気持ちを読み取れず、悪気なく不適切な行動を繰り返してしまうことがあります。
- 衝動性の高さ(ADHD): 「待つ」「考える」ことが難しく、頭に浮かんだ行動をそのまま実行してしまい、お友達を突き飛ばすなどのトラブルにつながることがあります。
- 感覚過敏: 集団の騒音や光の刺激に耐えられず、その不快感を攻撃的な言動として発散してしまうことがあります。
こうした特性を持つ子どもは、周囲の理解や適切な支援(療育)を得られないと、心が傷つき反抗挑戦性障害などの二次障害を起こして、さらに周囲を困らせる行動に走ってしまうことがあります。子どもの行動が意図的な「意地悪」なのか、それとも発達上の困り感からくるものなのかを見極めることが、適切な対応へとつながります。
発達特性による困り感がある場合は、必要に応じて専門機関に相談し、特性に合わせたアプローチでの療育や支援を受けることで、行動が劇的に改善されることも多いです。
子どもの意地悪な行動に悩むママの声
子どもの問題行動に直面したとき、親は「親としての自分に自信が持てない」という大きなジレンマに陥りがちです。特に、一生懸命子どもを指導しているにもかかわらず、行動が改善されないと、その苦しさは増していきます。
壁に突き当たっています
幼稚園年長の男の子の母親です。半年ほど前に次男が生まれたのですが、それをきっかけに長男が赤ちゃん返りをし、幼稚園でお友達を叩いたり、女の子の髪の毛を引っ張ったりするなどの問題行動が増えてしまいました。
もう何度も幼稚園の園長先生から呼ばれていて、「小さい子がいてお母さんが大変なのはわかりますが、もっと○○くんの面倒も見てあげて下さい」といわれるのですが、私としては長男のことも次男以上に愛情を示しているつもりです。
相手の子供や親御さんへの謝罪もしょっちゅうで、パパと一緒に「意地悪はいけないこと」と厳しく言い含めているのですが、なかなかわかってもらえません。最近は園に通っているほかのママ達の視線も気になってしまい、母親としての自分に自信が持てません。
この体験談のように、子どもの問題行動は環境の変化(兄弟の誕生など)によって引き起こされることもあります。子どもが指導を受け入れられない状態にあるときは、単に叱るだけでなく、子どもの心の寂しさや不安に寄り添ってあげることが問題行動を是正するための第一歩になります。
本当にその子は意地悪な子?子どもの言動の事実確認の重要性
子どものトラブルで親がまず行うべきことは、正確な事実確認です。特に幼稚園児などの小さい子どもの場合、自分の不利になることを隠したり、無意識のうちに嘘をついたり、出来事を誇張したりすることがあります。
我が子が意地悪をされたと訴えた場合でも、親が我が子の言葉だけを鵜呑みにしてしまうと、ママ同士のトラブルに発展したり、事実とは異なるレッテルを相手の子どもに貼ってしまったりする危険性があります。まずは園の先生や習い事の指導者などに事情を確認し、冷静に状況を把握することが大切です。
子どもは嘘をつくものなんですね
いまは中学生になる次男が小学生1年生になったばかりの頃ですが、次男が頻繁に消しゴムを学校で無くしてしまうことがありました。何度か消しゴムを買ってあげましたが、ひどいときには朝あげた消しゴムを夕方には持っていないこともあって、次男にどうして消しゴムをなくすのか問い詰めました。
そうしたら、次男が「B君が消しゴムを持って行っちゃうんだ」と涙ながらに言うので、慌てて担任の先生に抗議の電話をしました。息子の言うB君の家はシングルマザーで、私はB君のママとお付き合いはなかったのですが、「ちょっと乱暴な子なんだよね」という周りのママの話を聞いていたので、すっかりB君がうちの子に意地悪をしているのだと思い込んでいたのです。
ところが、先生が子ども達全員から話を聞いてくれたところ、次男はB君を含むお友達とは消しゴムを細かく切ったものをおはじきのようにはじいて当てて遊ぶ「消しピン」という遊びにハマっていて、自分で消しゴムをゴミ箱に入れていたんです。
次男は自分がやったことを私に言えなくて嘘をついていたわけですが、最終的に次男と同じように消しゴムを何度も買ってもらっている子が大勢いるとわかったのです。B君の家に怒鳴り込まなくてよかったと、冷や汗が出ました。
我が子が意地悪された時の親の適切な対応
子どもが友達に意地悪をされたと聞かされたら、親として冷静でいることは難しいでしょう。しかし、まずは感情的にならず、子どもの心に寄り添うことが最優先です。
意地悪をされて一番傷ついているのは、その子ども本人です。「何があったの!?」ときつく問いただすのは厳禁です。子どもの感情を受け止めながら、何が起こったのかを穏やかに確認しましょう。子ども同士のトラブルは、どちらか一方だけが悪いのではなく、お互いにちょっとしたすれ違いが原因でトラブルになってしまうケースも多いのです。
我が子の言動に改善の余地があるならば、それは同じようなトラブルを繰り返さないために、意地悪をされた我が子にも指導をしておく必要があります。子どもはこういった苦い経験から、周りとのコミュニケーションの方法を学んでいくので、子どもの悲しい気持ちを受け止めながら、次にどうすればよかったのかを具体的に指導しましょう。
意地悪をされた子への指導ポイント
- 悲しい気持ちに共感する: 「嫌だったね」「悲しかったね」と、まずは子どもの感情を全て受け止めましょう。
- 事実を整理させる: 「そのとき、〇〇ちゃんはどうしたの?」と穏やかに問いかけ、トラブルの状況を言葉で説明させ、客観的に認識させます。
- 適切な対処法を教える: 「やめてとハッキリ言う」「すぐに先生に伝える」など、具体的な対処法を教えます。
- 相手の心理に目を向けさせる: 「どうして意地悪したのかな?」と、相手の子どもの行動の裏にある理由を想像させて共感力を育みます。
- 「自分がされて嫌なことはしない」という基本的なルールを再認識させます。
意地悪な子に悩む我が子に読みたい絵本
親の指導だけではトラブルを前向きに受け入れられない場合には、絵本などを読み聞かせて、「自分だったらどうだろう」と考えさせるのも効果的な指導方法です。意地悪をされたときの気分を解きほぐし、相手の行動の背景へ目を向けさせるような絵本をご紹介します。
いじわるアイザック
著者:そのだ えり
ディスカヴァー・トゥエンティワン
真っ黒で大きな意地悪犬アイザックと、近所に引っ越してきた気のいいワニのオーリーとのやり取りを通して、意地悪をすることには理由があるということを教えてくれる絵本です。意地悪な行動の裏にある「さびしさ」などの感情に気づくきっかけを与えてくれます。
我が子が意地悪した時の親の適切な対応
我が子が意地悪をしてしまったと知ったとき、親は「すぐに謝らせなきゃ!」と焦りがちですが、形だけの謝罪では子どもは「意地悪=いけないこと」と認識できません。謝らせることよりも、子どもを反省させることに重点を置いて対応していきましょう。
子どもを指導する以上に大事なのが、ママやパパが子どもの心に寄り添ってあげることです。意地悪な行動には何らかの不満やイライラが隠されていますので、頭ごなしに否定するのではなく、まず子どもの話を聞いて、「どうしてそんなことをしたのか」という子どもの気持ちを理解してあげましょう。その上で、行動への明確な制限を課すことが重要です。
意地悪をした子への指導ポイント
- 強い言葉で叱らない: まずは子どもの言い分を最後まで聞き、感情的な背景を受け止めます。
- 行動と気持ちを分ける: 「叩いたのはいけないことだけど、そうしたくなった気持ちはわかるよ」と、気持ちは認め、行動は否定するというスタンスを取ります。
- 行動を具体的に制限する: 「叩くのはダメ」「靴を隠すのは絶対にいけない」と、どのような行動が問題なのかを具体的に教えます。
- 謝罪を強制しない: 子どもが心から反省し、自分の意思で謝りたいと思えるように促します。
- 代わりの行動を教える: 乱暴な言葉や行動の代わりに、「貸してと言う」「先生に相談する」など、社会的に適切な表現方法を教えます。
- 日頃から自己肯定感を高める: 意地悪をしないときや、良い行動ができたときに、具体的に褒めてあげましょう。
心配な我が子に読みたい絵本
子どもが意地悪な行動を繰り返していて、親や先生の話を受け入れることが難しい場合には、絵本などを使って心を解きほぐしていくといいでしょう。わかりやすい文と絵で描かれた絵本は、子どもに具体的な例を示し、登場人物に同調することで、自分の行動を客観的に振り返りやすくなります。
いじわる
著者:せな けいこ
鈴木出版
意地悪をしてしまう男の子を主人公に、嫌なことがあったときやイライラして、ついつい周りに意地悪をしてしまう子どもの気持ちをわかりやすく解説しています。意地悪をすると意地悪をされるというストーリーを通して、意地悪はつまらないことなんだということを、子どもにもわかりやすく教えてくれる絵本ですよ。
意地悪な子やされた子の心に寄り添い、社会性を育む
子どもがトラブルを起こすと、親は周囲の目を気にしてしまいがちですが、トラブル解決と子どもの指導で一番重視すべきは子どもの心です。トラブルを起こしたことで頭ごなしに怒るのではなく、子どもの良いところも悪いところもありのままを受け止めてあげることが、子どもの自己肯定感を育みます。
子どもの成長にとってパパやママの存在は非常に大きく、子どもに一番よい影響を与えられるのは、親と子どもがしっかりコミュニケーションが取れて、お互いの気持ちが通じ合っているときです。家族間のコミュニケーションはお友達との関係の基本ですから、日頃からしっかり子どもの心に寄り添って、適切な社会性を育んでいけるといいですね。