ネウボラって何?フィンランド流子育て支援に取り組む自治体
結婚をして赤ちゃんができると、「赤ちゃんへの接し方がわからない」「働きたいけれど、子供の預け先がない」など、女性はさまざまな壁を乗り越えて行かなくてはなりません。そんな時、日本では実家を頼るなどの個人的な繋がりに頼らざるを得ないのですが、これは必ずしも安定してはおらず、多くのママが不安な思いをしながら子育てをしていますね。
そんな中、いくつかの自治体が取り入れ始めているのが「ネウボラ」です。このフィンランド流子育て支援で、私達の子育てはどう変わるのでしょうか?今回は本場フィンランドのネウボラを解説しながら、日本版ネウボラの活動についてご紹介していきます。
ネウボラって何?
「ネウボラ」とは、北欧フィンランドで取り入れている公的な子育て支援制度のことです。最近は日本の新聞や雑誌でも、「ネウボラ」や「日本版ネウボラ」などの言葉を目にする機会も増えてきましたね。「子育て中の女性のほとんどがフルタイムで働き社会で活躍しながら、一人の女性が生涯で産む子供の数である特殊出生率およそ1.8をキープする秘訣」と言われる、本場フィンランドの「ネウボラ」。さっそく見ていきましょう。
ネウボラの基本的な理念
「ネウボラ」とは、フィンランド語で「アドバイスの場」という意味をもつ言葉です。妊娠中のママや生まれた子供の健康面のサポートはもちろん、乳幼児やその兄弟、パパやママといった家族全体の心と体の健康をサポートしてくれるんですよ。
フィンランドでネウボラの目的
フィンランドでは乳幼児の「保育」への支援だけでなく、「教育」のサポート、男女共同企画参加の推進など、社会制度として子育て環境を整え、子供を社会全体の一員として受け入れて育てることを目的としてネウボラ制度を実施しています
ロシアから独立した当初のフィンランドは内戦が勃発し、乳幼児が亡くなることが多く、多くの子供の命が失われました。そんな子供達を救おうと、1920年代に医師や保健師らを中心した民間組織の活動として始まったのがネウボラです。その後1944年に法制化され、1949年からは国内どこでも誰でも近くの「ネウボラ」支援を受けることができるようになりました。
女性にとって子育てと社会的な活動を並行して行うことは難しく、経済的に豊かな国ほど出生率が先細りしていくのは、日本をはじめとする先進国共通の問題点ですよね。そんな世界の中で、子育て支援制度として高い評価を受けているのが「ネウボラ」。
この制度のためにフィンランドはとても子育てがしやすい国と評価されていて、セーブ・ザ・チルドレンが実施している「お母さんにやさしい国ランキング2013&2014」では、フィンランドがランキンク1位に輝いています。
ネウボラの実施機関
フィンランドでは各自治体にママや子供のサポートを行う、「ネウボラ」という施設を全国で850箇所設け、その施設を拠点としてさまざまなサービスを提供しています。ネウボラを設置・運営しているのは日本の市町村にあたる自治体。施設には医師や保健婦などの専門職が配置されていて、妊娠中のママの健診や生まれた子供の無料健診、必要に応じて家庭訪問の保健サービスを行っています。
ネウボラでは、必要に応じて管理栄養士、ソーシャルワーカー、リハビリセラピストなどへのコンタクトも行えるため、専門機関を自分で探さなくても、多岐にわたる支援を継続して受けることができるのです。
ネウボラの対象者
フィンランドのネウボラには、大きく分けて次の2種類のサポートがあり、妊産婦の99.8%、子供の99.5%という高い利用率で国民がネウボラの支援を受けています。
フィンランドの2種類のネウボラ
- 出産ネウボラ
妊娠中の女性、妊娠期から就学前までの子供を持つ女性や家族が対象
- 子供ネウボラ
生まれてから就学前までの子供が対象
日本でも母子手帳などの母子の健康支援をする公的な制度はありますが、ネウボラはもっと広い、社会全体の育児支援を行っています。対象者も生まれた子供や妊娠中・産後の女性だけでなく、育児中のママやそれを支えるパパ、子供の兄弟や祖父母などと広く、家族全体の心身の健康をサポートしてくれるので、フィンランドでは親の虐待により子供の命を落とす確率を極めて低く抑え込むことにも成功しています。
ネウボラでは、日本での児童手当にあたる「母親手当」があり、出産後に即必要になるベビー服やベッド用品、ケア用品などの育児グッズおよそ50点を詰め込んだ「育児パッケージ」or「現金140ユーロ(約19,000円相当)」を受けることができ、日本のように手当を受ける際の所得制限はありません。子供を出産し、社会の一員となる子供を養う家庭全てが平等に、必要とする支援を受けることができるのです。
ネウボラのサポートを受けられる期間
ネウボラの支援を受けることができる期間は、赤ちゃんがお腹に宿った妊娠中から、就学前までと長期にわたります。ネウボラの支援が始まるのは、女性が妊娠に気が付き近くのネウボラを訪れてからで、出産ネウボラでは妊娠中の女性は8〜9回の健診、出産した後は2回の無料健診を受けて健康面でのサポートを受けることができます。
出産後の子供ネウボラでは、生まれてから小学校に入学するまでの期間をとおして子供は15回の無料健診を受けることができます。ネウボラの健診では医療面のチェックだけでなく、出産や育児、家庭環境や精神的な不安など、さまざまな多岐にわたる事項の相談できるので、1回の面談は30分から1時間ほどと長く、丁寧な支援を行ってくれるのも特徴の一つですね。
ネウボラでは担当者が変わらず、同じ「ネウボラおばさん」と呼ばれる相談員が小学校入学前までの長い期間、継続的にママや家庭をサポートしてくれますので、お互いに信頼関係を築きやすくママも相談がしやすいので安心ですし、問題の発見や解決がスムーズに進むというメリットがあります
こういった相談のデータは50年間にわたって保存され、さらなる支援活動に役立てられ、医療機関との連携に活用されたりして、効率的に家庭や子供を支援していきます。育児の悩みは子供の成長につれてさまざまに変化していきますので、こういった切れの無い、水を漏らさないような緻密な支援は、親にとっても、子供にとっても大きな助けになりますね。
ネウボラの具体的な支援方法
ネウボラの具体的な支援活動は、次のような多岐にわたるものです。
- 妊娠中、産後のママに対する定期健診・検査
- 親向けの教室
- 出産後の家庭訪問
- 育児の悩みに応じた他機関の紹介
- 出産後の保健師よる健診
- 母親手当の支給
- 家族全員に対する総合健診
- 子供に対する健康診断・発達検査
一見、日本の子育て支援と同じようなイメージを持ってしまいますが、ネウボラでは妊娠中・産後のママへの健診はパートナーの同席を勧めていて、夫婦が一緒に育児をするということの意識付けを行っています。
子供の出生で変化しやすい家族間のトラブルに対処するために、誕生前・誕生後にそれぞれ1回家族全員の健康を面談と検査で確認する総合健診を行うなど、生まれた子供の環境全般を整えることを目的とした、日本にはないきめ細やかな活動がネウボラの特徴です。
育児パッケージは、「より身近な支援を」と、コンペを開いてママが受け入れやすいデザインに改良するなどの自治体が努力し、利用するママ達の意見を時代の変化にあわせて取り入れているため、年間約6万人の受給者のうちの半数以上、約4万人が選択するそうです。高い利用率と出生率の向上に役立っていることは言うまでもありませんね。
日本の子育て支援と日本版ネウボラ
出生率に伸び悩み、少子高齢化社会を迎える深刻な悩みを抱える日本でも、ネウボラへの関心は高まっていて、平成27年の「子ども子育て支援制度の事業」の中でも、ネウボラを意識した事業の推進が盛り込まれています。
実家の親や知人に頼る日本の子育て
日本で進む少子高齢化は、次世代の人材不足だけでなく今現在の社会を運営する人材も不足するという2重の問題を抱えています。日本の総人口1億2千万人以上の現代社会で、なぜ今現在の人員が不足しているのでしょう?それには、社会生活に加わるべき若い年代の女性が出産・育児のために家庭に縛られ、社会活動ができないという背景があります。
社会問題としても取り上げられている通り、日本では充分な保育所の数が確保されず、子育て世帯への経済的な支援制度が不十分であるなど、行政の子育て支援制度がまだまだ整っていません。そのため、子育てをする女性は実家の親や知人を頼りにせざるを得ず、フィンランドのように積極的に子育てをしながら社会で働くことが難しい傾向があります。
こういった育児や将来に対する悩みは深刻で、女性の中には妊娠・出産への不安も根強いですね。加えて日本では妊娠中の女性に対する行政の支援も遅れているため、自治体や行政を頼る妊産婦が少なく、妊娠中や育児中のトラブルが発覚しにくいため、虐待などの子供の成長を脅かす家族の問題への対応が間に合わないといった多くの課題が残っています。
自治体が取り組み始めた日本版ネウボラ
日本にも母子健康事業などの妊産婦や子供をサポートする公的な制度はあり、戦後高かった乳幼児の死亡率を激減させたという実績があります。けれど、今の支援制度ではこれ以上の出生率の向上は見込むことができませんよね。そのため、日本の自治体でも日本版のネウボラを導入して、出生率の向上と子育てのしやすい自治体づくりへの取り組みが既に始まっています。
現在検討されている日本版ネウボラでは、従来の母子健康事業はそのままにし、並行して子育てと高齢者支援を一体化させ、包括的な支援活動ができるサポート拠点を設け、子供や子育て支援に対する支援を行っていくという計画が多いです。ただし、これでは妊産婦が受けられる支援は増えるものの、医療機関とサポート拠点両方に通わなくてはならず、かえって当事者の負担が増えてしまいますよね。
また、サポート拠点が妊婦や子供の健診を行わないのであれば、信頼関係の構築がスムーズに進まず、利用率の向上が見込めないというデメリットも…。そのため、医療機関との連携だけでなく、地域の民間・NPOも含めた母子のサポートサービスとも連携を視野に入れて、生まれてくる赤ちゃん、ママや家族を含めた総合的な支援サービスが模索されています。
日本でネウボラを受けられる自治体
内閣府の日本版ネウボラ導入の意向を受けて、2015年には全国で29の自治体がネウボラを意識したモデル事業に名乗りをあげて取り組んでいます。2016年には150の自治体が妊娠・出産・子育ての包括的支援拠点を作る事業の確立を目指していますので、その一部をご紹介していきますね。
1埼玉県和光市
埼玉県和光市では、「わこう版ネウボラ3本の矢」として妊娠期からの切れ目のない支援を目指しています。妊娠中、産後、子育て中のママが悩みを相談できる環境として、次のような3つの支援の場を設けてママ達のサポートを実施していますので、妊娠が分かったら近くの包括支援センターに行ってみましょう。
- 母子保健相談事業
- 産後ケア(ショートステイ型・デイヘア型・訪問型)
- 産前産後サポート
TEL: 048-424-9124
時間: 月~金
8:30~17:15
住所: 〒351-0192
和光市広沢1番5号 市役所1階
こども福祉課
市内5ヶ所の包括支援センター中、4ヶ所に母子保健ケアマネージャーがいます。まずはお近くの包括支援センターで母子手帳の交付を受ける際に、心配事などを相談してみましょう。
2東京都文京区
東京都文京区では区内に3つのネウボラ拠点を設け、次の子育て支援を実施しています。
- 母親学級・両親学級の開催
- 宿泊型ショートステイ事業
- ネウボラ相談
- 新生児沐浴指導事業
- 母乳相談・母乳指導事業
- 産後のヘルスケア&バランスボール教室
- サタデーパパママタイム事業
- 健康診断・健康相談事業
- 育児用品の詰まったパッケージの交付
TEL: 03-5803-1805
FAX:03-5803-1371
時間: 月~金
午前8時30分~午後5時15分(祝日、年末年始を除く)
住所: 〒112-8555
東京都文京区春日1丁目16番21号
シビックセンター3階(健診フロア)
8階(事務室)保健サービスセンター
教室・相談には予約が必要な物もあります。
3千葉県浦安市
千葉県浦安市では、健康センターを拠点として「母子保健」と「子育て支援」を包括的に集約し、次のような日本版ネウボラ事業を展開しています。
- 子育てケアプランの作成
- 産後ケア事業
- 理由を問わない短時間の一時預かり事業
- 「こんにちは あかちゃんギフト」の交付
- こんにちは あかちゃんチケットの交付
- ファーストアニバーサリーチケットの交付
浦安市 こどもネウボラ
TEL: 047-712-6424
住所: 〒279-8501
千葉県浦安市猫実一丁目1番1号
浦安市役所
2階 こども課
「こんにちは あかちゃんギフト」はマザーズバッグや肌着、靴下などの衣類の詰め合わせで、「こんにちはあかちゃんチケット」は市内協賛店で使える5,000円分の金券、「ファーストアニバーサリーチケット」は10,000万円分の金券です。
4神奈川県南足柄市
神奈川県南足柄市では健康医療福祉センターを拠点に、助産師や保健師などの専門スタッフを配置して、次のような子育て支援活動を行っています。
- 母子健康手帳の交付
- 妊婦相談
- 乳幼児健康相談
TEL: 0465-74-2517
住所: 〒250-0192
神奈川県南足柄市関本440番地
南足柄市役所
健康づくり課 保健予防班
従来市民課で行っていた母子健康手帳の交付もネウボラ事業で行っています。
5北海道釧路市
北海道釧路市では、「ネウボラのおうち」という妊娠・出産包括支援センターを設けて、妊娠中・就学前までの子育てお悩み相談を行うほか、次のような形で子供やママのサポートをしています。
- 産前・産後ケア事業(デイケア型・宿泊型)
- こどもショートステイ事業
- 子育てヘルパー派遣事業
TEL: 0154-40-5213
FAX:0154-40-5240
時間: 月~土
9:00~17:00
日曜日・祝日・年末年始12/30~1/5を除く
住所: 〒088-0628
北海道釧路郡釧路町東陽大通西1丁目1番地1
健康福祉部こども健康課母子保健係
お悩み相談以外のケアは世帯の所得に応じて有料になります
6三重県名張市
三重県名張市では市内15地域に既存設置されている、子供から高齢者までの相談窓口である「まちの保健室」を拠点として、このような子育て支援をしています。
- 子育て相談
- なかよし広場の開催
- マイ保育ステーションの開催
- 地域ボランティアと連携した、「地域の広場」の開催
TEL: 0595-63-6970
FAX:0595-63-4629
時間: 月~金
午前8時30分から午後5時15分
年末年始・祝日を除く
住所: 〒518-0492
三重県名張市鴻之台1番町1番地
名張市役所
福祉子ども部 健康・子育て支援室
人や地域とのつながりを重視していることが、名張版ネウボラの特徴です。
ネウボラは産後復帰や夫婦関係もサポート
ネウボラは、妊娠期から就学前までの子育ての支援制度ですが、それ以上の効果も期待されています。その一つが子育て中のママの職場復帰のサポート。早いうちからネウボラでライフプランの相談を受け付け、個々の不安や悩みを行政と一緒に解決していくことで、子育て中のママの職場復帰もしやすくなることが期待されています。
また、ネウボラでは夫婦そろった健診や相談、両親学級などを通して、子育て中の夫婦関係の支援も期待できます。妊娠中の支援から積極的に男性が関わることで男性も育児に参加がしやすくなりますし、共同して育児をすることで良い夫婦関係を築くことができるのです。
子育ての悩みや夫婦間の悩みは、家族関係の崩壊を恐れて自分から進んで行政機関に相談をすることをためらってしまう、神経質にならざるを得ない相談です。そういった声なき声も、妊娠中から行政の担当者と強い信頼関係を築いて置くことで行政側が知りやすくなります。
ネウボラを日本全国に導入することへの課題
日本版ネウボラの事業内容は今後も改善が必要ですが、なにより必要なのは子育てをする私達の意識改革です。ネウボラは社会活動や子育てに男女格差が無く、女性の積極的な社会進出が認められて、男性が積極的に育児を担当する男女共同参画の先進国であるフィンランドだからこそ成果をあげている育て支援制度。
日本ではまだまだだ「男は仕事、女は家庭」といった意識が強く、子育て中の女性に対する目が厳しいのが現状ですよね。こういった意識を社会全体で改善し、社会全体で子供を受け入れて子育てしていくという意識を啓発することで、ネウボラが定着して私達の子育てが少しでも良い物になるといいですね。