子供の養育費は親の義務であり子供の権利
「養育費」とは子供を育てるためのお金であり、子供の権利でもあります。食費、被服費、医療費、教育費、娯楽費など子供を育てていくために必要な全ての費用を指し、子供の生活水準を保つために支払われます。
離婚をしても子供にとって父親・母親である事実は変わらず、子供を育てるにはお金が必要であり、親には子供の生活を守って行く「生活保持の義務」があります。よって、この「養育費」は子供の権利であり貰う義務があります。「慰謝料」のように元配偶者の精神的苦痛に対して謝意をこめて支払われるお金とは違うのです。
また、養育費は離婚後の面会交流の有無に関係なく、親として支払い、受け取らなければなりません。子供の扶養の義務は離婚後子供との同居、別居に関係なく同じだけ存在します。
しかし、離婚して母子家庭になったシングルマザーのうち、6割が元夫からの養育費を貰えていないという過酷な現実も。統計によると、父親と養育費の取り決めをして子供の養育費を受け取っているシングルマザーは全体の3分の1程度にとどまります。
平成23年度 シングルマザーの養育費についての調査
●母子世帯の母の養育費の取り決め状況
・養育費の取り決めをしている…37.7%
・養育費の取り決めをいていない…60.1%
・不詳…2.2%
養育費の取り決めすらしていないシングルマザーがなんと6割を超えています。養育費の請求は子供を育てる上で当然の権利なので離婚前に必ず協議しましょう。
●養育費の取り決めの文書の有無
・養育費の取り決めをしている 文書あり…70.7%
・養育費の取り決めをしている 文書なし…27.7%
・不詳…1.6%
取り決めをしても文書がないと口約束になってしまう危険性があります。そんなシングルマザーが2割を超えるのが現実です。
●養育費の取り決めをしなかった理由
・相手に支払う意思や能力がないと思った…48.6%
・相手と関わりたくない…23.1%
・取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった…8.0%
・取り決めの交渉がわずらわしい…4.6%
・相手に養育費を請求できるとは思わなかった…3.1%
・自分の収入等で経済的に問題がない…2.1%
・子供を引きとった方が、養育費を負担するものと思っていた…1.5%
・現在交渉中又は今後交渉予定である…1.0%
・不詳…2.2%
・その他…5.7%
養育費の取り決めをしなかった理由は様々ですが、「子供を引きとった方が、養育費を負担するものと思っていた」や「相手に養育費を請求できるとは思わなかった」など離婚前の下調べの大切さが確認できる結果となっています。
●養育費の受給状況
・現在も受けている…19.7%
・過去に受けたことがある…15.8%
・受けたことがない…60.7%
・不詳…3.8%
受給状況では6割超のシングルマザーが養育費を受け取っていない状況が確認できます。養育費は自分のものではなく、子供の為に必要な費用です。もう一度養育費について考えてみましょう。
(参考資料:厚生労働省調査「平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」)
子供の養育費が貰えない?!過酷なシングルマザーの生活
・シングルマザーの貧困率5~6割(54.6%)
・収入(就労):平均181万円
・非正規雇用:半数以上
金銭的な不安を抱えることの多いシングルマザーを取り巻く現実を数字で見ていくと、シングルマザーの年収は子供のいる他の世帯就労年収658万円に比べると約400万円も低く、その5割以上が非正規雇用…。
さらに多子家庭については家事育児量も増えるため、経済的困窮に加え、時間的困窮にも陥っています。仕事も家事、育児をきちんとやろうとして病気になったり、多子家庭において子どもが増えるほど、家事や育児に時間がとられて就労時間、就労所得が減っていくつらい現状は否めません。しかし、離婚率が増えるに伴いひとり親家庭は増えているのです。
増えるひとり親家庭とシングルマザー数の推移
●母子世帯になった理由別 世帯数
・昭和53年…死別316.1 離婚240.1 未婚の母30.3 その他47.1
・昭和58年…死別718.1 離婚352.5 未婚の母38.3 その他67.9
・昭和63年…死別849.2 離婚529.2 未婚の母30.4 その他37.3
・平成5年…死別789.9 離婚507.6 未婚の母37.5 その他33.4
・平成10年…死別954.9 離婚 653.6 未婚の母69.3 その他40.2
※単位:千世帯
平成10年には全ての理由でもっともシングルマザーが増えたと言えます。特に未婚の母の世帯数が爆発的に増えたのが特徴的です。
●母子世帯数及び構成割合の推移
・昭和53年…死別49.9% 離婚37.9% 未婚の母4.8% その他7.4%
・昭和58年…死別36.1% 離婚49.1% 未婚の母5.3% その他9.5%
・昭和63年…死別29.7% 離婚62.3% 未婚の母3.6% その他4.4%
・平成5年…死別24.6% 離婚64.3% 未婚の母4.7% その他4.2%
・平成10年…死別18.7% 離婚 68.4% 未婚の母7.3% その他4.2%
平成10年を割合で見ると死別が減少し、離婚と未婚の母の割合が増えているのが確認できます。女性の社会進出が進み、生き方も多様化してきた現代だからこそ離婚を選ぶ夫婦が増えたのかもしれません。
(参考資料:総務省統計局調査「母子世帯になった理由別 母子世帯数及び構成割合の推移」)
実際に受け取っている養育費の金額
子供を引き取る側にとって、養育費は離婚後の生活や子育てを安定したものにする為の命綱といっても過言ではありません。養育費をいかに守れるかは育費を取り決める段階にかかっていると言えます。
養育費についての疑問
・養育費はどれぐらい取れるのか?
・養育費の相場はどのくらい?
・どうやって決めるのか?
・子供が何歳まで受け取れるのか?
◆子供一人の場合
看護している子供が一人の場合で一番多いのは2~4万円です。これは取り決めをした全体の45%で約半数を占めています。次いで多いのは4~6万円で全体の20%です。4万円以下の取り決めは全体の69%を占めています。
◆子供二人の場合
子供一人の場合と同様2~4万円の額が一番多く34%、次いで多いのも4~6万円で全体の26%です。
この統計をみると、子供の数が増えるにつれ養育費の額も比例して増えるわけではなく、それほど増額されていません。
この額は生活保持の義務の観点からみると非常に低額と言えます。支払う側の資力に限界があるところから、このような結果になっているのでしょうが、ここから子供の進学費用も…となると子どもを大学に通わせるのは難しくなりそうです。
子どもを育て上げるまでにかかる費用
子どもを育てあげるまでにかかる費用は、子供の進学・進路によって大きな差が生じますが「養育費(生活費)」と「教育費」合わせて、トータル1500~3000万円程度ともされています。
民間保険会社(出典:AIU保険会社調べ)の調査によりますと、一人の子どもが誕生から大学を卒業するまでの22年間でかかる費用として、基本的養育費約1,640万円に子供の進学・進路に合わせて必要になる教育費を加えた総額として約三千万円、上は六千万円掛かってくるというデータも…。
一度に必要になる額ではありませんが、子どもが大きくなるにつれお金がかかるのも事実ですし、心配はつきませんよね。
養育費算定表をもとに妥当な金額を受け取ろう
養育費の取り決めの仕方には法的な規定がないため、協議で決めるにも調停員を挟むにしても、お互いの折り合いを見つけて決定していくしかありません。
養育費の目安として参考にされているものに「養育費算定表」があります。養育算定表とは、標準的な養育費を簡単に算出できる、東京・大阪養育費等研究会(家庭裁判所有志で構成)にて作られたものです。養育費の相場を知り妥当な金額を要求するには、算定表の存在も必ず知っておく必要があります。
養育費算出の条件
・養育費を支払う側の年収
・養育費を受け取る側の年収
・子どもの人数
・子どもの年齢
子供の養育費として妥当な金額を算出するには、これら4つのデータをもとに養育費を算出していきます。しかし、入力データはこの4つの情報のみですので、夫婦それぞれが持つローン等その他の事情は考慮されていないため、あくまで判断材料のひとつとして参考に留めておく程度にしておくのが良いかも知れません。養育費算定表は裁判所のホームページよりダウンロード出来ます。
養育費はいつまで受け取れるか「支払い終期」
子供の養育費の取り決めに当たり、毎月の支払額のつぎに気になるのは「養育費をいつまで支払ってもらえるのか?」という養育費支払い期間についてでしょう。この支払いの終期もまた、子供の養育費を取り決める際の争点にもなってきますので知識が必要です。
養育費を支払う側は早期に支払いを終了させたい、受け取る側はなるべく長期にわたって支払ってほしいと当然考えます。養育費支払いの期間はいつまでか?に対する答えは、一般的に「子どもが扶養を要しない状態になったとき」まで。つまり、子どもが成人(20歳)に達する月までとされています。
原則20歳ですが、高校卒業後に働く場合と大学進学、卒業後に働く場合と様々です。
高校卒業と同時に働く子どもは、その時点で「扶養を要しない状態」ですので、養育費の支払いが18歳までとなるでしょう。また、大学進学し卒業後に働く子どもは、卒業するときには年齢が22歳です。大学進学する場合は、子どもに主たる収入がないので「扶養を要する状態」とみなし、養育費の支払い終期を22歳までと考えることが出来ます。
養育費支払い終期は…
高校卒業後約50%は大学進学する時代なので、養育費取り決めの段階で養育費支払い終期(支払う期間)を大学卒業までと合意してもらうと安心です。
相手が合意してくれない、協議に応じない場合は調停や審判を申し立てて終期を決めますが、原則家庭裁判所は子どもが大学進学したとしても、養育費の終期は20歳までと考えることが多いようです。
また、調停になると父母の学歴や資力を考慮して最終的な養育費の終期を決めます。父母に大学卒業の学歴、資力があるケースでは子供の養育費も大学卒業まで、と判断される可能性は高いと言えます。
支払い終期は離婚協議書に明記
養育費支払い終期への合意が出来たら、離婚協議書(公正証書)にしっかり明記して残しておきましょう。
ごく一般の人が作成した離婚協議書には「支払い終期」記載欄が抜けていることが多々あるようですが、効力が絶大となる公正証書の離婚協議書にきちんと明記することが重要です。
より多くの養育費を貰うためには
ただ単に口頭で金額を訴えても説得力がなく夫の納得を得られないでしょう。子供の養育費を希望額貰いたいのなら、養育費の額の説明には子どもが成人するまでにかかる金額は相場や環境から予測した具体的数字と信憑性のある数字データを提示する必要があります。
また、あらゆる統計を利用し成人するまでにこれからかかってくるお金(数字)を算出して書面にする作業は、相手の説得に有効に働きますが、プラスアルファの養育費を獲得するには「養育費算定表の額はあくまで参考、あの金額では正直言って大学進学、卒業はさせられません!」と言い切れる、より多くの知識と工夫、努力が必要となります。
児童扶養手当と養育費との関係
離婚後に子供を引き取って、いざシングルマザーとして生活が始まると一番不安定なのは経済面ですね。養育費があってもなくても、「児童扶養手当」は離婚後すぐに申請するようにしましょう。児童扶養手当は4月、8月、12月に4カ月分まとめて支給されます。
平成26年1月現在で満額支給された場合で、月額42,000円です。また、二人目の場合は5,000円加算され、三人目以降は一人につき3,000円が加算されますが、養育費を受け取っている場合は注意が必要です。
児童扶養手当を申請
・児童扶養手当は満額支給で月額42,000円
・貰っている養育費の8割は収入の扱いになります。
・児童扶養手当は遡って申請出来ないので注意しましょう。
・虚偽申告すると罰則対処となります。
給与以外に、養育費も収入としての扱いになります。実際には受け取っている養育費の8割が収入の扱いとなりますが、養育費の額に比例して児童扶養低当て支給額は減額されます。児童扶養手当は母子家庭にとって大きな支えですので、申請しそびれることのないようにしましょう。
養育費を支払ってくれない元夫への対応は?
子供のための養育費ですが、養育費の話し合いの際は揉めることも多いものです。相手が「離婚したら他人」と養育費を払わないと主張するケースも少なくありません。しかし、子供を育て続ける責任のあるシングルマザーにとって、養育費は子ども生活を安定させるためには必要不可欠な命綱。相手が支払わないと言ってきても負けずに対処していきましょう!
「生活保持義務」を盾に対応しましょう!
先にも述べたとおり、親には子供に対しての「生活保持義務」があります。(民法820条)生活保持義務では、未成年の子供に対して親は、自分の生活水準と同等の保障をすることを義務付けられています。離婚し夫婦が他人に戻っても、親子は親子。監護者でなくなっても扶養義務はなくならないため、離婚後子供と離れて暮らすから養育費は支払わないと言うのは通用しません。
また、生活保持義務では、扶養義務者である親が経済的に苦しい場合でも、自分の生活費を削ってでも被扶養者の生活を自分と同程度維持しなければならないとされています。つまり、養育費の支払う側が失業状態、多額の借金あり経済的余裕がないなど、生活に余力がない状態でも子供の養育費の支払いはされなければならないのです。
養育費を免れるというのは、原則生活保護を受けている状態、病気で長期間働けないなどどうしようもない状況のみですので、その他の訴えであれば養育費の確保に努めたいところです。
子供の養育費は強い姿勢で守りましょう
裁判所も養育費と親権者について下記のように判断しています。
「両親は親権の有無に関係なく、それぞれの資力に応じて未成熟子の養育費を負担する義務を負うものであり、親権者となった親が第一次的に扶養義務を負担すべきであると解することはできない」
(福岡高決昭52.12.20)
元夫が、養育費を支払わないと言っているとしたら、それは通用しないという認識を持ち、必要あれば調停に持ち込む姿勢で挑みましょう。先に述べた養育費算定表の算出額は最低額と考え、それ同等もしくはそれよりも少しでも多く養育費として獲得出来るようにしたいものです。