理系脳の幼児の育て方:好奇心と考える力を伸ばす遊びと関わり方
「理系学部を出た人のほうが年収が高いらしい」——そんな話を耳にしたことはありませんか。ある調査でも、平均年齢46歳の時点で理系出身者のほうが文系出身者より年収がやや高い傾向がみられたと報告されています(注1)。ただしこれはあくまで平均的な傾向で、年収は職種や働き方、本人の得意分野によって大きく変わります。「理系だから得」「文系だから損」と単純に言い切れるものではありません。
それでも「どうせなら、わが子には考える力をしっかり身につけてほしい」と思うのが親心。そして考える力の土台は、脳がぐんぐん育つ乳幼児期から学童期の家庭での関わり方で少しずつ育っていきます。
そこで今回は、よく耳にする「理系脳」という言葉の正しい捉え方から、幼児期に伸ばしたい力、メリットとデメリット、進路にまつわる「文転」の話、そして家庭で今日からできる育て方まで、まるごと整理してご紹介します。
そもそも「理系脳」って何?
「理系脳」と聞くと、なんとなく「理科や数学が得意な人」というイメージが浮かびます。でも実際のところ、理系脳と文系脳には、脳のつくりそのものに違いがあるのでしょうか。まずは言葉の意味を整理してみましょう。
「理系脳」「文系脳」は”考え方のクセ”を表す言葉
「理系脳」「文系脳」という言葉は、脳のタイプというより物事への向き合い方のクセを表す言い方として使われています。理系的な考え方をする人は、「本当にそうなの?」と一度立ち止まり、実際に試したり確かめたりしながら結論を出そうとします。一方で文系的な考え方をする人は、これまで積み重ねられてきた知識や経験を手がかりに、全体像をとらえて判断していく傾向があります。どちらが優れているというものではなく、両方とも生きていくうえで欠かせない力です(注2)。
「右脳型・左脳型」で決まるわけではない
かつては「理系脳は左脳、文系脳は右脳が優位」と説明されることもありました。しかし実際には、脳は左右どちらか一方だけで働いているのではなく、右も左も協力し合いながら働いていることがわかっています(注3・注4)。近年では「右脳型・左脳型」「男性脳・女性脳」といった分け方には科学的な根拠が乏しい、と指摘する研究者も増えています。つまり「うちの子は生まれつき文系脳だから…」と決めつける必要はまったくないのです。
幼児期に「理系脳・文系脳」は決まらない
脳が大きく育つ時期には段階があり、思考の土台となる部分が伸びるのは4~8歳ごろ、神経のネットワークが盛んに増えるのは9~12歳ごろといわれます(注6)。発達のまっただ中にいる幼児の段階で、「この子は理系」「この子は文系」と決めることはできません。
むしろ気をつけたいのは、8~10歳ごろになって自分の考えがはっきりしてきたときです。「やっぱりあなたは算数が苦手ね」「本、嫌いなの?」——そんな何気ないひと言を周りから繰り返し言われると、子ども自身が「自分はこういう人間だ」と思い込み、苦手意識を固定してしまうことがあります。かける言葉には少し気を配りたいですね。
「理系・文系に分けること自体がナンセンスだ」という意見も多く、文系でも理系でも論理的に考える力は必要です。実際に、法学と数学のように一見遠い分野でも本質は共通しているとして、文系と理系の融合を進める大学も増えています(注2)。子どもの才能の芽を摘まないためにも、固定観念を植えつけて「嫌い」「苦手」を増やさないようにしたいものです。
「理系脳」で伸ばしたい5つの力
理系的な考え方を意識して関わっていくと、子どもは成長とともに次のような力を少しずつ伸ばしていきます。どれも特別な才能ではなく、日々の関わりで育てられる力です。
言語力
言葉を使って考え、その考えを相手に正確に伝える力のことです。「理系なのに言語力?」と意外に感じるかもしれませんが、実験の手順を説明したり、気づいたことを筋道立てて話したりするには、言葉の力が欠かせません。
ちなみに文部科学省は、言語力を単なる国語の力ではなく、知識と経験・感性・情緒・論理的思考をもとに考えを深め、言葉でコミュニケーションを行う力と幅広く定義し、その育成に取り組んでいます(注5)。
論理的思考力
物事を道理に当てはめ、筋道を立てて考える力です。「AだからB、BだからC」と順序立てて考えられると、勉強はもちろん、友達とのトラブルを解決するときにも役立ちます。
乳幼児期はまだ複雑な思考回路が育ちきっていないため、いきなり大人のような理屈は難しいもの。それでもこの時期は脳が猛スピードで発達し、神経のつながりが複雑に張りめぐらされていく大切な時期です。焦らず具体的な体験を重ねるうちに、少しずつ論理的に考えるのが得意になっていきます。
問題解決力
目の前の課題を乗りこえ、将来の夢や目標を叶えるために欠かせない力です。問題解決が得意な人は、次の3つのプロセスをスムーズにこなしているといわれます。
問題解決へのプロセス
- 問題を正しく認識する
- 解決策を導き出す
- 実行する
この力は理系・文系を問わず、社会で活躍する多くの人に求められます。そのため、問題解決の考え方を教育プログラムに取り入れている大学も少なくありません。
発想力
さまざまなアイデアを思いつく力です。発想力を育てるには、「それって本当?」と常識を疑ってみる柔らかい頭が大切。子どもが突拍子もないことを言い出しても、「面白いこと考えたね」といったん受け止めてあげると、自由な発想がのびのび育ちます。
推理検証力
情報から仮説を立て、それを確かめて結論を導く力です。じつは研究職だけでなく、証拠を積み上げて主張を組み立てる弁護士など、文系の仕事にも欠かせません。子どもが将来どちらの道に進んでも役立つ力だからこそ、幼児期から育てておく価値があります。
幼児を理系脳にするメリット&デメリット
理系的な関わりを意識する一番のメリットは、なんといっても集中力が育ちやすいこと。幼児期は興味がころころ移り変わるものですが、虫や植物の観察など「好き」を入り口にすると、時間を忘れて夢中になる姿がよく見られます。「ごはんだよ」と何度声をかけても土いじりをやめない…なんて場面も出てくるかもしれません。
一方で、自分の興味を最優先しがちなため、まわりと歩調を合わせるのが少し苦手に見えることもあります。公園でみんなが鬼ごっこをしていても、ひとりで黙々とダンゴムシを探している——そんな様子に「協調性は育っているかな」と不安になるママもいるでしょう。ただ、これは「集中できる」の裏返しでもあります。無理にやめさせるより、「観察が終わったら一緒に鬼ごっこしようね」と見通しを伝えてあげると、気持ちを切り替えやすくなります。
専門家のなかには、「一つのことを深く掘り下げるのは得意でも、一歩引いて全体を見渡すのは苦手になりやすい」と指摘する声もあります。たとえば発表の場面で、一つのテーマを深掘りできても、関連する別の視点と結びつけて全体像として伝えるのが難しい、というケースです(注7)。
とはいえ、これも「苦手だから直す」のではなく、「得意な深掘り力に、少しずつ視野の広さを足していく」と考えると気がラクになります。「ほかにはどんなやり方があるかな?」と問いかけるだけでも、視点を広げるよい練習になりますよ。
「文系っぽい」子でも大丈夫?進路と”文転”の話
幼児の脳はまだ完成していないので、「うちの子はどうも文系っぽいな」と思っても、これから関わり方しだいで考える力はいくらでも伸ばせます。ここでカギになるのが、やはり家庭での関わり方です。
ちなみに、理系の生徒が文系に専攻を変えることを「文転」、その逆を「理転」と呼びます。幼児期にどんな関わりをしていても、進路が分かれる高校生・大学生の時期に、興味の変化から文転・理転を選ぶ子はめずらしくありません。
「理転より文転のほうがしやすい」と言われることもありますが、これも絶対ではありません。大切なのは、理系的な関わりで育つ論理的思考や問題解決力は、どちらの進路でも必ず役立つということ。幼児期に考える力の土台を育てておけば、子どもがどんな道を選んでも、その力は生きてきます。
理系の息子がまさかの文転
私には今年高2の息子がいますが、息子は乳児期から好奇心が強く、1歳になったばかりの頃一日中「これ!これ!」と様々な物を指さして、私に名称を聞くような子でした。私自身も理系のため赤ちゃんの頃から理系脳開発に力を入れ、幼児教室にも通わせたほどです。
小学校に入学後は学校の算数が簡単すぎてつまらないとのことで、本人が私立中学への進学を希望し入学しましたが、高1の末に進路が分かれる際に突然文転したのです。驚きでした。
中学入学時から化学や数学の先生が嫌いで授業中に集中できず、次第に理数系の成績が下がり、逆にもともと好きだった読書や国語にのめり込むようになったことが文転の理由です。
ただ、文転したからといって受験に不利とは思っていません。理系脳でよく言われる論理的思考などは文系でも役立つからです。それに理系の理解力がとても高いと塾の先生からも言われています。だから小さい頃に一緒に遊びながら楽しく理系脳開発をしてよかったと思っています。
理系脳の幼児の育て方
3歳ごろになると、毎日のように「なんで?」「どうして?」の質問攻めが始まります。正直、家事の途中だと「あとでね」と言いたくなりますが、この”なぜなぜ期”こそ考える力を伸ばす絶好のチャンス。「なんでお空は青いの?」と聞かれたら、「なんでだろうね、一緒に調べてみようか」と返してみましょう。答えを教えてしまうより、一緒に調べて答えにたどりつく体験のほうが、好奇心と探求心をぐっと育ててくれます。
たくさんの「なぜ?」に出会わせるには、やっぱり外遊びが一番。「今日はどうして暑いんだろう?」「なんで、この公園の砂は湿っているのに、あっちの公園は乾いてるの?」「この花の名前、なんていうのかな?」——自然のなかは、子どもの探究心をくすぐる「なぜ?なに?」の宝庫です。答えがすぐわからなくても、「不思議だね」と一緒に驚くだけで十分です。
また科学館や博物館に出かけるのもおすすめ。最近の施設は、見て・触れて・体験できる参加型の展示が増えていて、「なんで動くの?」「どうしてこうなるの?」という気持ちをたっぷり刺激してくれます。雨の日のお出かけ先としても心強い味方です。
理系脳に育てるのに役立つ遊び
お金をかけなくても、家の中でできる遊びはたくさんあります。まずはトランプの神経衰弱。数字に触れる機会が増えるうえ、めくったカードの場所を覚えようとするので、集中力を養うのにぴったりです。
そして将棋やオセロといったボードゲームも、先を読む力を育ててくれます。ただし大人が本気で相手をすると子どもは勝てず、すぐに嫌になってしまうもの。オセロなら四隅を子どもにゆずるなど、ハンデをつけて「勝てた!」という達成感を味わえる工夫をしてあげましょう。
NEWスタディ将棋
くもん出版
3200円+税
駒に動かせる方向が矢印で書かれているので、将棋のルールを知らない大人でも、子どもでもすぐに始められる入門セットです。
「駒の動きがわからなくて教えられない」という心配がいらないので、親子でいっしょに楽しめ、先を読む思考力を育てるのに役立ちます。
ブロックやレゴも、発想力に加えて、立体を頭の中で組み立てる空間把握力を養ってくれます。市販のおもちゃならマグネティック マイティーマインドもおすすめです。
マグネティック マイティーマインド
ボーネルンド
3,400円+税
プラスチックシートに描かれた図形を、マグネットのパーツで作っていくおもちゃです。簡単な形が組み合わさって複雑な形になる仕組みが、遊びながら自然と理解できます。カードは易しいものから少しずつレベルアップするので、集中しながら達成感を味わえます。
紹介した商品は3歳~8歳向けですが、5歳~9歳向けの「マグネティック スーパーマインド」もあります。
理系脳にするのに役立つ習い事
習い事の代表格はピアノ。左右の指を別々に動かすので、脳をバランスよく使うトレーニングになります。
体操やプールなど体を動かす習い事もおすすめです。先生の説明を聞いて、繰り返し試し、少しずつ修正していく——この流れそのものが「検証力」や「問題解決力」を養ってくれます。
近年はロボット教室や料理教室も人気です。料理は「分量をはかる」「手順どおりに進める」「火が通ったか確かめる」と、じつは理系の要素がいっぱい。子どもが興味を持ったものの中から選ぶと、いやがらずスムーズに取り組めます。
家庭で育てたい”これからの理系の芽”—プログラミングとSTEAM教育
いま学校教育でも、理系的な考える力を育てる動きが加速しています。2020年度からは小学校でプログラミング教育が必修化されました(文部科学省)。といっても「プログラミング」という教科ができたわけではなく、算数や理科、総合的な学習の時間などのなかで、物事を順序立てて考える「プログラミング的思考」を育てることがねらいです。
同じく2020年度からは、小学3・4年生で外国語活動、小学5・6年生で英語が正式な教科として始まっています。理系の力も語学の力も、これからの時代に幅広く求められているのですね。
さらに近年は、科学・技術・工学・芸術・数学を横断的に学ぶSTEAM教育にも注目が集まっています。むずかしそうに聞こえますが、家庭でできることはとてもシンプル。料理で分量を量る、洗濯物がなぜ乾くのか話してみる、積み木でどうすれば高く積めるか試す——身のまわりの「なぜ?」を一緒に考えることが、そのまま立派な入り口になります。特別な教材がなくても、日常が学びの場になるのです。
よくある質問
最後に、幼児の「理系脳」について寄せられやすい疑問をまとめました。
Q. 早くから理系脳に育てないと手遅れになりますか?
いいえ。脳は幼児期以降も育ち続けます。「何歳までに」と焦る必要はなく、子どもが興味を持ったタイミングで、その好奇心にこたえてあげることが一番の近道です。
Q. うちの子は数字より絵やお話が好きです。理系には向いていない?
そんなことはありません。表現することが好きな子は、発想力や言語力がすでに育っている証拠。その「好き」を入り口に、「どうしてそう描いたの?」と問いかけていくと、考える力も一緒に伸びていきます。
Q. 教材やドリルは必要ですか?
必ずしも必要ありません。神経衰弱や外遊び、料理のお手伝いなど、お金をかけなくてもできることがたくさんあります。子どもが楽しめているかどうかを、一番の目安にしましょう。
理系脳だけでもダメ?大切なのはバランス
理系的な考える力を育てることはとても大切ですが、人とうまく関わるコミュニケーション力もまた、多くの場面で必要になります。だからこそ、理系的な力と文系的な力の両方をバランスよく育てていきたいですね。
幼児期にたくさんの経験をさせ、じっくり考えさせ、好奇心を満たしてあげること。それが、将来子どもが「やりたい」を見つけたときに、それを実現する力になります。「理系か文系か」と枠にはめるより、目の前の「なぜ?」を親子で一緒に楽しむことから始めてみましょう。
参考文献
- 注1:経済産業研究所(RIETI)「理系出身者と文系出身者の年収比較」
- 注2:J-STAGE「高等教育における文理区分への疑義」
- 注3:自然科学研究機構「右脳と左脳の構造の違いに関する研究」
- 注4:科学技術振興機構「脳科学と前頭前野に関する解説」
- 注5:文部科学省「言語力の育成方策について」
- 注6:国立青少年教育振興機構「脳と体験」
- 注7:日本科学未来館「科学は日本で、どれくらい”文化”なのか」




