アンダーマイニング効果でやる気を削がないで!ご褒美の危険
子供にやる気を出してほしい時や挫折して凹んでいる時、親としては子供を元気づけようとご褒美をあげたり、「頑張って」とか「頑張ったら、いいコトあるよ」なんて励ましの声をかけたりしがちですよね。ところが、これが意外と効果がないことが多い!なぜなら、アンダーマイニング効果を知らずに行っているから。子供をやる気にさせるには、ちょっとしたコツが必要なんです。
今回は、アンダーマイニング効果とお金や物のご褒美、励ましの言葉や褒め言葉といった報酬の関係を解説しながら、子供のやる気を引き立てていく働きかけのポイントなどについて、詳しくご紹介していきます。
アンダーマイニング効果とは?ご褒美は危険?
アンダーマイニング効果とは、心理学者のエドワード・L.デシが提唱したもので、子供が好きで取り組んでいたことに対して、大人が子供の頑張りを後押ししようと、不用意に何らかのご褒美をあげてしまうことで、子供のやる気を失わせて、子供のこれまでの頑張りを水の泡にしてしまう現象のことをいいます。
「え~!なんで?」と思うパパやママのために、わかりやすい具体例をご紹介しましょう。あなたのお子さんが勉強よりサッカーが大好きなA君という男の子だと想像して、考えてみてくださいね。
アンダーマイニング効果の具体例
A君はこれまで勉強そっちのけでサッカーを楽しみ、勉強のことでママに心配をかけて来ました。ところが、ある日受けた九九のテストの点数がひどくて、「ヤバイ!もっと勉強しなきゃ」とやる気を出します。
そこでA君はじっくりと勉強に取り組んでみることにし、その結果だんだん問題が解けるようになり「なんだ、勉強って楽しいな」と、サッカーだけでなく勉強にも前向きになり成績もよくなってきました。
それを見たママは、もっとやる気になってもらおうと思って「頑張っているから、ご褒美に新しいサッカーボールを買ってあげるわね」と、A君が前々から欲しがっていたサッカーボールをプレゼントしました。
ところが、この時A君は「なんだ、勉強すればサッカーボールをもらえるんだ。でも、もうボールが手に入ったから、勉強しなくていいや」と思い、勉強に対するやる気をなくしてしまったのです。
どうでしょう?A君がやる気をなくしてしまった気持ちが理解できますか?お子さんに対して、あるいはパパやママ自身が、このような経験をしたことがあるのではないでしょうか?
アンダーマイニング効果とは、このように子供の内側から起こったやる気を、良かれと思って用意したお金や物などのご褒美、あるいは励ましの言葉という言語報酬によって失わせ、モチベーションを下げてしまう現象なのです。
子供のやる気がアップする2つの原動力
子供のモチベーション(やる気)をもっと引き出したいと考えるならば、人間がどんなものに意欲を燃やすのかをしっかり理解しておく必要があります。実は私たち人間は、内発的モチベーションと外発的モチベーションの2種類で行動しているといわれています。
内発的モチベーション
内発的モチベーションとは、「面白い」「やりがいがある」「達成感があって嬉しい」などの、自分の内面の気持ちが原動力になって沸き起こる意欲、やる気のことをさします。
内発的モチベーションの具体的な例
- 興味があるから、もっと知りたい
- 楽しいから、もっとやりたい
- ホームランを打って、チームに貢献したい
- 人の役に立つことは、嬉しい など
とても前向きな気持ちですね。こういった内発的モチベーションには、何の利害関係もありません。ただ自分の「やりたい、頑張りたい」という意志だけで、自ら課題に取り組もうと努力をするので、集中力が高くなり、良い結果を出すことが分かっています。
外発的モチベーション
一方、外発的モチベーションとは、「何かが欲しい」「良い評価を受けたい」などの、自分の努力で得られる結果や成績よりも、他人から与えられる物や評価などのほうに気持ちが向いて生まれる意欲、やる気です。
外発的モチベーションの具体的な例
- 100点がとれたら、自転車を買ってもらえる
- 100点をとって、みんなを羨ましがらせたい
- 100点をとって、親に認められたい
- 手伝いをして、先生に褒められたい など
こういった利害関係のあるモチベーションは、確かに一時的には強いやる気を引き起こすかもしれません。
しかし、対価を得た段階で「もう自転車はもらったから、これ以上勉強をする必要はない」などと意欲を失ってしまったり、思ったような対価を得られなかったことで、「あんまりよい評価を受けることができなかったから、もういい」などとあきらめに繋がったりするきっかけになりやすいのです。そのため、やる気を持続することができず、良い結果を作り出すことができなくなるのです。
それだけでなく、自分のやる気が「〇〇が欲しい」という物欲に置き換わってしまうので、繰り返すことで何をするにも外発的モチベーションしか感じ取れなくなってしまう恐れも…。そのため、外発的モチベーションばかりを与えられた子供は、自発的に何かを始めても、途中で放り投げるなど中途半端な行動ばかりを起こしてしまう結果になりかねないのです。
なぜ先生は報酬によるやる気アップを行うの?
内発的モチベーションと外発的モチベーション。子供のやる気を2つに分けてアンダーマイニング効果を考えた時、大人が不用意に子供に与えてしまうご褒美、報酬がどんなに気をつけなければならないものかがよくわかりますね。
ですが、学校や習い事などの先生達は、賞状やシール、スタンプなどを子供にくれたり、褒め言葉をかけたりすることで、子供のやる気を引き出すということを日常的にしています。確かに、賞状欲しさや先生にみんなの前で褒めてもらいたい一心で、小さな子供が頑張って勉強やスポーツなどに取り組むことは多いです。一体どうしてなのでしょう?
オペラント条件付け
実際に、1960年頃までの児童教育の考え方は、子供のやる気を引き起こすために外発的モチベーションを利用し、対価や褒美を与える方が良いとする傾向がありました。これは、心理学者バラス・スキナーの行った実験結果により立証されたオペラント条件づけを、好意的にとらえる考え方からきたものです。
オペラント条件づけとは
報酬を求める気持ち、もしくは罰を受けることを避けようとする気持ちを利用して、外発的モチベーションにより自発的な学習行動をおこさせることです
スキナーが行った実験とは、レバーを押せばエサが出てくる構造の箱に飢えたネズミを閉じ込めておくこと。ネズミはエサ欲しさにレバーを押すことを効率よく学習し、習得したそうです。今でも、犬など動物のしつけに使われていますね。
ところが、1970年代に入りアンダーマイニング効果の提唱者である心理学者デシにより、実験で外発的モチベーションによるアンダーマイニング効果が確認されると、一般的な児童の教育の場では、むやみに対価や報酬などを使って子供の意欲を引き出すことは好ましくないという考え方が広まっていきました。
ただし、オペラント条件付けは、内面的モチベーションを持たせにくい小さな子供や発達障害のある子供には有効な手法と捉えられています。そのため、今も幼児教育や発達障害児への療育の一環として、オペラント条件付けに基づいた技法がよく用いられているんですよ。
エンハンシング効果
それではなぜ、学校の先生や多くの教育者が褒める子育てによる言語報酬を推奨するのでしょう?幼児や発達障害児に褒める言語報酬が効果的なことは分かりましたが…。「小中学生や大人だって、褒められれば嬉しくてやる気がでる」という疑問点が浮かび上がってきますよね。
実は、小中学生、あるいはそれ以上の大人は、エンハンシング効果が働くと考えられているのです。
エンハンシング効果とは
褒め言葉による言語報酬、あるいは賞の受賞を目指すことなどにより、内的モチベーションの動機付けになり、やる気が高まる現象
人に褒められることで、「自分の評価を下げたくない」、あるいは「もっと役に立てる人間になりたい」などと、やる気がアップすることがありますよね。人間には自分をより良くしたいという想いがありますので、その心を刺激するような褒め言葉やよい評価などを受けると、やる気に火がつくわけです。
そのため、様々な教育現場でエンハンシング効果を狙った取り組みが行われ、多くの教育者が「お子さんを褒めましょう」と言っているのです。ただし、褒め方を間違えるとアンダーマイニング効果を引き起こしてしまうため、パパやママは気をつけるようにしましょうね。
「がんばれ!」のアンダーマイニング効果
アンダーマイニング効果には、金銭や物品による報酬だけでなく、言語報酬も含まれています。それが、子供のやる気を削ぐ「励ましの言葉」。特に、日本人の大好きな「頑張れ!」という励ましの言葉は、子供の心の状態によっては、「もう、これ以上は頑張れない…」というやる気の低下を招きかねません。
なぜなら、ギリギリまで気を張って頑張っている子供にとって、親から「頑張って」と言われるということは、「あれ、これまでの頑張りを認めてもらっていない?」という、正しい評価を受けなかったことによるアンダーマイニング効果を引き起こしてしまうからです。
うつ病など、精神的に追い詰められた人に対して「がんばれ」という言葉をかけることが好ましくないことは知られていますよね。相手のことを思って、普段何気なく口にしてしまいがちな「頑張れ」。不用意に使わないように、チョット心がけておきたいですね。
我が子のやる気はどのタイプ?
何人か子育てをしていると、子供の容姿が1人1人違うように、やる気の持ち方も子供それぞれに個人差があることがわかるかと思います。子供のやる気は3つのタイプに分かれます。お子さんはどのタイプでしょう?子供のやる気タイプを知っておくことは、子供のやる気を引き立てたい時に、親がどうやって働きかけをすればいいのかを考える参考になりますよ。
子供のやる気3タイプ
- 内発的モチベーションが高い子供
親に言われなくても、自発的に学習などに取り組むことができる - 外発的モチベーションが高い子供
親や先生に言われなければ、学習などになかなか取り組まない - 無気力な子供
無気力で、親や先生に何を言われても学習などに取り組まない
こうしてタイプ別に子供を分析すると、絶望的な気分になるパパやママも多いでしょう。けれど安心して下さいね。子供の心は繊細かつ不安定で、絶えず次の3つの状態の間を揺れ動いています。
揺れ動く3つのモチベーションの状態
- 内発的モチベーションでやる気をアップさせる状態
- 外発的モチベーションでやる気をアップさせる状態
- 無気力な状態
子供の心の状態によっても、ご褒美の結果やアンダーマイニング効果の現れ方が変わることが分かっています。
ですから、日頃から子供のやる気タイプと心の状態をしっかり把握することに努め、子供の状態にあったやる気の引き出し方を心掛けていきましょうね。
報酬の与え方への4つの対策
アンダーマイニング効果を知った今、「子供にご褒美は与えちゃいけないんだ」と思っていませんか?けれど「ご褒美=絶対に与えてはいけないもの」というワケではないんですよ。
アンダーマイニング効果は、子供のタイプや心の状態によって現れ方が違います。この違いをよく理解しておけば、子供のやる気の低下を引き起こさない程度に外発的モチベーションを刺激し、良い効果だけを子供に与えることも可能のです。子供のやる気をそがない、ご褒美の与え方のポイントを紹介します。
1報酬はたまに与える
アンダーマイニング効果は、子供が物や言葉の報酬を期待していない場合には起きにくくなる傾向があります。おもちゃやお小遣い、お菓子などのご褒美を頻繁に与えたり、常に褒め言葉を浴びせたりしていると、与えなくなったときに「あれ、どうして今回はもらえないの」というやる気の低下を招きます。
ですから、報酬は頻繁にではなく、子供が予測できない程度にたまに与えるようにし、報酬をもらう嬉しい気持ちだけを子供に感じてもらいましょう。
2報酬は子供のタイプで加減する
子供のやる気タイプによって、報酬の効果も変わってきます。中でも、内向的モチベーションが高い子供は、報酬を与えても比較的アンダーマイニング効果が起きにくい傾向があることがわかっています。こういった特性を理解し、子供のタイプによって次のように報酬の量や頻度を加減しましょう。
子供のやる気タイプ別の報酬の与え方
- 内発的モチベーションが高い子供には…
物欲があまりないので、報酬は適度に使う - 外発的モチベーションが高い子供には…
「○○するから○○を頂戴」というタイプの子供には、報酬は軽めにし、頻度を減らす - 無気力な児童には…
意欲を向上させる起爆剤として、報酬を適度に使う
3報酬は子供の状態によって加減する
子供のやる気のタイプと同様に、子供の心の状態によっても、アンダーマイニング効果の起こり方は違います。内発的モチベーションでやる気になっている時ほどアンダーマイニング効果は起きにくく、そうでないときは起こりやすくなりますので、子供のやる気タイプや頻度を加味しつつ、心の状態も考慮して報酬を加減しましょう。
4報酬には「褒め言葉」を選ぶ
金銭や物品、言葉などの報酬のなかでも、「褒め言葉」はアンダーマイニング効果が起こりにくい傾向があります。ですから、子供への報酬の与え方に迷ったら、まずは褒め言葉にして与えるとよいでしょう。
ただし、褒め言葉も兄弟や他人と比べるような表現、あるいは数字で目に見えるような表現にしてしまうと、アンダーマイニング効果を起こしやすくなってしまうので、気を付けましょうね。
アンダーマイニング効果を防いで子供のやる気を引き出そう
子供の人生は子供のものだといっても、身近にいる可愛い我が子が行き詰っていたら「何とかしてあげたい」と思いますし、頑張っていれば「ご褒美をあげて労いたい」と思うのは、当たり前の親心。大人だって、好きで引き受けている仕事であっても、頑張った後にお給料をいただけると心がホコっとして暖かくなりますよね。使い方さえ間違わなければ、褒美は決して子供を害することはありません。
アンダーマイニング効果を起こさず、子供のやる気だけを引き出す報酬は、目に見えないけれど子供の心を温かくさせる「気持ち」であることが一番です。報酬を与えるパパやママと子供との関係が良好であればあるほど、アンダーマイニング効果は起きにくくなる傾向がありますので、どんどん暖かな気持ちを伝えて、子供のやる気を支えてあげましょうね。