雛人形の飾り方~お雛様の正しい並べ方を覚えましょう
女の子の健やかな成長を願うひな祭りは、お子さまの成長を実感できる春の大きなイベントの一つです。雛人形を背景に、美味しいひな祭り料理を囲む写真を大切にされている方も多いのではないでしょうか。今度は、親となった皆さまが、ご自分のお嬢さまのためにひな祭りをお祝いしてあげる番ですね。
しかし、いざ雛人形を飾ろうとすると、「男雛は右?左?何段目だっけ?」と、人形や道具を飾る位置が分からなくなることもあるかと思います。ここでは、皆さまのために、一般的な雛人形の並べ方を詳しくご紹介します。
関東と関西でお顔が違う
雛人形のお顔が、関東と関西で異なる特徴を持っていることをご存知でしょうか。一般的に、関東雛(江戸木目込人形など)は、目が大きめで、口元が微かにほころんだ、ふっくらとして可愛らしい印象のお顔立ちをしています。一方、京雛(京人形など)は、切れ長の目に鼻筋が通った、いわゆる京美人を思わせる、上品で優美な雰囲気のお顔立ちが特徴です。どちらのお顔にも魅力がありますので、購入する際は、ご自分のお好みに合わせてじっくりと見比べてみてください。
関東と関西で男雛・女雛の位置が違う
関東と関西では、雛人形のお顔だけでなく、男雛(お内裏様)と女雛(お雛様)の位置にも違いが見られます。
古来、日本では「左上位」の考え方が主流でした。これは、公の場では「向かって左(上座)」に最も貴い方が座るという宮中の文化に基づいています。そのため、京雛(関西)の並び方は、古来の慣習に従い、向かって右に男雛、左に女雛が並びます。
一方、関東雛の並び方では、向かって左に男雛、右に女雛が並ぶのが一般的です。これは、大正時代以降に、西洋の文化や天皇陛下の即位の礼の形式などが取り入れられ、「右上位」の考え方が広まった影響と考えられています。どちらの並べ方でも間違いではありませんが、お人形の由来や、お住まいの地域に合わせて飾るのがよいでしょう。
雛人形の並べ方
毎年、雛人形を並べる際に、多くの方が戸惑うのが飾り方です。親王飾りのようなシンプルな雛人形でも、どこに何を置くか迷うことがありますし、7段飾りとなると、飾るものが多くて大変に感じるかもしれません。そんな時のために、一般的な7段飾りの並べ方を簡単にご説明します。
1段目
1段目には、主役である親王(男雛と女雛)が並びます。親王の背後には金屏風を立て、その左右にはそれぞれ雪洞(ぼんぼり)を置きます。中央には、神様へのお神酒などを供える台である三方(さんぼう)を置くのが一般的です。男雛には、右手に笏(しゃく)、左腰に太刀をつけ、頭に冠(かんむり)を被せます。女雛には、檜扇(ひおうぎ)を開いた状態で両手に持たせてください。
2段目
2段目には、三人官女(さんにんかんじょ)が並びます。官女は宮中に仕える女性で、お酒を運ぶ役割を担っています。並び順は、向かって左から長柄銚子(ながえのちょうし)、三方(さんぽう、または座り官女)、加之銚子(くわえのちょうし)の順です。
中央の官女だけが座っている座り官女で、三方を持っていることが多いです。向かって左側の官女が長柄銚子(柄の長いもの)、右側の官女が加之銚子(口で加えるもの)を持ちます。雛人形によっては、真ん中の官女が三方ではなく、島台(しまだい)などを持っている場合もあります。三人官女の間には、桜餅などを乗せる高坏(たかつき)を入れます。
3段目
3段目には、宮中のお祝いの際に演奏を担当する楽人である五人囃子(ごにんばやし)を並べます。並び順は、向かって左から、太鼓(たいこ)、大鼓(おおつづみ)、小鼓(こつづみ)、笛(ふえ)、謡(うたい)の道具を持った人たちです。一番右の謡は、歌い手であるため楽器ではなく扇を持っています。左に向かって楽器が順に大きくなると覚えておくと分かりやすいでしょう。
4段目
4段目には、親王の護衛役である随身(ずいじん)の二人を並べます。向かって左に左大臣、右に右大臣を配置します。一般的に、左大臣が老人、右大臣が若者とされているので、顔つきで判別できます。この二人はボディーガードの役割を担っているので、手には弓矢を持っています。それぞれ右手に弓、左手に矢を持たせます。このとき、矢の羽が下を向くように持たせてください。段の中央には、二つの菱台(ひしだい)を並べ、その左右に御膳(ごぜん)を飾ります。
5段目
5段目の左右には、左近の桜(さこんのさくら)、右近の橘(うこんのたちばな)が置かれます。これは、京都御所の紫宸殿に植えられている木々がモチーフになっています。向かって左に桜、右に橘を置いてください。そして、段の中央には3人の仕丁(しちょう)が並びます。仕丁は宮中の雑用係で、並び順は向かって左から台傘(だいがさ)、沓台(くつだい)、立傘(たちがさ)を持っているのが一般的です。この仕丁たちの表情は、怒り顔、泣き顔、笑い顔と特徴的で、これは、表情豊かな子に育つようにとの願いが込められているとも言われています。
6段目
6段目からは嫁入り道具が並びます。向かって左から順に、箪笥(たんす)、挟箱(はさみばこ)、長持(ながもち)、鏡台(きょうだい)、針箱(はりばこ)、火鉢(ひばち)、茶道具が並ぶのが一般的です。これらはすべて、平安時代の貴族のお姫様が持参した豪華な花嫁道具が元になっています。
7段目
7段目にも、駕籠(かご)、重箱、御所車(ごしょぐるま)といった嫁入り道具が並びます。6段目の飾りよりも比較的大きな物が並ぶ形になります。最近では、花嫁道具の風習がなくなりつつありますが、昔の人々が、いかに豪華に花嫁の門出を祝ったかが伝わってきますね。
雛人形を飾る場所
雛人形を飾る方角については、神棚と同じように南向きまたは東向きが良いという伝統的な考え方があります。しかし、絶対的な決まりがあるわけではありませんので、雛人形の大きさや、ご自宅の環境に合わせて飾るのが現実的です。ただし、直射日光やエアコンの温風が直接当たる場所に置くと、変色や変形の原因となってしまうため、このような場所は必ず避けるようにしましょう。
雛人形を飾る時期・しまう時期
3月3日の桃の節句に間に合うように飾りたいと思っても、いつ頃から飾るのが良いのか迷うかもしれません。特に決まった日があるわけではありませんが、一般的には、立春(2月4日頃)を過ぎた頃の暖かい、天気のいい日を選んで飾るのが良いとされています。
また、しまう時期も気になるところで、「しまうのが遅いと婚期が遅れる」という言い伝えもあります。これは、「早く片付けられるように躾ける」という意味合いで語られてきた側面もあり、単なる迷信としてではなく、子どもの自立心を育む機会と捉えることもできます。雛人形をしまうのは、遅くとも3月中旬までにし、しまう日も湿気のない晴れた日を選ぶようにしましょう。
雛人形の手入れ・しまい方
準備するもの
- 手袋(白手袋など)
- 羽ばたき
- ティッシュ&和紙
- 雛人形専用の防虫剤
湿気があると、カビが生えてしまう可能性があるので、雛人形をしまう日は、湿度の低いカラッとした天気のいい日を選びましょう。また、皮脂がついてしまうと、シミやカビの原因になるため、人形や道具を扱う時は手袋をはめるようにしてください。
しまい方の手順は、まず、羽ばたきなどで優しく埃を払い落とします。調度品や飾りなども、柔らかい布で埃を丁寧に拭き取りましょう。しまう前に、お人形の顔部分には柔らかい白紙を被せ、汚れを防ぎます。ティッシュをゆとりを持って顔に巻き、上から和紙で覆うと良いでしょう。
防虫剤はあまり入れすぎると人形の痛みや変色の原因となるので、容量を守り、人形や飾りに直接触れないように箱に入れてください。収納場所は、湿気を避けるため、納戸や押し入れの上段にしておくのがベストです。
吊るし雛の飾り方・しまい方
雛人形が非常に高価だった時代、一般家庭ではなかなか手に入りにくいものでした。そのため、代用品として、小さな布細工を吊るして飾る吊るし雛(つるしびな)が始まったとされています。吊るし雛には、女の子が衣食住に困らないようにという願いが込められ、人形の一つひとつにも、それぞれ意味が込められています。
この吊るし雛の飾り方は、市販の専用の飾り台に飾るか、直接天井からフックなどで吊るす形になります。直接吊るす場合は、梁(はり)や根太(ねだ)など、強度が高い部分に吊るし、吊るし雛の重さに耐えられる場所を選んでください。
吊るし雛も、雛人形と同じで、高温多湿を嫌います。しまう際は、カラッとした晴れた日を選び、埃を払ってから丁寧にしまうようにしましょう。
虫干しをしよう
年に1度の虫干しは、雛人形を長く美しい状態に保つための秘訣です。湿度が下がり、天気の良い10月頃に行うのがおすすめです。虫干しの際は、直射日光が当たらず、風通しのいい場所を選んで行うようにしてください。虫干しを終えて、もう一度しまう時には、埃を払うことを忘れないようにしましょう。
写真を撮ろう
雛人形を飾る時に、どの人形がどの位置に並べられていたのかを、すべて記憶しておくのは難しいことです。片付ける際も、どの箱に何が入っていたか分からなくなってしまうこともあります。
これを防ぐために、雛人形を飾る前と、飾った後の全体の写真を撮っておくことをおすすめします。一枚撮っておけば、しまい方が分からなくなったり、人形の並べ方が分からなくなったりすることを防げるため、毎年ひな祭りを迎えるたびに困ることもなくなりますよ。
雛人形の選び方
これから雛人形を新しく購入しようとしている場合、どんなタイプを買えばいいのか迷うかもしれません。最近は種類も豊富で、何を基準に選んでいいのか分からない方も少なくないでしょう。雛人形の種類と、それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。
親王飾り
人形は男雛と女雛の2体のみを飾る形式です。収納箱つきのものもあります。
- 〈メリット〉1段飾りなので、飾る場所を取らず、手軽に飾ることができます。
- 〈デメリット〉多段飾りに比べると、豪華さや賑やかさには欠ける場合があります。
ケース飾り
雛人形がガラスやアクリルのケースの中に飾られている形式です。ケースは固定されているため、人形を取り外すことはできません。段数は、1段や3段など様々です。
- 〈メリット〉人形や飾りを並べたり片付けたりする手間が省け、お手入れも簡単です。
- 〈デメリット〉ケースが割れる可能性があり、ケースから人形を取り出すことはできません。
三段飾り
人形は男雛と女雛、三人官女の計5体と、飾りが並ぶ形式です。飾りには花嫁道具がいくつか加わります。
- 〈メリット〉親王飾りよりも賑やかになり、比較的コンパクトに飾れるものもあります。
- 〈デメリット〉まとまった収納スペースが必要になります。
七段飾り
男雛や女雛、三人官女のほかに、五人囃子や随身など、最も多くの人形と飾りがある豪華な形式です。
- 〈メリット〉とても豪華で賑やかになり、伝統的なひな祭りを演出できます。
- 〈デメリット〉飾るスペースも収納スペースも大きく必要になります。
木目込人形(もくめこみにんぎょう)
木で作られたボディに溝を彫り、そこに衣装の布地を木目込む(きめこむ)という技法で作られた雛人形です。独特の丸みを帯びたお顔立ちや雰囲気があります。
- 〈メリット〉型崩れの心配がなく、比較的コンパクトで軽いため、取り扱いがしやすいです。
- 〈デメリット〉布地を貼り付けているため、衣装の華々しさや立体感は、衣装着人形に比べると控えめになります。
雛人形のタイプで選ぶのも良いですが、お顔の好みや衣装の色合いなども見て、ご自分のお子さまに合うものを是非見つけてください。
雛人形の処分の仕方
雛人形を贈ったお子さまが成長し、お嫁に行ったりすると、雛人形を飾る機会が減ってしまうかもしれません。そうなった時、雛人形をどうすればいいのか迷う方も多いでしょう。人形には魂が宿るとも言われていて、捨てるのは気がひけるものです。
使わなくなった雛人形の処分の方法として、一番丁寧なのは、お寺や神社で供養してもらうことです。雛人形は、子どもの厄を身代わりとなって引き受ける「守り雛」の役目を持つと考えられているため、感謝の気持ちを込めて供養します。お近くのお寺や神社で供養してもらえるか問い合わせてみてください。また、一般社団法人日本人形協会では、人形供養代行サービスを一年中受け入れているので、こちらを利用すると、ご自身で供養先を探す手間は省けます。
供養する方法以外では、老人ホームや児童養護施設、保育園などに寄付をする方法もあります。自治体で寄付先を紹介してくれる場合もありますし、その他、人形の寄付を仲介してくれる業者もあるので、調べてみると良いでしょう。
現代では、海外からの需要もあるため、ネットオークションに出品するという方法もあります。古いものに希少価値が付くこともあるので、ネットオークションに慣れている人にはおすすめです。
本来、雛人形は「子どもの厄を代わりに引き受ける守り雛」として、一人につき一つ持つものとされているため、人に譲ったりするのは避けるべきだという考え方があります。しかし、ご自身が使わなくなったお人形でも、娘のために思いを込めた雛人形を、今後も誰かに大切に扱ってもらえるなら、それはとても嬉しいことですね。むやみにゴミとして処分したりせず、最後まで丁寧に扱いましょう。
桃の節句にはお雛様を飾りましょう
雛人形は、女の子が健やかに成長し、幸せな結婚ができるようにというママとパパの願いが込められたものです。「うちは狭いから」「飾る場所がないからいらない」と言わずに、桃の節句には、ぜひお雛様を飾ってあげてください。親王飾りでも、三段飾りでも、手作りのものでも構いません。お子さまの健やかな成長を、ご家族みんなでお祝いしましょう。