見捨てられ不安を持つ子供への接し方~愛着を育み不安を取り除くための具体的な対処法
お子様に十分に愛情を注いでいるつもりなのに、子供の不安感が強く、「すぐ愚図る」「ママから離れない」などの行動が目立ち、何となく育てにくいと感じることはありませんか?
そのような特徴が見られる場合、お子様は特定の対象に対して過度な不安を抱く「見捨てられ不安」に陥っているかもしれません。
見捨てられ不安が強い子供は、上手に対処しないと不安がより強くなり、周りとの人間関係がうまくいかなくなってしまう恐れがあります。
今回は、見捨てられ不安の基礎知識として、行動の特徴や対処法、愛着形成の重要性などをご紹介します。「子供の情緒不安定なのでは…」とお悩みのママやパパは、ぜひ子育ての参考にしてください。
見捨てられ不安とは?愛着と分離不安の視点から理解する
「見捨てられ不安」とは、特定の相手、特に主要な養育者(ママやパパなど)に対して抱く「自分は見捨てられるのではないか」「嫌われるのではないか」という強い不安のことを指します。
子供の場合、周囲の大人にお世話をしてもらわないと生きていけないという依存状態にあることから、養育者に対して見捨てられ不安を抱きやすくなるのです。この不安の背景には、「愛着(アタッチメント)」という心の絆の形成過程が深く関わっています。
乳幼児期にみられる見捨てられ不安は、親との関わりの中で安心感が満たされることで、一般的に子供の心の成長とともに解消されていく性質を持っています。
見捨てられ不安はいつからいつまで?発達段階との関連性
生後6ヶ月から1歳前後の時期は、自分のお世話をしてくれるママやパパと離れることに不安を感じる「母子分離不安」が特に強くなる時期のため、見捨てられ不安も激しくなる傾向があります。
母子分離不安は、子供がママとの間に「愛着」という心の絆をしっかり形成し、ママがたとえ見えなくても戻ってきてくれるという信頼が育まれることで軽減されていきます。子供が2歳くらいになり、愛着が安定して形成されると、それまで親への依存心が強かったのが、自分で考えて行動しようとする「自律性」が身に付くようになるのです。
通常、見捨てられ不安は、3歳~4歳の幼児期後半までの子供が一度は体験する自然な心の状態ですが、この時期に適切な対処がされず、不安が解消されないままで慢性化してしまうと、大人になっても周囲の人とトラブルの原因になる可能性もあるため、注意が必要です。
見捨てられ不安の子供にみられるサイン:行動の特徴5つ
子供の見捨てられ不安が強い場合、親はどのように気づくことができるのでしょうか?親は次のような行動から子供が発するサインを感じ取り、不安感を取り除くよう適切に対処することが大事です。
1過度な「しがみつき」とスキンシップへの要求
しがみつきは、子供がママやパパから離れることに不安を感じてとる行動の一つです。「泣きながらしがみつく」「しがみついて離れない」などの行動は、ママに見捨てられまいとしてママの気持ちを自分に向けようとしている気持ちの表れです。
子供は、ママにそっけなくされたと感じると、特にしがみつきが強くなる傾向があります。急にしがみつきがひどくなったと感じたら、子供が安心できるようスキンシップの時間を意識的に増やしてみましょう。
2激しい「後追い」と分離への拒否
赤ちゃんが、ハイハイができるようになり、人見知りが始まる時期になると後追いをするようになります。ママの姿が見えなくなると、「ママがいなくなってしまう」と強い不安を感じて、この世の終わりのように激しく泣くこともあります。
ママから片時も離れたがらないため、ママはトイレに入るだけでも一苦労ですよね。毎日の後追いでイライラが募ることもあるかもしれませんが、発達の過程の一環であり、長い期間続くわけではないのでご安心ください。後追いの時期は、子供の認知能力が発達している証拠でもあります。
3親の愛情を試す「試し行動」
試し行動とは、親の愛情を確かめるために、わざといけないことや親が困るような行動をすることをいいます。2歳前後のイヤイヤ期に入る頃になるとよく見られるようになります。
親としては、子供の困った行動に「どうしてそんなことを…」と思ってしまいがちですが、子供は「自分が何をしても許してもらえる」ことで、親から無条件に愛されているということを実感したいという心の表れなのです。試し行動をすることで、親の反応を見極め、安全で安心できる場所であるかを確認しています。
4怒りの感情をぶつける「ママ嫌い」と暴言
見捨てられ不安が強ければ強いほど、それに比例して子供の怒りの感情が強くなります。しがみついても後追いをしても、何をやっても「ダメ」と感じると、不安や恐怖をうまく処理できなくなってしまうのです。
「ママ嫌い!」「あっちに行って!」と怒りの感情をぶつけるのは、「ママに好かれたい」「そばにいてほしい」という気持ちの裏返しです。本当にママが嫌いで言っているわけではありませんので、感情的にならないよう冷静に対処することが大切です。
5過剰な適応としての「いい子を演じる」傾向
子供の「親に嫌われたくない」という気持ちが強すぎると、子供が常に親の顔色をうかがい、過剰に親に適応しようとする「いい子症候群」になる恐れがあります。見捨てられ不安から親が困る行動を取る子がいる一方、親の前でいい子になろうとする子もいるのです。
常に親の顔色をうかがうことで、自己主張や自立心の芽生えが妨げられることもあります。また、親から見ると聞き分けがよく扱いやすい「いい子」なので、親が問題に気づきにくい傾向にあります。「いい子症候群」は一見、育てやすいように見えますが、子供の心に大きな負担をかけている可能性を示唆しています。
いい子症候群とは?
親に好かれるために「いい子」を演じることで、抑圧された感情が様々な症状を引き起こす状態を指します。「親のいいなりになる」「親離れできない」「反抗期がない」など、親への依存が高いのが特徴です。
見捨てられ不安の子供への具体的な対処法:安心感を与える接し方
子供の見捨てられ不安は、親が子供の気持ちを理解し、しっかりと対応をすれば、決して問題のある行動には発展しません。子供の不安な気持ちを受け止め、適切に対処しましょう。
子供に接する際は、次のようなことに気をつけてみてください。
無条件の愛情を言葉で明確に示す
子供は、親からの「無条件の愛情」を感じることで、心の底から安心感が得られます。子供に対する愛情は、分かりやすい言葉ではっきりと伝えて、子供の根底にある不安を取り除きましょう。
ただし、例えば、「いい子は好き」という言い方には要注意です。「いい子にしなければ好きにならない」という「条件付きの愛情」と受け取られてしまうため、子供の不安が煽られることに繋がります。子供の行動に関係なく、ありのままの存在を好きだという愛情を示すことが大切です。
目線を合わせる「アイコンタクト」で信頼を深める
アイコンタクトとは、目と目で見つめ合うコミュニケーションの一つで、アイコンタクトによって言葉では伝わらない愛情や安心感を伝えることができます。子供とコミュニケーションを取るとき、意識的にアイコンタクトを取るように心がけてみるとよいでしょう。
「黙って見つめる」「優しく語りかけながら見つめる」「スキンシップをとりながら見つめる」などのバリエーションを楽しんでみてはいかがでしょうか。意識的にアイコンタクトをとるうちに、子供と気持ちが通じやすくなりますよ。アイコンタクトは子供の存在を認めているというメッセージになります。
親が連携し安心できる環境を作る:ママとパパの信頼関係
見捨てられ不安の子供に対して、親がおどおどしたりはっきりした態度をとらなかったりすると、子供の不安がますます強くなることもあります。子供の試し行動や怒りの感情がエスカレートした場合は、毅然とした態度で接することが大事です。感情に流されず、冷静に対応しましょう。
子供に見捨てられ不安がみられる場合は、夫婦で一貫性のある態度で接することが非常に重要です。特に、子供への対処のしかたを夫婦できちんと話し合って決めておくことで、親が冷静に接することができるだけでなく、子供に安心できる「土台」を提供できますよ。
長期的な影響:見捨てられ不安が改善されないまま大人になると?
子供の頃に親との関わりの中で十分な愛着形成ができず、見捨てられ不安が解消されないままで大人になると、対人関係に深刻な影響を与えることがあります。大人になっても見捨てられ不安を抱えた状態になる可能性があります。
周囲の親しい人や恋人などに、「しがみつき」「後追い」「試し行動」などの子供時代と似た問題行動をとってしまうかもしれません。これは親密な人間関係を不安定にしてしまい、結果的に望んでいない「見捨てられる」結果を引き寄せてしまうという悪循環に陥ることもあります。
さらに、慢性的な見捨てられ不安が激しくなると、常に情緒が不安定な状態となり、パーソナリティの形成に影響を与えることも考えられます。対人関係における極度な不安定さや自己像の混乱を伴う「境界性パーソナリティ障害」や、養育者との愛着関係の問題を背景に持つ「愛着障害」などの状態に繋がる可能性もあるため、専門家への相談も選択肢に入れておくことが重要です。
子供に愛情を伝えているつもりでも、うまく伝わっていないと感じる場合は、子供への愛情表現について改めて見直してみてはいかがでしょうか。親の安定した愛こそが、子供の不安を解消する最大の薬となります。
