逆立ちができない子には、必ずどこかに止まっている段階があります。恐怖心、腕の力、手と足の距離、手の着き方、目線、振り上げる足の形。この6つのどこで止まっているかが分かれば、次にやることが決まります。
お子さんが逆立ちをできるようになりたがっているけれど、教え方がわからないという方へ。逆立ちは難しそうに見えますが、段階を6つに分けて、ひとつ前ができてから次へ進めば、形になっていきます。いきなり壁のない場所で足を振り上げても、うまくいかないのは当たり前です。
※本記事では、一般的に「逆立ち」と呼ばれることの多い、両手で体を支える技を、器械運動の専門用語に合わせて「倒立」として解説します。
ここでは、できない理由の見分け方、6つの段階と進む基準、保護者の方が支える位置、自宅でできる練習の形、そして大人が練習する場合の違いまでまとめます。運動は、できるようになることだけでなく、できるようになるまでの過程を味わうことにも意味があります。お子さんと一緒に進めていきましょう。
倒立ができない理由
まわりには倒立ができる子が多いのに、自分にはなんでできないんだろう…とお子さんが悩んでいたら、なんと声をかけてあげますか。倒立ができない主な原因を理解することで、克服すべきポイントが見えてきます。ここでは6つに分けて見ていきます。
恐怖心がある
身体が逆さまになると、体のバランスが取りにくくなり、体が崩れるかもしれないという恐怖心が生まれます。恐怖心が生まれると、怖くて腕に力が入らず、ひじをまっすぐに突っ張ることができません。また、怖さから腰が曲がったままになり、足を高く上げられないことにもつながります。倒立を成功させるには、まず逆さまの状態に慣れることが大切です。
ここで押さえておきたいのは、恐怖心は気持ちの問題ではなく、体の感覚の問題だということです。「怖くないよ」と言葉で伝えても変わりません。逆さになったときに自分の体がどこにあるのか分からないから、体が勝手に縮こまります。
逆さの状態になること自体が怖いお子さんの場合、まずは布団やクッションをまわりに敷いて練習します。柔らかい場所だと、思い切って踏み切れます。崩れても構わないと分かっている状態でなければ、腕を突っ張ることも足を高く上げることもできません。
身体を支える腕の力がない
恐怖心がなかったとしても、自分の体の重さを支えるだけの腕の力がなければ、足を蹴っても体が上にあがりません。体の重さで腕がぐにゃっと曲がってしまい、倒立が成立しないのです。腕の力が足りないことをお子さんは意識していないので、何度やってもできないと嫌になってしまうかもしれません。これも「倒立ができない!」と思ってしまう原因の一つです。
見分け方があります。四つんばいの姿勢から、片方の腕だけに体重を乗せてみてください。このときひじが曲がってしまう場合は、まだ腕で体重を受け止める段階に届いていません。この場合は倒立の練習より先に、腕の力をつける遊びを挟んだほうが早く進みます。
手と足の位置が遠い(体重移動ができない)
倒立ができないお子さんが足を上げようとしているとき、やっている本人が思っている以上に足があがっていないことがあります。それは、床についた手と蹴り上げる足の始点が遠く離れているからです。手と足が遠く離れていると、足を上げようとしても体重を手に移動することが難しくなります。
なぜ遠くなるのかというと、手を遠くにつくほうが、体が逆さになる感覚から遠ざかれるからです。つまりこれは恐怖心の表れでもあります。本人は意識していませんが、体が自然に安全な位置を選んでいます。
倒立ができるお友達のフォームを見てみると、自分との違いが分かるはずです。練習するときは鏡を見たりビデオに撮ったりして、手と足の位置や体重移動を確認してみましょう。自分の姿は自分では見えないので、撮って見せるだけで一気に進むことがあります。
手の着き方が定まっていない
ここは見落とされやすい部分です。手のひらのどこに体重が乗っているかで、倒立の安定はかなり変わります。
整えたい点は3つあります。
- 手の幅:肩幅か、それより少し広めにします。狭すぎると左右に倒れやすく、広すぎると腕に体重が乗りません
- 指の向き:まっすぐ前か、少し外側に向けます。内側に向くと肩に体重が乗りにくくなります
- 指の使い方:手のひら全体をべたっとつけるのではなく、指先で床を押すようにします
3つ目が特に効きます。指先で床を押せると、体が前に行きすぎたときに指で止められます。逆に手のひらだけで支えていると、前後の調整ができません。倒立でバランスをとるのは足ではなく指です。
目線が定まっていない
目線は、体の位置の感覚と直結しています。
倒立をしたときに、あごを引いて自分のお腹の方を見てしまうと、自分の体がどこにあるのか分からなくなります。分からないから怖くなり、怖いから腕が縮みます。
正しくは、床の方、両手の間に目線を置きます。ここを見ていると、手と床の位置関係が視界に入るので、体の向きが把握できます。
この点は後ほど壁倒立の項目でも触れますが、目線を変えるだけでできるようになる子もいます。腕の力や恐怖心の問題だと思っていたら、実は目線だったという場合があるので、早めに確かめておきたい部分です。
振り上げる足が曲がっている
足の振り上げ方にも段階があります。膝を曲げたまま振り上げると、足の重さを使えません。
膝を伸ばした足を、大きく振り上げると、その勢いで腰が上がります。膝が曲がっていると、勢いが膝で止まってしまい、腰まで届きません。
ここでよくあるのが、両足を同時に蹴ろうとしているという形です。倒立は片足ずつ使います。片方の足を高く振り上げ、もう片方の足で床を蹴る。この順番になっていないと、体が上がりません。
できない理由の見分け方一覧
| 止まっている段階 | 見えるサイン | 次にやること |
|---|---|---|
| 恐怖心 | 手をつく前にためらう、途中で止まる | 布団の上で、逆さになる遊びから始める |
| 腕の力 | 手をついた瞬間にひじが曲がる | 手押し車、鉄棒にぶら下がる、カエルの足打ち |
| 手と足が遠い | 足は振っているのに腰が上がらない | 手をつく位置を足に近づける |
| 手の着き方 | 左右にぐらつく、前に倒れやすい | 指先で床を押す感覚を四つんばいで覚える |
| 目線 | あごを引いている、壁を見ている | 両手の間を見るよう伝える |
| 振り上げ足 | 膝が曲がっている、両足同時に蹴っている | 片足ずつ、膝を伸ばして振り上げる |
この表の使い方は、一度に全部直そうとしないことです。1回の練習で伝えるのは1つに絞ります。3つ同時に言われると、お子さんはどれも意識できなくなります。
逆立ち、倒立、3点倒立の違い
言葉の整理を先にしておきます。ここが混ざっていると、練習の順番も決まりません。
呼び方の整理
- 逆立ち:日常的な呼び方です。体が逆さになって手で支える動き全般を指します
- 倒立:器械運動での呼び方です。両手で体を支え、手、肩、腰、足が一直線になった状態を指します
- 3点倒立:両手と頭の3か所で支える形です。支える点が多いので、倒立より安定します
- 壁倒立:壁に足をつけた状態の倒立です。壁が支えになるので、バランスをとる必要がありません
- 補助倒立:誰かに支えてもらう倒立です
つまり、「逆立ち」と検索して探している技は、器械運動では「倒立」です。学校の体育で扱われるときもこの呼び方になります。
難しさの順番
この5つを難しさの順に並べると、練習の道筋がそのまま見えてきます。
| 段階 | 形 | 難しさの理由 |
|---|---|---|
| 1 | カエルの足打ち | 一瞬だけ足が浮く。腕で支える時間が短い |
| 2 | 3点倒立 | 支える点が3つあるので、左右に倒れにくい |
| 3 | 壁登り倒立 | 足が壁にあるので、体重が完全に腕に乗らない |
| 4 | 壁倒立 | 腕に体重が乗るが、壁が倒れるのを止めてくれる |
| 5 | 補助倒立 | 腕に体重が乗り、支えてもらいながら垂直を覚える |
| 6 | 倒立(壁なし) | 腕で支え、自分でバランスをとる |
この並びで注目したいのは、1から6にかけて「腕にかかる体重」と「自分でとるバランス」が段階的に増えていることです。飛ばして進もうとすると、体重とバランスの両方が一度に増えるため、うまくいきません。
倒立ができるようになる前の準備
いきなり倒立をやろうとしても、難しくて挫折してしまうこともあります。遠回りのように思うかもしれませんが、まずは簡単な準備運動から順番にできるようになりましょう。ここでは、倒立の練習をする前にやっておきたいことをご紹介します。
倒立をしているイメージをする
普段は足を地面につけて立っていますが、この立った状態の感覚を理解することが、倒立をするイメージにつながります。
普通に立ったまま上に手をまっすぐ伸ばしてみます。これを逆さにした状態が倒立です。このとき自分の体がどのようになっているのか考えてみましょう。意外と体幹に力が入っていないこと、背中は少し反っていること、などに気付くはずです。この感覚を掴んでから実践に移ります。
ここで一段深く入れておくと効きます。手を伸ばして立った姿勢のまま、お腹に軽く力を入れて、反っていた背中をまっすぐにしてみてください。この形が、倒立の完成形です。倒立で腰が反ってしまう子は、この「まっすぐ」の感覚を立った状態で経験していないことが多くあります。
逆さまの状態に慣れる
倒立しているイメージができたら、逆さまの状態に慣れましょう。倒立の動作を訓練する前に、倒立したあとの姿勢に先に慣れておくということです。
腕立て伏せの体勢になり、台などを使って足の高さを徐々に高くしていきます。これによって腕で体を支えるイメージを掴むことができます。その後、壁倒立や補助倒立という段階を踏んで倒立に近付けていきましょう。
台の高さは、座布団を重ねる、階段の1段目に足をのせる、といった形で少しずつ上げていきます。足が高くなるほど腕にかかる体重が増えるので、これだけで腕の力をつける練習にもなります。
手のつき方を先に覚える
倒立に入る前に、手の使い方だけを切り出して練習しておくと、後の段階が楽になります。
- 四つんばいになります。手は肩幅か少し広め、指はまっすぐ前か少し外向きにします
- 指先で床を押して、手のひらの真ん中を少し浮かせます
- そのまま右腕、左腕に交互に体重を乗せます
- 体重を乗せた側のひじが伸びていることを確認します
この4つができていれば、倒立で手のひらが崩れることはありません。この段階は、体が逆さにならないので怖さがまったくありません。恐怖心が強いお子さんでも取り組めるので、最初の一歩としても向いています。
最初は3点倒立を練習する
倒立ができないと悩むお子さんには、いきなり倒立をやらせるのではなく、まずは3点倒立をやってみましょう。腕だけで体全体を支えなければならない倒立に対して、3点倒立は支点が多いので難易度が低く、バランス感覚を身につけることができます。
3点倒立とは
3点倒立とは、名前の通り3点(右手・左手・頭)で体を支える倒立のことです。もともとヨガのポーズの一つですが、器械体操や体育の授業で教わることがあります。学校で習ったときのためにも、3点倒立を練習しておくのは予習にもなり良いですね。
3点倒立を先にやる理由は、支える点が3つあると、体が三角形の底面の上に乗るからです。倒立は2点なので、線の上でバランスをとることになります。面の上に乗るほうが安定するので、逆さの姿勢を落ち着いて味わえます。
3点倒立のやり方
倒立に向けて、まずは3点倒立のやり方をマスターしましょう。3点倒立ができるようになると、倒立までぐんと近づきますよ。
安全な場所で頭と両手をつく
四つんばいの状態で頭を床につけます。床につける部分はつむじ(頭頂部)とおでこの間のあたりです。おでこから少し上がった部分を目安にしましょう。この位置だと、体の重さが受け止めやすく、姿勢が落ち着きます。このとき、厚手のタオルや座布団を敷きましょう。フローリングよりも畳やカーペットの上のほうが、手のひらが滑らず安定します。
コツは頭と両手で正三角形をつくること
頭をつけた位置よりも手前(顔側)に右手と左手をつき、頭と両手の位置関係が正三角形になるように気を付けます。手の指を少し外側に向けると倒れにくくなりますよ。
三角形の大きさも大事です。小さすぎると支える面が狭くなり、大きすぎると腰を上げられません。頭と手の距離は、手を広げたときの手のひら2つ分くらいから試して、安定する幅を探します。
足を上げる練習をする
体重を3点にかけながら足を床から離し、伸ばしていきます。最初は難しいので、3点を床につけたら、軽く跳ぶように足で床を蹴ってみましょう。最初はほんの数センチ、床から足が離れるだけで大丈夫です。
そして、3点で体を支えられる時間を少しずつ長くしていきます。3点をつけた状態でつま先立ち、ひじに膝を乗せる、膝を曲げたままの倒立…のように、徐々に難易度をあげていきましょう。
この「ひじに膝を乗せる」段階が、実は要点です。膝をひじに乗せた形で静止できると、腰が頭の真上に来ているということになります。ここが安定してから足を伸ばせば、あとは伸ばすだけで形になります。
身体をまっすぐにのばす
足を上げることができるようになったら、最後に体全体をまっすぐに伸ばします。ここまでで、逆さまの状態でのバランス感覚はかなり身についているはずなので、もう少し練習すると、きれいな3点倒立になるはずです。
保護者の方は腰まわりを中心に支える
保護者の方は子どもの足だけを持つのではなく、腰まわり(体幹)を中心に体全体を支えてあげるようにしてください。慣れてくると、足を支えるだけでも大丈夫になってきます。
支える強さにも段階があります。最初はしっかり支え、次に軽く触れる程度にし、最後は手を近くに置いておくだけにします。急に支えをなくすと形が崩れるので、3段階で抜いていくと本人も気づかないうちに自分で立てるようになります。
次は壁を使った練習
3点倒立ができるようになったら、次は壁を使った練習です。倒立のときに重要な「一直線の姿勢」を意識して練習してみてくださいね。
壁にお腹を向けて登る練習
壁にお腹を向けて倒立の練習をします。まずは両腕を床につき、壁につま先だけつけて手と手の間に目線を置きます。壁に足をかけた状態で、腕立て伏せのポーズをするイメージです。
この練習の良いところは、逆さになる怖さがほとんどないことです。頭の位置が低いだけで、体は横向きに近い姿勢です。それなのに、腕に体重を乗せる感覚は倒立とほぼ同じものが得られます。恐怖心が強いお子さんには、3点倒立より先にこちらから入る形も選べます。
足で壁を押すように下から上へ上る
膝を伸ばしたまま、足で壁を押すように上にのぼっていきます。最初は低い位置でもいいので、膝を伸ばしてのぼっていきましょう。壁を登ることで、足から体幹、腕へと体重を移動させ、腕で体を支える感覚を養います。
登る高さは、膝の高さ、腰の高さ、胸の高さと3段階で考えると進みが見えます。腰の高さまで登れれば、腕にかかる体重は倒立に近づいています。
両腕を徐々に壁に近づけていく
足を高い位置に持っていきながら、両腕は徐々に壁に近付けていきます。腕立て伏せのような体勢から、倒立に近い体勢になります。
手が壁に近づくほど、体は垂直に近づきます。手が壁から遠いままだと、いつまでも斜めの姿勢のままなので、少しずつ手を歩かせて壁に寄せていくところまでやります。
保護者の方は肩を支える
手、肩、腰、足が一直線にならないと倒立はできません。そのためには、肩(体幹)に体重を乗せることが大切なので、保護者の方は子どもの肩や腰を支えてあげるようにしてください。
ここで声をかけるなら、体の部位を指定する言い方が伝わります。
「肩を、手の上まで持ってきて」
「お尻をもう少し壁の方へ」
「まっすぐにして」では、どこをどうするのか分かりません。動かす場所と、動かす方向をセットで伝えると、お子さんが自分で修正できます。
続いて壁倒立を練習する
壁を上ることができるようになったら、次は壁倒立の練習です。難易度が少し上がりますが頑張って練習しましょう。壁から離れて倒立している気持ちで、一直線に体を伸ばしていきますよ。
壁の近くで両腕を床につく
壁ギリギリの近さに両腕をつくことで、体が反りにくくなります。そして、このときひじが曲がらないことが重要です。どのようにしたら腕にきちんと体重を乗せることができるのかがわかれば、ひじは曲がらないはずです。床に膝をついたままの四つんばいになり、右腕と左腕に交互に体重を乗せる練習をしてみましょう。体重を乗せようとすると、ひじが伸びていることに気付くと思います。
壁との距離の目安は、手を握ったこぶし1つ分くらいです。これより離れると体が反りやすく、これより近いと足を振り上げる余裕がなくなります。
目線は手と手の間におく
壁倒立したときに、目線が壁にあるのはよくありません。床の方、体を支えている両手の間に目線を置くようにしましょう。あごを引いてしまうと、自分の体がどのようになっているのかわからなくなってしまうことがあります。これが恐怖心にもつながるので、目線はしっかり手と手の間に置くようにしましょう。
ここは声かけで直しやすい部分です。
「手と手の間の床、見えてる?」
「自分の手が見えたら、それで合ってるよ」
「見えているかどうか」で確認できるので、本人にも判断がつきます。目線が合っただけで腕が突っ張るようになる場合があるので、うまくいかないときは最初に確かめてみてください。
上に向かって足を蹴り上げる
最初から壁の方に向かって足を蹴り上げるのではなく、まずは上に向かって足を蹴り上げる練習をします。片足ずつ床を蹴り、足を高く上げることを意識します。
この段階では、足が上がりきらなくても構いません。目的は、上に向かって蹴るという方向を体に入れることです。壁に向かって蹴る癖がつくと、体が斜めのまま壁に寄りかかる形になってしまいます。
保護者の方はお尻と腰を支える
保護者の方は子どもの横に立って、お尻と腰を支えてあげてください。足を高く伸ばすことよりも、まずは腰までをしっかり上げて垂直にすることが先決です。足が伸びていても腰が曲がっていると、倒立の状態を保つことができません。手、肩、腰を一直線にすることで、足もしっかり伸びてきます。
順番を間違えないことが大事です。腰が先、足は後。足の伸び具合を気にして声をかけたくなりますが、腰が上がっていない状態で足を伸ばしても、体は「く」の字のままです。
次は壁に向かって足を蹴り上げる
まず片方の足を高く振り上げ、もう片方の足で床を蹴ります。あとから蹴り上げるほうの足は、伸ばした状態で蹴り上げるようにしましょう。最初に上げたほうの足が壁についてから、もう片方の足を蹴り上げて足を揃えます。
どちらの足を先に振り上げるかは、本人がやりやすい側で決めます。左右どちらが振り上げやすいかは人によって違うので、両方試して楽な方を使います。ここを揃えようとする必要はありません。
保護者の方は膝を支える
上がってくる足を支えるときは、足首ではなく膝や太ももを持つようにします。膝のあたりを持つほうが体の重さの中心に近いので、支えやすくなります。手で掴むのではなく、腕全体で抱きかかえるように支えることがポイントです。
立つ位置も決めておきます。お子さんの真後ろではなく、斜め横に立ちます。真後ろだと振り上がってくる足の通り道に入ってしまうので、横から支えるほうがお互いに動きやすくなります。
そして倒立(壁なし)の練習!
壁倒立ができるようになったら、いよいよ壁のない場所での倒立の練習です。保護者の方はしっかり見守り、支える準備をしてあげてくださいね。
少しずつ壁から手を離す
壁倒立は、あくまでも壁ありきの倒立なので、壁から離れても倒立の状態を保てるのとは別段階の練習が必要です。ここからは、壁倒立の状態から少しずつ足を壁から離す練習をします。
壁倒立の時に壁のギリギリに手をついて練習していましたが、手をつける位置を壁から徐々に離していきます。最初は壁に足をつけますが、そこから壁を蹴り、足を離すことで一瞬倒立ができる瞬間があります。この感覚を体で覚え、数秒間静止できるようになり、最後はキープできるようになります。
この「一瞬」を増やしていくのが、この段階の中身です。1秒が2秒になり、2秒が5秒になるという進み方をします。最初から数秒立てることを目指すのではなく、一瞬の回数を重ねます。
保護者の方は膝を中心に足を支える
壁倒立のときと同じように、膝を中心に足首側ではなく太もも側を支えます。体の重さの中心に近いところを支えるという同じ理由からです。このときも、腕全体で抱きかかえるように支えてあげてくださいね。
崩れるときの抜け方を先に決めておく
壁なしの段階で、あらかじめ決めておくと進みが早くなることがあります。体が保てなくなったときにどう降りるかです。
降り方は2通りあります。
- 来た方へ戻る:振り上げた足を、上げたときと同じ道筋で下ろします。いちばん自然な降り方です
- 横に開く:体が前に行きすぎたときは、片足を横に大きく開いて、体をひねりながら下ろします
この2つを先に練習しておくと、崩れても自分で降りられると分かるので、思い切って振り上げられるようになります。逆に、降り方を知らないまま挑戦すると、体が上がりきる前に自分でブレーキをかけてしまいます。
順番としては、壁倒立ができた段階で、この降り方だけを何度か練習しておくのがおすすめです。壁なしに進む前に済ませておくと、次の段階がずいぶん楽になります。
段階の進め方:何ができたら次へ進むか
段階を分けても、次に進む基準がないと判断がつきません。目安を整理しておきます。
| 段階 | 次へ進む目安 | ここで止まったら |
|---|---|---|
| 手のつき方 | 四つんばいで片腕に体重を乗せてもひじが伸びている | 手押し車、鉄棒にぶら下がる |
| カエルの足打ち | 足が浮いて、足の裏を1回打ち合わせられる | 手をつく位置を足に近づける |
| 3点倒立 | 膝をひじに乗せた形で3秒保てる | 三角形の大きさを変えてみる |
| 壁登り倒立 | 腰の高さまで足で登れる | 膝の高さで回数を重ねる |
| 壁倒立 | 足を壁につけた状態で、腰が手の真上に来ている | 目線と手と壁の距離を確認 |
| 補助倒立 | 軽く触れる程度の支えで形を保てる | 支える強さを1段階戻す |
| 倒立(壁なし) | 壁を蹴って足が離れる瞬間がある | 降り方を先に練習する |
この表で伝えたいのは、できない段階まで戻ることは後退ではないということです。壁なしでうまくいかないときに壁倒立に戻るのは、いちばん確実な進み方です。
もうひとつ。進み方は日数では測れません。1週間でできる子もいれば、1年かけて形になる子もいます。日数で測ると焦りますが、段階で測れば、必ずどこかが前に進んでいることが分かります。
腕の力をつけるには?
練習方法やコツはわかってきましたが、そもそも腕の力が弱くて体を支えきれないという場合は、腕の力をつけることが必要です。どういう訓練をしたら腕の力がつくのでしょうか。
鉄棒にぶら下がる
時間がかかってしまうかもしれませんが、足の届かない高さの鉄棒にぶら下がって数秒間耐えてみたり、懸垂(斜め懸垂含む)をやってみることで、自分の体重を支えられるようになります。
ぶら下がるだけでも効きます。10秒ぶら下がれるかどうかを目安にすると、進み具合が分かりやすくなります。公園に行ったときに毎回1回だけやる、という形で十分です。
手押し車をする
子どもが腕立て伏せの体勢になり、保護者の方が子どもの足を持ちます。そのまま腕立て伏せの体勢の子どもは、腕の力で前に進みます。これが手押し車です。一見ただの遊びのようですが、楽しみながらしっかり腕の力をつけることができますよ。
持つ位置を変えると難しさが変わります。足首を持つと楽で、太ももを持つと難しくなります。太ももを持つほど体が水平に近くなり、腕にかかる体重が増えます。最初は足首から始めて、慣れてきたら持つ位置を上げていきます。
カエルの足打ちをする
倒立につながる動きとして、いちばん近いのがこれです。
- しゃがんで、床に両手をつきます
- 手は肩幅、足は手のすぐ近くに置きます
- 手に体重を乗せて、軽く足で床を蹴ります
- 浮いた足の裏を、空中で打ち合わせます
足の裏を打ち合わせる音がすれば、体重が手に乗っているということです。音が鳴らない場合は、まだ足に体重が残っています。
この練習が優れているのは、成功したかどうかが音で分かることです。お子さん自身で判断できるので、一人でも取り組めます。回数は1回から2回、3回と増やしていきます。
肩を動かせるようにしておく
腕の力とは別に、肩がどこまで動くかも関わってきます。
確かめ方があります。壁に背中とお尻をつけて立ち、そのまま両腕を上げて、壁に手の甲がつくかどうかを見ます。手の甲が壁に届かない場合、倒立で手、肩、腰を一直線にすることが体の作りとして難しくなります。
この場合は、腕を上げる動きを日常に入れておきます。両腕を上げて背伸びをする、うつ伏せで両腕を前に伸ばすといった動きです。無理に伸ばす必要はなく、気持ちよく届く範囲で構いません。
自宅での練習の進め方
体育館がなくても、家の中で進められます。必要なのは壁一枚と布団です。
壁の選び方
壁は、次の条件を満たすところを選びます。
- 足で押しても動かない壁:ふすま、引き戸、パーテーションは避けます
- 幅が1メートル以上あいている:家具や棚が近いと、手や足を置く場所が制限されます
- 足あとがついても気にならない:足で壁を押すので、跡が残ります。気になる場合は、大きめのタオルを壁に貼っておくという方法があります
家の中で条件に合う場所として多いのは、廊下の突き当たり、玄関の上がったところ、和室の壁です。
床の条件
床は、手のひらが滑らないことが第一です。フローリングだと手が前に滑るので、畳、カーペット、ラグの上を選びます。
布団を敷く場合は、手をつく場所は布団の外にします。柔らかいところに手をつくと、手が沈んで体重が乗りません。布団は、体が降りてくる側に置きます。
必要なスペースの目安
目安は、お子さんの身長プラス50センチくらいの幅と、身長分の高さです。畳1枚から2枚分のスペースがあれば足ります。
意外と見落とされるのが高さです。足を振り上げるので、照明器具や物干し竿の下は避けます。
1回の練習は5分でいい
逆立ちの練習は、長くやるものではありません。腕で体を支える動きは、続けているうちに腕が疲れて、形が崩れていきます。崩れた形で繰り返すと、崩れた形が身についてしまいます。
目安として、1回5分、多くても10分。その代わり、日をあけずに続けます。週に1回30分より、毎日5分のほうが早く進みます。
やめるタイミングも決めておくと楽です。できた回で終わるのがいちばんです。うまくいった感覚を持ったまま終われるので、次の日にまたやりたくなります。
大人が逆立ちを練習する場合
お子さんに教えるついでに、自分もやってみようという方も少なくありません。大人の場合、難しさの出方が子どもとは違います。
子どもとの違い3つ
| 項目 | 子どもの場合 | 大人の場合 |
|---|---|---|
| 体重と腕の力の関係 | 体が軽いので、腕の力が弱くても支えられる | 体が重いため、腕にかかる負担が大きい |
| 恐怖心の性質 | 逆さの感覚に慣れていないことによる怖さ | 崩れたときのことを考えてしまうことによる怖さ |
| 肩の動く範囲 | 腕が耳の横まで上がりやすい | 腕が上がりきらず、一直線になりにくい場合がある |
この3つのうち、大人にとって最も大きいのは3番目です。腕が耳の横まで上がらないと、手の真上に肩を持ってこられません。すると常に体が斜めになり、腕の力で無理に支えることになります。
2番目も見落とせません。子どもの怖さは慣れれば消えますが、大人の怖さは考えることから生まれるので、慣れだけでは消えません。降り方を先に決めておく、壁の段階を長めにとる、といった手順で対処します。
大人が先にやっておくこと
順番は子どもと同じですが、前半の段階を長めにとります。
- 肩が上がるかを確かめます:壁に背中をつけて腕を上げ、手の甲が壁につくか見ます
- 手のつき方を覚えます:四つんばいで、指先で床を押す感覚をつくります
- 足を高くした腕立て伏せの姿勢で、腕に体重を乗せる時間を伸ばします
- 壁登り倒立を、腰の高さまで安定してできるようにします
- 壁倒立に進みます
4番までを飛ばさないことが要点です。大人は体重があるので、腕が受け止められる状態を作らないまま壁倒立に入ると、形が崩れたまま繰り返すことになります。
大人が練習すると、子どもにも効きます
これは思わぬ効果です。保護者の方が同じ段階を自分でやってみると、お子さんがどこで止まっているのかが分かるようになります。
「腰を上げて」と言われても腰が上がらない感覚、目線を変えると体の位置が分かる感覚、指先で押すと前に倒れずに済む感覚。これらは自分でやってみて初めて分かるものです。
それに、大人が一緒にやっていると、お子さんの気持ちも変わります。教えられる側から、一緒に取り組む側になります。うまくいかない回があっても、自分だけではないと分かります。
練習がうまく進む場所と進め方
ここまで技術の話をしてきましたが、練習の進め方そのものにも押さえたい点があります。
はじめのうちは誰かに見てもらう
倒立の練習は、誰かに見てもらったほうが早く進みます。理由がはっきりしています。逆さになっている本人には、自分の姿がまったく見えないからです。
腰が上がっているのか、ひじが曲がっているのか、足が伸びているのか。本人の感覚と実際の形はずれています。外から見て伝えてもらえるだけで、直せる部分が一気に増えます。
見る側は、専門的なことを知らなくても構いません。伝えるのは3つだけです。
- ひじが曲がっていたか、伸びていたか
- 腰が手の真上まで来ていたか
- 前より上がっていたか、変わらなかったか
手が離せない場合は、動画を撮っておいて、あとで一緒に見るという形でも十分です。本人が自分の姿を見ると、言葉で説明するより早く納得します。
柔らかい場所で練習する
布団、カーペット、ラグ、座布団。柔らかいものが周りにある状態で練習します。
これは思い切って踏み切れるようにするためです。硬い床の上だと、体が自然にブレーキをかけます。ブレーキがかかると、足が上がらず、腕も突っ張れません。周りが柔らかいと分かっていれば、その分だけ大きく振り上げられます。
置き方には向きがあります。手をつく場所は硬い床、体が降りてくる方向に柔らかいものを置きます。手をつくところが柔らかいと、手が沈んで支えられません。
できた回で終わる
練習の終わり方を決めておくと、続きやすくなります。
うまくいった回で切り上げます。あと1回、もう1回と続けていくと、腕が疲れて必ず崩れます。崩れた形で終わると、その形が記憶に残ります。
ここは大人が判断するところです。お子さんは「もう1回やる」と言いますが、形が崩れてきたら止めるのが、結果的に早く進む道になります。
練習中に使える声かけ
言い方を少し変えるだけで、伝わり方が変わります。
形を直したいとき
「ひじ、まっすぐのままいけるかな」
「お尻を、天井の方へ」
「まっすぐにして」「がんばって」では、どこをどうするのか分かりません。体の部位と、動かす方向をセットにします。
怖がっているとき
「足、壁のどこまでいけそう?」
「今日は登るところまでにしようか」
「怖くないよ」と言っても怖さは消えません。かわりに、本人が決められる形にします。どこまでやるかを自分で選べると、そこまでは思い切ってやれます。
できなかったとき
「さっきより腰、上がってたよ」
「今日はひじが伸びてた。それは前できなかったことだね」
倒立は、できたかできないかの2つしかないように見えます。だからこそ、途中の変化を言葉にして渡すことに意味があります。腰が5センチ上がったことは、本人には見えていません。
比べたがるとき
「あの子は先にできたね。あなたは今どこまで来てる?」
できる子と比べる気持ちは自然に出てきます。それを止めるのではなく、比べる先を、他人から自分の段階に移します。段階の表を一緒に見ながら、今どこにいるかを確かめる形が使えます。
逆立ちについてよくある質問
Q1.何歳から練習できますか
年齢で線を引くよりも、四つんばいで片腕に体重を乗せてもひじが伸びているかを目安にするほうが確かです。これができていれば、カエルの足打ちから始められます。まだの場合は、手押し車や鉄棒にぶら下がる遊びから入ります。就学前でも壁登り倒立まで進む子もいますし、高学年で腕の力がついてから急に形になる子もいます。
Q2.どのくらいの期間でできるようになりますか
期間には大きな幅があり、目安を示すことが難しいところです。というのも、止まっている段階が人によって違うためです。腕の力が足りない場合はそこに時間がかかりますし、恐怖心が強い場合は慣れるまでの時間が必要になります。日数で測ると焦りやすいので、段階の表で「今どこまで来ているか」を測るほうが、進んでいることが見えます。
Q3.3点倒立から始めたほうがよいですか
どちらでも構いません。3点倒立は支える点が多いので安定しますが、頭を床につける姿勢自体が苦手なお子さんもいます。その場合は、壁登り倒立から入る形にします。壁登りは体が逆さになる感覚が薄いので、怖さが少なく始められます。3点倒立と壁登りは、どちらを先にしても構いません。
Q4.壁倒立はできるのに、壁を離すとできません
これはよくある止まり方です。壁倒立と壁なし倒立は別の技と考えてよいくらい違います。壁があるとバランスをとる必要がないためです。
進め方としては、壁倒立から壁を軽く蹴って足を離す練習を重ねます。一瞬離れる回数を増やすことが中身です。あわせて、降り方(来た方へ戻る、横に開く)を先に練習しておくと、思い切って振り上げられるようになります。
Q5.腕が曲がってしまいます
腕の力そのものが足りない場合と、目線がずれている場合の2通りがあります。まず目線を確かめてください。両手の間の床が見えていない場合は、そこを直すだけで伸びることがあります。
目線が合っていても曲がる場合は、四つんばいで片腕に体重を乗せる練習に戻ります。ここでひじが曲がるなら、手押し車や鉄棒にぶら下がる遊びを挟みます。
Q6.自宅に練習できる場所がありません
必要なのは、足で押しても動かない壁が1メートル分と、畳1枚から2枚分のスペースです。廊下の突き当たり、玄関の上がったところ、和室の壁などが候補になります。高さも確かめておきます。照明器具や物干し竿の下は避けます。壁に足あとがつくのが気になる場合は、大きめのタオルを壁に貼っておく方法があります。
Q7.大人でも今から練習してできるようになりますか
できるようになる方はいます。ただし、子どもとは進め方を変えます。体が重いため腕にかかる負担が大きく、肩が上がりにくい場合は一直線の形をつくりにくくなります。そのため、手のつき方、足を高くした腕立て伏せ、壁登り倒立の3段階を長めにとります。壁に背中をつけて腕を上げ、手の甲が壁につくかを先に確かめておくと、進め方が決めやすくなります。
Q8.子どもがすぐ諦めてしまいます
1回の練習を短くしてみてください。5分で切り上げ、うまくいった回で終わります。倒立の練習は腕が疲れやすく、続けるほど形が崩れます。崩れた回で終わると、できなかった記憶が残ります。
もうひとつは、段階を分けて見せることです。「倒立ができるか」だけを目標にすると、できない状態が続きます。カエルの足打ちが1回できた、腰の高さまで登れたという形にすると、できたことが積み上がっていきます。
倒立ができるまで何度も練習しよう!
倒立ができるようになる練習法やコツをご紹介してきました。体力や筋力、恐怖心の程度は一人一人違います。クラスの子がみんなできるのに、自分の子どもだけできないからといって焦らず、ゆっくり練習に付き合ってあげてください。お子さんなりのペースで倒立ができるようになるはずです。何度も楽しく練習してみてくださいね。
最後に、迷ったときに立ち返れる点をまとめておきます。
- できない理由は6つ。恐怖心、腕の力、手と足の距離、手の着き方、目線、振り上げ足
- 1回の練習で伝えるのは1つだけ
- 段階は6つ。ひとつ前ができてから次へ進む
- 前の段階に戻ることは、後退ではなく確実な進み方
- 進み具合は日数ではなく、段階で測る
- 1回5分、うまくいった回で終わる
- 本人には自分の姿が見えない。外から見て伝えることに意味がある
倒立は、できるかできないかがはっきり分かれる技です。だからこそ、できた日のことはよく覚えているものです。その日が来るまでのあいだに、腰が少し上がった日、ひじが伸びた日、一瞬だけ足が離れた日があります。その一つずつを見つけて渡していけると、練習の時間そのものが違うものになります。



