子供への遺伝子の影響~父親似?母親似?受け継がれる特性や検査
遺伝とは、親から子供になんらかの特性が受け継がれること。つまり子供はどこかしら、必ず親に似ます。「え~!うちの子は完全にパパ似だよ!」と思うお子さんの場合も、体質や体の内外の部位、性格や行動などのどこかがママに似ています。
こちらでは、親から子供への遺伝の仕組み(法則)、子供に遺伝する特性、子供の遺伝子検査、病気などがあるため子供に遺伝して欲しくない人におすすめの医療機関についてご紹介します。
父母どっちに似る?子供への遺伝の法則
子供への遺伝についてしっかりと理解するために、まずは遺伝に関係のある「DNA」「遺伝子」「ゲノム」「メンデルの法則」について、ごく簡単に押さえておきましょう。
そもそもDNAとか遺伝子って何?
人間は60兆個の細胞によって形づくられ、それぞれの細胞には「DNA」と呼ばれる物質があります。このDNAに所々記されている特定の設計図が「遺伝子」です。具体的には、「お酒に強いか弱いか」などの特性の1つが記されたDNAの一部分が遺伝子。
一方、DNA内の遺伝子やその他の部分に記された全ての遺伝情報(その人の全設計図)を「ヒトゲノム」と呼んでいます。ちなみに犬は犬ゲノム、大腸菌は大腸菌ゲノムを持っています。
人間の設計図は遺伝子のみと思っている人が多いのですが、実はDNAに記されているゲノムうち、遺伝子はわずか3割。残りの7割は遺伝子ではないけれど「遺伝子の役割を調整する情報」なのです。この7割の情報によって、人間は複雑な調整を行えると考えられています。(注1)
メンデルの法則
メンデルの法則とは、1865年に修道士であり植物学者でもあったグレゴール・メンデルによって解き明かされた、遺伝の仕組みを示した法則です。ちなみにゲノムという言葉が作られたのが1920年頃ですので、メンデルはその半世紀前にこの法則を発見していました。
メンデルは対照的な形質をもつ2種類のえんどう豆を掛け合わせたことにより、次の3つの法則を導き出しました。
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優勢の法則
遺伝子には形質が表れやすい遺伝子(優性遺伝子)と表れにくい遺伝子(劣性遺伝子)があり、同時に存在した場合に表れる方が優性遺伝子 -
分離の法則
両親から受け継いだ劣性遺伝子は表に出なくても消えずに残り、次の代に優性遺伝子がなければ表に出る -
独立の法則
両親から受け継ぐ異なったゲノムはそれぞれ独立したもので、互いに影響しあわない
メンデルの法則はえんどう豆だけでなく人間にも当てはまります。人間は2つのヒトゲノムを持っていて、父母から1つずつゲノムをもらって生まれてきます。
そのためメンデルの実験で使われた異なる形質を持ったえんどう豆のように、同じ両親から生まれた兄弟でも、父親の2組のうちのどちらのゲノムをもらったか、母親のどちらのゲノムをもらったかで、容姿や行動が似ていないことがあります。また両親に似ていないのに、祖父や祖母に似る隔世遺伝も起こるのです。(注2)
個性を生み出すスニップ
人間には多様性があり、SMAPの「世界に一つだけの花」で歌われているように、まさに世界に一つだけの存在です。私達はそれぞれ世界に1つだけのゲノムを持って生まれてきます。
けれどここまでの説明では、何となくそう感じられない人もいるでしょう。特に兄弟の数が多い場合、父母のどちらからも同じゲノムをもらう確率が高くなるので、不思議に思うことでしょう。
ヒトゲノムの個人差はおよそ0.1%。その多くは遺伝情報のごくわずかな「スニップ(一塩基多型)」1個の違いだと考えられています。スニップとは、遺伝情報が記されている塩基の配列が1つだけ他の塩基に置き換わっているものです。
人体の30億個の塩基のうち、約1000塩基に1個はスニップ。このたった0.1%の差が、容姿や体質などの差を生み出しているのです。
容姿?性格?親から子供に遺伝する特徴
人間の性質の多くは、ゲノムと環境の両方によってつくられています。ノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授などにより作成された文部科学省「ヒトゲノムマップ」によると、人の遺伝子は推定約43000個。(注3)
親から子供に引き継がれる遺伝については、TV番組などでしばしば話題になりますが、こちらでは具体的に何が遺伝するのかを、乳幼児のパパママに興味がある項目を中心にクローズアップしてみていきましょう。
目や鼻など顔や身体のパーツ
顔のパーツである目(二重か一重か)、鼻の高さ、顔の形などは遺伝による影響が大きいとされています。
「娘は父親に、息子は母親に似る」といったうわさをよく耳にしますが、この根拠は科学的には解明されていません。
太るか、痩せるかといった体の特徴も遺伝します。ただし遺伝より環境が優勢になるとの報告もありますので、洋食や外食中心の食生活や夜更かしなどといった、親の悪習慣による子供への影響に気をつけましょう。
歯並びや骨格
骨格の80%は遺伝と言われるほど影響が強く現れ、顔のパーツの中で最も遺伝を受けやすいのが、あごの骨から形成される歯の形と言われています。
ただし現在では、子供の矯正や顎のトレーニングなどにより影響を減らすことも可能ですので、心配な場合は小児歯科や矯正歯科に相談するとよいでしょう。
遺伝子の中には身長を伸ばす働きをするたんぱく質の情報などもあり、遺伝的要因が大きく関係します。ただし1950年前後からおよそ10cm高くなった日本人の平均身長が、食生活やライフスタイルの欧米化により高くなっていることからも、食事などの生活習慣による影響がよくわかります。
子供の身長は病気や遺伝以外に「睡眠・栄養・運動」の3つの要素が大きく関係しますので、気になる場合は気をつけてあげましょう。
毛深さ
赤ちゃんが毛深くて驚くママが多いのですが、毛深さは遺伝によるものとも言われ、男性化に関わるたんぱく質などが遺伝情報に組み込まれています。
ただし赤ちゃんの場合、まだ産毛が残っているだけで次第に抜けことも多いです。
ちなみに、男性が悩む傾向にある髪の毛の問題ですが、これも遺伝による要因が大きいと言われています。
性格や行動
日本心理学会は、「子供の性格への遺伝は、遺伝子による影響を無視できない」としています。
一卵性(100%同じ遺伝子)の双子と、二卵性(50%同じ遺伝子)の双子が、違う環境と同じ環境で育った結果、性格的にどれくらい似ているかを比較した実験を行った結果、一卵性の子供は環境が違ってもそれほど変わらず、二卵性の双子の2倍も似ていたという結果になったのです。
ただし遺伝子には、例えば「神経質遺伝子」といった性格を決める個別の遺伝子はありません。性格や行動は心や体に影響を及ぼす様々な遺伝子の影響を受けます。ですから両親のどちらからも遺伝子を受け取る子供が、両親のどちらかと完全に同じ性格や行動をするとは言えません。
そのため性格形成や行動決定の50%は遺伝的要因、残りの50%は環境要因によるものと考えられています。(注4)
知能や学力
「知能指数の80%は遺伝する」と、行動遺伝学の第一人者である慶應義塾大学の安藤寿康教授は、著書「日本人の9割が知らない遺伝の真実(SB新書)」の中で紹介しています。IQの遺伝率には研究者によって諸説ありますが、遺伝率は半分ないしそれ以上と考えている研究者は多いです。
またゲノム解析の結果、74個の学業達成度に関係する遺伝子が見つかったという報告もあります。ただしそれでも学力差はわずか3.2%しか説明できません。
学力は環境による影響が関係しているとの報告もあり、遺伝が全てではないのも事実。小さい頃から子供の知的好奇心を刺激する環境(科学館や動物園によく連れて行く、本を読み聞かせるなど)を親が与えることが、子供の学力などに影響を及ぼします。
早期教育の結果、IQが高くなることは周知の事実。「知能や学力は遺伝するから」と決めつけず、学ぶ楽しさに触れさせて、IQだけでなく非認知能力なども高めてあげましょう。
運動能力
同じ筋肉トレーニングをしても、筋肉のつきやすい人とつきにくい人がいます。日本スポーツ振興センターによると、「筋量には遺伝的要因が強く関与している」とのこと。文部科学省のヒトゲノムマップでも、筋肉の収縮時に働くバネのたんぱく質情報などの情報が遺伝子に組み込まれていることが記されています。
そのため運動能力も遺伝が関係すると言えます。今後は遺伝子レベルで研究が進むことにより、近い将来子供に合ったスポーツを提案し、オーダーメイドで効率よくトレーニングを行ったり、健康維持のために必要な運動を提案したりできるだろうと考えられています。
ただし運動能力と運動神経は違い、運動神経は幼少期の取り組みによって鍛えられると言われています。
病気や障害
親から子供に遺伝する病気は数多くあります。例えばガン家系に多発するガンも遺伝による病気の一つであることが多く、「遺伝性腫瘍(家族性腫瘍)」と呼ばれています。
両親からもらった細胞のガン化を防ぐ働きがある「ガン抑制遺伝子」のうち、父方か母方のどちらかの遺伝子が正常に機能していれば、細胞のガン化を防ぐことができます。ところが先天的に両親のどちらかのガン抑制遺伝子が変異している場合、他の人よりもガンになりやすくなってしまうのです。
また日本小児科学会では、発達障害の中でも「自閉症スペクトラム障害」は遺伝性要因が強い疾患としています。(注5)
子供の遺伝子検査
子供の遺伝子調査は口の中を綿棒でこすって細胞を採取する口腔粘膜の他、爪や唾液などで検査が行え、インターネットや薬局で手軽に購入して調査ができるものもあります。
「子供の遺伝子を調べて、特性に合った教育をしてあげたい」と考える親は決して少なくありません。そんなママやパパに紹介したいのが子供の能力遺伝子検査キット。
ただし「遺伝子診断の要素を含むものは検査をしてはいけない」との規定があるため、知りたい内容によってはきちんと病院で検査を受ける必要があります。
子ども能力遺伝子検査
株式会社 DNA FACTOR
69,800円
学力、身体能力、感性の遺伝子検査を行うことがでるキットです。
子供の能力を効果的に伸ばしてあげるのに役立つ遺伝子情報を調べることができますが、診断ではありません。0歳から検査を行え、自宅で2~3分の作業で終了と、子供への負担もほとんどありません。
遺伝して欲しくない!相談できる医療機関
各都道府県の大学病院では、遺伝調査や相談への対応を行っています。
遺伝子調査をできる科や部門の名称は「遺伝科」「臨床遺伝医療センター」「遺伝子医療センター」など様々ですが、遺伝子調査が必要と感じられる方は一度お問い合わせください。参考のため都内の遺伝外来を3箇所ご紹介します。
東京大学医学部付属病院
TEL: 03-5800-8630
住所: 東京都文京区本郷7-3-1
「ゲノム診療部」では、遺伝性疾患や家族性腫瘍に関する悩みなどに、遺伝カウンセリングを行うなどして医療面及び心理社会面でのサポートを行ってくれます。
順天堂大学 医学部付属順天堂医院
TEL: 03-3813-3111
住所: 東京都文京区本郷3-1-3
「遺伝相談外来」では、遺伝子についての相談に、医師だけでなく遺伝カウンセラーが対応し、疑問の解決や情報提供を、ゆっくり時間をとって行ってくれます。
慶応義塾大学病院
TEL: 03-3353-1211
住所: 東京都新宿区信濃町35
「臨床遺伝学センター」では、他の病院で「遺伝病」などと言われて相談や検査を希望している人の相談にのってくれます。
先天性疾患や出生前・着床前診断、遺伝性腫瘍、皮膚疾患、耳鼻科疾患、循環器疾患が対象となっています。
参考文献