医療費控除の確定申告でお金が戻るかも!?2017年からの申請のポイント
「医療費控除の確定申告は1年間の医療費の合計額10万円以上で対象」と思っている主婦が多く、妊娠や出産で多額の医療費がかかる年以外は対象外だと思い込み、あまり病院にかからない家庭では申告をしていないことも少なくありません。
ところが2017年1月1日より新制度「セルフメディケーション税制」が導入されたことで、今年からはあなたの家庭も医療費控除の確定申告対象となり、返金があるかもしれないのです。
今回は、従来からの医療費控除や確定申告について分かり易く解説するとともに、新しいセルフメディケーション税制や確定申告に必要な書類、申告方法などについて詳しく解説します。
確定申告と従来からの医療費控除
新制度であるセルフメディケーション税制を理解するためにも、まずは「確定申告」と「従来からの医療費控除」についてしっかりと理解しておきましょう。
確定申告や還付申告とは
日本では総所得(給料や財産贈与などの収入の合計)に応じて、確定申告によって国に税金を納める義務があります。また、住んでいる都道府県や市区町村に対して個人住民税を納めなければなりません。
ただし、個人住民税は確定申告を行うことで税務署が市区町村に申告した内容を通知してくれますので、個人で市区町村への申告手続きを行う必要はありません。
サラリーマンの場合、会社が予測される所得税を毎月給与から徴収し、年末調整によって扶養・配偶者・保険の控除、毎月徴収してきた金額と実際の所得税の不一致の精算を行ってくれます。また、個人住民税に関しては会社が市区町村に給与支払額の報告を行います。
ただし、サラリーマンでもその他の所得がある場合や会社が源泉徴収を行わない場合には確定申告が必要です。
一方、高額な医療費の支払いや寄付、ローンを組んだマイホームの取得などで税金を納め過ぎている場合は、個人で還付申告を行うことで納め過ぎた税金を返還してもらうことができます。ただし年末調整と違い、自分で申請を行わなければ返還されませんので注意しましょう。
従来からの医療費控除
同じ収入を得ている納税者でも、各家庭の事情によってかかる医療費は違いますね。そこで国民の税負担を均一にするために、定められた金額以上の高額な医療費を支払った場合に所得税と個人住民税の対象額から差し引くというのが従来からの医療費控除です。
<医療費の負担割合が高い家庭の例>
- 小さな子供を扶養する家庭
- 家族に障害や持病などがある家庭
- 扶養家族が多い家庭
- 低所得の家庭 など
小さな子供のいる家庭の場合、乳幼児医療費助成制度の手続きを行うことで医療費が減額されますが、それでも子供特有の風邪などもあるため年間の通院回数が増える家庭が多く医療費はばかになりません。
病気治療のために生活費が少なくなった家庭から同じ税金を徴収するのでは不満が生じてしまいますので、従来からの医療費控除によって総所得から医療費を差し引いた額を所得税や個人住民税の対象として、税負担を調整できる仕組みになっています。
従来からの医療費控除の対象
主婦の中には「医療費控除=10万円以上の病院の領収書」と勘違いしている人が意外と多いのですが、実は他にも対象となる条件が色々とあり申告漏れしている家庭もあります。この機会に対象となる条件を確認し、可能な場合は申告を行うとよいでしょう。
従来からの医療費控除の対象条件
- 納税者が1月1日~12月31日までに自分や家族のために支払った医療費が対象額を超えている
- 対象額は10万円~200万円(ただし、治療費からその治療への保険の給付金や出産一時金などの収入を差し引いた額)
- 総所得が200万円未満の場合、総所得等の5%
- 病院に支払った治療費や処方された薬、風邪のために購入した市販の風邪薬の代金
- 出産のための入院で公共交通機関の利用が困難な場合のタクシー代(帰省費用は含まれません)など
- 妊娠の定期健診や検査費用
- 患者本人の通院費用、患者本人を一人で通院させるのが危険な場合の付添人の交通費
- 入院中の病院から出される食事代 など
従来からの医療費控除には健康管理にかけた健康診断や歯科健診の費用、病気予防や健康増進のための薬代は含まれていません。予防接種や健康診断をきちんと行い、軽度の症状による病院受診の回数を減らして医療費の負担を抑え、市販の薬などで健康管理に力を入れている家庭にとってはなんとなく不満が残りますね。
従来からの医療費控除による減税額
控除とは所得税の課税される所得金額から差し引くという意味ですので、控除の対象となった医療費控除申告金額がそのまま返還されるわけではありません。
従来の医療費控除申告額の算出方法
所得額が200万円を超える場合
支払った医療費の合計額-保険金等で補填される金額-10万円
所得金額が200万未満の場合
支払った医療費の合計額-保険金等で補填される金額-総所得額等×5%
※ただし、保険金等の金額は対象となる疾病の医療費より差し引き、保険金等の金額がその疾病への実際の治療費よりも多い場合は0円として、他の疾病で支払った医療費との合計を計算する。
従来の医療費控除によって減税となった所得税は還付金として返還され、個人住民税の減税額は次年度の個人住民税で調整されます。
減税額は納税者の所得税率によって異なりますが、所得税率は「課税される所得金額」によって決まっていますので源泉徴収票の各項目の金額を見ながら「課税される所得金額」を計算し、所得税率を調べて所得税がいくら還付され、個人住民税がいくら減税対象となるのかを計算しましょう。
- 課税される所得金額=給与所得控除後の金額-所得控除の額の合計額
課税される所得金額 (注1) | 所得税率 |
---|---|
195万円以下 | 5% |
195万円以上330万円以下 | 10% |
330万円以上695万円以下 | 20% |
695万円以上900万円以下 | 23% |
900万円以上1,800万円以下 | 33% |
1,800万円以上4,000万円以下 | 40% |
4,000万円以上 | 45% |
従来の医療費控除申告による減税額
- 所得税分=従来の医療費控除申告額×所得税率
- 個人住民税分=従来の医療費控除申告額×個人住民税率10%
従来からの医療費控除で返還される金額の計算方法を、モデルケースを使ってみていくと次の金額になります。
夫はサラリーマンで課税される所得金額は400万円、妻は専業主婦で扶養する子供が二人いる世帯。軽い風邪の治療のためにスイッチOTC医薬品を年間3万円購入し、他にも風邪やケガで病院を受診して治療や処方された薬の購入を行い、保険の還付金等はなく市販薬と病院及び調剤薬局の領収証や通院の交通費の合計が12万円の場合
(12万円-10万円)×20%=4,000円
2017年から変わった!新医療費控除制度
国民の適切な健康管理の増進や医療費の適正な使用を目的として、2017年1月1日~2021年12月31日までの期間限定で医療費控除に新しくセルフメディケーション税制が加わりました。セルフメディケーション税制は、日頃から適切な健康管理を行っている人が支払った一定額以上のスイッチOTC医薬品の購入代金を総所得金額から控除する制度です。
スイッチOTC医薬品とは?
医薬品には医師が処方する医療用の医薬品と、薬局で処方せんなしでも購入できる一般用医薬品や要指導医薬品があります。ドラッグストアなどで処方せんなしで購入できる薬は“Over The Counter=カウンター越しに買える”ということで「OTC医薬品」と呼ばれ、医療用医薬品と成分は同じなのにOTCに切り替えられた薬は「スイッチOTC医薬品」と呼ばれています。
セルフメディケーション税制でスイッチOTC医薬品として指定されている厚生労働省「セルフメディケーション税制対象医薬品品目一覧」を見ると、これまで病院に行くほどではない軽度の不調の際に活用した薬の名前が記されていると思う人が多いでしょう。これまでは10万円と上限が高いため医療費控除の確定申告外だった人も、セルフメディケーション税制では対象金額が1万2千円以上と低いため確定申告の対象となりやすくなりました。
日本一般用医薬品連合会はセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の対象製品パッケージに表示する共通識別マークを2016年6月に決定し、現在流通しているスイッチOTC医薬品のパッケージには「セルフメディケーション税・控除対象」のロゴマークが印刷されているものもあり、まだ印刷されていない商品も順次印刷されるようになりますので購入の際に確認しましょう。
また、薬局などで出されるレシートにもセルフメディケーション税制の対象品目であることがわかるように明示されますので、薬を購入した際のレシートに「セルフメディケーション税制対象商品」と書かれている場合は、レシートを保管しておきましょう。
セルフメディケーション税制の対象者
医療費控除の確定申告では、一人の納税者がセルフメディケーション税制と従来からの医療費控除の両方を申告することはできません。そのため納税者が一人の世帯の場合、従来の医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらかを選ぶ必要があります。
納税者が二人いる世帯の場合は、一人の納税者が家族全員分の従来の医療費控除による確定申告を行い、もう一人の納税者が家族全員分のセルフメディケーション税制による確定申告を行うというように、それぞれの納税者が確定申告を行うことができます。
セルフメディケーション税制の対象条件
- 納税者が1月1日~12月31日までに自分や家族のために実際に支払ったスイッチOTC医薬品の金額が、年間1万2千円(税込み)以上
- 確定申告者が保険組合や市町村が実施する健康診査、定期接種やインフルエンザの予防接種、特定健康診査や特定保健指導、がん検診などの健康保持増進への一定の取り組みのどれか1つを受けている
- 従来の医療費控除を申請していない
セルフメディケーション税制による確定申告の場合、全額自己負担の任意の健康診査は対象外となります。
セルフメディケーション税制の減税額
2017年からの5年間は従来からの医療費控除とセルフメディケーション税制の各々の減税額を計算してから確定申告を行った方がお得です。
セルフメディケーション税制の減税額
- 所得税分=(購入したOTC医薬品の合計額-12,000円)×所得税率
- 住民税分=(購入したOTC医薬品の合計額-12,000円)×個人住民税率10%
※ただし、購入したOTC医薬品の合計額が88,000円を超え得る場合は88,000円を上限として計算する
こちらも先程のモデルケースの家庭を例に見ていきましょう
夫はサラリーマンで課税される所得金額は400万円、妻は専業主婦で扶養する子供が二人いる世帯。軽い風邪の治療のためにスイッチOTC医薬品を年間3万円購入し、医療費等の合計は12万円だが、セルフメディケーション税制の確定申告をする場合
所得税分=(3万円-12,000円)×20%=3,600円
住民税分=(3万円-12,000円)×10%=1,800円
減税額=3,600円+1,800円=5,400円
この家庭の場合、夫がセルフメディケーション税制の申請を行うと、手元に戻る還付金は従来からの医療費控除より少ないのですが、個人住民税の減税額と合わせるとセルフメディケーション税制の申告を行ったほうが減税額は高くなるためお得です。
医療費控除の確定申告の期間
確定申告は例年2月16日前後から3月15日前後と期間が決まっています。住んでいる地域によって申告期間に若干の差はありますし、各地域で特設会場を設けて申請を受け付けていますので、詳細は国税庁か、お住まいを税務署に問い合わせてみましょう。
ただし、会社からの給与以外に収入がないため確定申告を行う必要がなく還付申告のみの場合、毎年確定申告が行われる時期以前にも申告できます。
また、確定申告の期間が過ぎると確定申告ができないというわけではありません。民法上は5年以内であれば確定申告で還付金の受け取りはできます。
医療費控除の確定申告に必要なものは?
従来からの医療費控除やセルフメディケーション税制の確定申告をするためには、どれぐらいの医療費がかかったのか、家庭の総所得額がどれぐらいなのかを書面で提出しなくてはいけません。それぞれの申請の際に必要なものをご紹介しますので、漏れなく準備しておきましょう。
従来からの医療費控除
医療費控除の確定申告をする場合には、次のような書面が必要になります。忘れずに持参しましょう。
従来からの医療費控除の申請に必要なもの
- 源泉徴収票(原本)
- 医療費や薬代を支払った際の領収書やレシート
- 生命保険等の還付金がわかる書類
- 交通費等申請対象となる費用の領収書
- 領収書がない交通費等の支払明細書
- 還付金を振込する金融機関の通帳か振込口座情報
- マイナンバーカード、またはマイナンバー通知カード(又は住民票の写しか住民票記載事項証明書)プラス免許証等の身元確認書類
医療費控除が受けられる医療費には、病院へ通うために使ったタクシーなどの交通費もふくまれますが、領収書がないものについては自分で支払明細書を作る必要があります。書面がない分は申請ができませんので、日頃から領収書はきちんと受け取る習慣をつけておきましょう。
セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制で確定申告をする場合には、次のような書面が必要になります。
セルフメディケーション税制の申請に必要なもの
- 源泉徴収票(原本)
- OTC医薬品を購入した際のレシートや領収書
- 健康診査や予防接種を受けたことを証明する書面
- 還付金を振込する金融機関の通帳か振込口座情報
- マイナンバーカード、またはマイナンバー通知カード(又は住民票の写しか住民票記載事項証明書)プラス免許証等の身元確認書類
確定申告で提出するレシートや領収書には、商品名や金額、販売店名や購入日、その医薬品がOTC医薬品であることが記載されているものでなくてはいけません。
またセルフメディケーション税制の条件となる健康診査や予防接種を受けたことを証明する書面としては、病院などが発行するレシートや領収書か、検査の結果通知書等を提出すれば大丈夫です。
医療費控除の確定申告の申請方法
医療費控除の申告には税務署や確定申告特設コーナーに出向いて申告する方法と、パソコンやタブレット端末からe-Taxを利用する申請方法があります。
特設コーナーや税務署で行う申請方法
確定申告特設コーナーや税務署には医療費控除入力画面がありますので、持参した領収書等を見ながら医療費などの内容を入力して確定申告書を作成します。
領収書等が多い場合にはその場で入力していると時間がかかるため、自宅のパソコンで国税庁「医療費集計フォーム」をダウンロードして集計を行っておくと申告がスムーズに行えます。
e-Taxによる申請方法
国税庁の「e-Tax」とは、パソコンやスマホ、タブレットにて税務署や確定申告特設コーナーに行かなくてもインターネットで確定申告が行える国税電子申告・納税システムです。
医療費控除の確定申告の場合、e-Taxで申告することで医療費の領収書や源泉徴収票等の必要な情報を入力すれば、領収書や源泉徴収票、マイナンバーの本人確認の提出や提示が不要になります。確定申告のe-Tax申告期間中は24時間申告ができますので、医療費控除の確定申告が楽に行えますよ。
ただし、事前にインターネット環境やe-Tax利用環境を整えたり、マイナンバーカードを取得したり、家電量販店でICカードリーダライタの準備が必要になります。
医療費控除の確定申告をスムーズに申請するポイント
セルフメディケーション税制の申請で気を付けなくていけないのが、間違ってスイッチOTC医薬品以外の薬品やおむつなどの衛生用品を合算しないことです。
また、従来からの医療費控除の申請にも、交通費や領収書などの書類をきちんと保管しておくことが必要です。
かかった医療費が多いほど明細書の記載や計算が面倒になりますので、年の初めから確定申告を意識し、医療費が発生するたびに記録をしておくと確定申告をスムーズに行いやすくなりますよ。